第百五十三小節:座った眺め
朝、海翔と葵は麗奈の家の前にいた。
カナのメールのためだ。
海翔は息を呑み、ベルを鳴らす。
「どちらさまですか?」
「オレ、」
「新手のオレオレ詐欺?」
「お前、ふざけてるのか?」
海翔はため息をつく。
「当たり前じゃない。あ、ちょっと待ってて。今行くから」
ぶちん。
切れたようだ。
海翔は葵に目をやる。葵もキョトンとしていた。
「なんか、」
「簡単に来ちゃったね」
2人は麗奈の家のドアを眺める。
数分で出てくる。
「おっはよー!」
「あぁ、」
「なに? 元気ないじゃない」
「そりゃぁな」
「もう、行こ。レッツゴー!」
麗奈は1人で、駅への道のりを軽快な足取りで進んでいった。
海翔と葵は顔を見合わせたが、すぐに手を繋いで追いかけていった。
駅に着き、最寄り駅に着き、学校への登校道を歩いている。
「ねぇ海翔」
「あ?」
数歩前を歩いていた麗奈が急に振り返り、
「私の曲できた? 私だけでできる曲」
「あ? え?」
「ウソー! 忘れてたなんて言わせないよ!」
「すまん忘れてた」
「ちゃんと作ってよね」
「あ、あぁ」
麗奈は前に向き直し、進んでいく。
いつもより早く、学校に着いた。
ゆっくりゆっくり、教室に向かっていく。
麗奈は教室の扉を勢いよく開ける。
中には数人いるだけで、半分もいない状態である。
しかし、その人数でも、麗奈に向けられる白い目は、針のように鋭かった。
「入るぞ」
教室の一歩手前で立ち止まっていた麗奈の背中を押す海翔。
そのまま、教室の窓に近い、後ろから2番目の、数日主を失っていた席に着く。
「座れよ」
麗奈は頷いて、ゆっくりと座る。
久しぶりの眺め。
麗奈は少しだけ、頬を上げた。