第百六十六小節:イチゴパフェダブルスペシャルハイパー
パフェ好きですか?
私は大好物です。
【ペインツ】はどうやら本当に近くのカフェに来たようだ。
扉を開けると、カランカランと古風な音が鳴り響き、店内から女性の「いらっしゃいませ」と言う言葉が飛んできた。
その女性は久しぶりで、見ただけでは、誰だかわからなかった。
「お、【ペインツ】のみなさん!」
「カナー!」
麗奈は仕事中のカナに抱きついた。
「おー、よしよし。もう夏休みかな?」
「夏休みだけど、あのハンプティーダンプティーが私の貴重な夏休みを奪うんだよ!」
「誰がハンプティーダンプティーだ!」
海翔がツッコミを入れたところで、【ペインツ】はカナに連れられ、ガラガラの店内の適当な4人用の場所に通される。
「ご注文承ります」
そう言って、エプロンのポケットから、メモ帳とボールペンが出てきた。
「なんか様になってんな」
「まぁね。もう3ヶ月くらいやってるし」
4人は各机に1つづつ置かれているメニューを、机の真ん中に開いて置き、覗き込むようにして見る。
「私、イチゴパフェダブルスペシャルハイパー」
いち早く注文をした麗奈。
「レナちゅん。そんなのない」
苦笑しながら答えるカナ。
「少しぐらい盛ってくれたっていいじゃん」
カナは後ろを向いた。そこには気さくそうな、笑顔で5人のやり取りを眺めていた、この店のマスターと呼ばれる人がいる。
カナは助けを求めた。
「カナちゃん。いいよ、そのイチゴパフェダブルスペシャルハイパー、作ってあげるよ」
「いいんですか!?」
「あぁ、久しぶりに楽しめそうだしね」
麗奈は歓喜の踊りを始めた。
「他は?」
「オレ、ブラックコーヒー」
「オレも」
「オレは、カフェラテ」
「マスター、イチゴパフェダブルスペシャルハイパー1つ、ブラック2つ、ラテ1つ」
その後、コーヒーとカフェラテはすぐに来た。
積もる話を始めた。
麗奈が苛々し始めてから数分後。
「はい、イチゴパフェダブルスペシャルハイパーおまち!」
出てきたのはとんでもなく高く積み上げられたアイスに、イチゴシロップがかけられ、そこに「ハイパー」とイチゴが薄くスライスさせて置かれていた。
「うわ、マジかよ」
「マスター、頑張りすぎ」
「召し上がれ」
麗奈の目が、獲物を捕える前の虎の目のように光らせ、スプーンをパフェに入れて、口にかけいれた。
パフェと格闘すること10分。
「もうダメ。頭キンキンする。気持ち悪い」
まだ半分残されている。
マスターの勝ちであった。
「普通の頼みゃぁいいのに」
海翔は麗奈のスプーンを奪い、残りのパフェを平らげた。
カナは名残惜しそうだったが、仕事だからしょうがなく、4人からお勘定をいただき、4人の帰宅を見送った。
「いい友だちだね」
「そうですね。今になって良さがわかってきましたよ」
「そんなもんさ」
日はどんどん沈んでいった。