第百五十九小節:白紙
海翔と葵は、葵の家で、新曲の練習をしていた。
作詞、葵。
作曲、海翔。
2人だけの曲。
創った理由は、新しいCDに入れるためだそうだ。瀬川がそう企てたのだ。
「大丈夫か?」
「うん。たぶん」
海翔がギターを弾き始める。
葵は歌う。
「そこ、Dに変えて」
「えぇ!」
まだ未完成だった。海翔にしては珍しいことだった。
「やっぱ、そこG、A」
「もう! 全然ダメじゃん」
「すまん」
海翔が顔には精力が感じ取れなかった。
葵は心配するが、仕事で〆切が近い。海翔も、必死だったのだ。
「よし、これでやろう」
「もっかい」
海翔が弾き始め、葵は歌う。
綺麗で、綺麗で、聴いている人の心の汚れを洗い流しているようだった。
「うん、いけそうね」
「よし、じゃぁ帰るぞ」
急すぎた。海翔はギターをしまい、担いで、そのまま立ち上がる。
「待ってよ! まだいいでしょ! 少し遊ぼうよ」
「まだ、完成してないんだって!」
「私と音楽どっちが大事なのよ!」
お互い声を荒げる。
「今は音楽だろ! これ出来ないとCDに入れる曲が少なくて、売れなくなるかもしれないんだぞ!」
「別にいいよ! 私は海翔と一緒に遊びたいの!」
「ワガママ言うなよ!」
「ワガママじゃないし!」
「じゃぁ、なんだって言うんだよ!」
葵は言葉を喉で止めた。
険悪だった。
こんなこと、1度もなかった。
「海翔に、私だけ見て欲しいだけ。本当に、心のそこから愛して欲しいの」
海翔はため息をついた。
海翔は座って自分を見てる葵に近づき、力強く抱き締めてキスをする。
「我慢してくれ。葵のためでもあるんだ」
そう言って出ていく。
葵の目の前にある、手書きの楽譜。それが涙でまだら模様になっていく。
「違うよ……。違うよ海翔」
楽譜の脇にあるノート、葵が書いた詞。その一文に『ケンカしたこともなかったね』とある。
「変えなきゃかな」
葵は徐に消しゴムを手に取り、歌詞を全て消しにかかる。
ノートを白紙に戻す。