第百五十二小節:カナメール
海翔は葵と共に、学校の最寄り駅からゆっくり学校に向かっていた。
いつも通りきゃぴきゃぴしている葵に、クールなんだか無関心なんだか眠いんだかで反応がない海翔。
葵の一方通行の会話に、海翔は頭を頷かせるだけだった。
そのまま学校に着き、相変わらず左隣のいない自席に海翔は座る。
もう、いないことに慣れていた。
「でさぁ、ライブが、再来週の日曜だからね」
「あぁ、練習は?」
「来週の金、土、日、再来週の水」
「オケ」
そう言うとすぐに、机に突っ伏した海翔。
そんな海翔の背中ををシャーペンで刺しまくる葵。
HRが始まる前だった。海翔の携帯が振動し始める。
海翔はおもむろにズボンのポケットから携帯を取りだし、内容を確認する。
「なになに?」
海翔は、メールの差出人を見て固まった。
「カナちゃんからだね」
葵も、その名前を見て言葉を慎重に呟いた。
今まで、連絡しても返ってこなかった相手から直々に、連絡を取ってくるとは思っていなかったのだ。
海翔は恐る恐る中身を開いてみる。
“突然でごめん。今まで連絡返さなくてごめんね。
今日、もし、レナちゅんが来てなかったら、向かえに行って欲しい。
向かえに行くのは今日じゃなくついいんだ。
明日でも、明後日でもいいから。
だけど、学校に行ってないようなら向かえに行って欲しい。
学校に行くきっかけを失ってる気がするから。
お前にしか頼りに出来ないからだのんだよ”
そこで終わっていた。
「カナちゃん、どうしたの?」
海翔はなんとなくの状況を把握していた。
「なぁ、明日向かえに行っていいか?」
「ダメって言ったら?」
「葵置いてっても向かえに行く」
葵はクスリと笑った。
「しょうがないけど、それやだから、許可してあげるよ」
「すまない」
「いえいえ」
携帯をポケットに戻す海翔。
「でも、ちゃんと、私たち付き合ってるって言ってよね」
「あぁ。言うよ。ちゃんと」
海翔は前を向く。その日の授業は、やけに難しく感じる2人でした。