第百七十一小節:志望校
晩ごはんを食べ終わり、例年の如く、全員が、1階にあるライブ会場に集まった。
【グランドマイン】
【ペインツ】
【ラブラドール】
この順番で演奏をする。
チューニングをすでに始めている【グランドマイン】。配置は相変わらずで、真ん中にギター薫、右にキーボードサラ、左にベースセン、後ろにドラムムイ。
「おい、1年」
ガラガラの客席でバンドごとに固まっているなか、小村がそう言い放つ。
小村の隣の早崎(軽音楽部の顧問だよ)は、その声に驚いて体をビクつかせた。
それと同時に【ラブラドール】の全員が小村に顔を向けた。
「今から演奏する【グランドマイン】は、【ペインツ】の比じゃないくらいに上手い、うちの学校のトップのバンドだ。よく見て聴いとけよ」
「はい!」
海翔はその会話をしっかりと聞いてしまった。溜め息を吐く。
「はい! お待たせ! 【グランドマイン】です! では始めるよ!」
いきなりギターが難しいリズムを弾き始めた。
数小節でベースも、飛び飛びの音を、弾く。
その数小節あとに、ドラムがフィルインで入り、キーボードが高い音で旋律を奏でる。
そして、薫が口を開ける。
ここまでで1年生は、体の痺れさせるビートに驚きを隠せなかった。
自分たちとの、【ペインツ】との、能力の違いを感じさせるのだった。
しかし、その桁を、さらに増大させる、薫の歌声。
「すごい……」
つい、口から出る言葉。
海翔は、相変わらずの安定感に、楽しんで聴けていた。
葵とやっているくらいの安定感。麗奈とやっていると、絶対に味わえない安定感。
曲が終わる。豪快にして豪華だった。
1年生の拍手の華やかさ。他の拍手と比べたら段違いである。
「はーい! ありがとう! 1年生もいることだし、メンバー紹介いこうか!」
拍手が鳴りやむ。
「おーい! 志望校も入れれよ!」
小村が叫ぶ。
薫は苦笑いを浮かべた。
「あいわかりました。では私から」
そう言って手を高々と突き上げた。
「3年1組、都築薫、ギターボーカル! 志望校は国立音大!」
次に薫は左腕を横に真っ直ぐ伸ばす。
「同じく3年1組、早乙女蘭、略してサラ、キーボード! 志望校は早稲田大学!」
スゴい、そんな言葉が飛び交った。
顔を真っ赤にするサラ。
薫は左腕を下ろし、右腕を横に真っ直ぐ伸ばす。
「3年4組、赤羽扇、ベース! 志望校は電気通信大学!」
こっちでも、スゴいと声が上がる。
「最後!」
再び右腕を真上に上げる。
「3年4組、西郷夢意、ドラム! 志望校ってか、美容師になりたいそうです」
いきなり普通になったので、声が消えた。
「応援の程をお願いします! 全員合格するぞ!」
小村が拍手を始めると、全員が拍手を始めた。
「最後にもう1曲、いきまーす!」
薫が垂直に飛び、着地と共に、音が束になって飛んできた。
未来の希望を、それぞれまったく違う希望を、どんな困難があろうとも、4人束になって進んでいくと。
小村は思わずにやけてしまった。
みんな、頭いいんですね……