第百七十小節:着飾った景色
今年も合宿に着いてきている小村は、自部屋でタバコを吸いながら、机の前の資料を眺めていた。
「先生も、精が出ますね」
「お前もさっさと勉強しろ」
小村の部屋の中に入っていく、薫。
「旅行なのですから、良いじゃないですか」
ゆっくりと小村とは離れた位置に座る。
「合宿だぞ」
「私が旅行と言えば旅行ですよ」
小村はタバコを灰皿に押し付け、薫の方を向く。
「冗談は達者だな」
「まぁ、こんな性格ですし」
薫は面白くなさそうにそう呟いた。
「どうした?」
溜め息混じりに呟く。
「いいえ。なんでもありません。ここから見える、外の眺めは綺麗ですね」
意味深に呟く薫。
「確かに綺麗だな。まぁ、オレには着飾ってるようにしか見えねぇけどな」
「あら、酷い言いようですね」
「そうか? 素直な感想を述べただけだが」
「そうなんですか」
沈黙が起きる。
「私、判断を間違ったかもしれません」
「ボーカルなんちゃらの話しか?」
「はい。そんなこと、させなくても良かったんですが」
「オレはまずいと思うぞ」
キッパリと言い放つ。
「お前も何となく、アイツのこと、わかり始めてんだろ」
「なんのことですか?」
「アイツは、精神的にかなり一杯一杯のはずだ。そこに追い討ちをかけたんだよ。そのことわかってるから相談しに来たんじゃないか?」
「あらぁ、先生には敵いませんね」
薫は乾いた笑いを浮かべた。
「どうしたらいいですかね?」
単刀直入だった。
「知らん。オレに聞くな」
「酷いですよ」
「オレに言われてもわからんもんはわからん。神様じゃぁないんだからよ」
「ですよね。先生を過信してました」
薫は立ち上がる。
「湖にでも行って考えてきます」
そう言って部屋から出ていった。
小村はなにもなかったように、また、資料に目を通し始めた。