第百四十九小節:紅の蝶
海翔と葵はデパートを出た後、昼食を取り、今は楽器屋にいた。
「久しぶりだねぇ」
「あぁ」
2人はギターがたくさん並んでいるコーナーを見ていた。
「ここで、あのアコギ買ったんだよね」
「そうそう。親が金出さないから、秘密でバイトして買ったんだよな」
ギターコーナーを出ると、楽譜コーナーがあった。
「あ、お前の曲があるぞ」
「ホントだ!」
海翔は胡桃の曲がつまっている本を手にとってパラパラと見ていた。
「私こんな歌い方してる?」
「気にするな。あくまでも目安だろ」
「ギターも、合図部分ちょっと変だし」
「気にすんなって」
「だって私の曲だし」
海翔は本を閉じて、本棚に戻した。
「むぅ。納得いかないな」
楽譜コーナーから少し外れると、クラリネットやトランペットなどが並べられているショーケースがたくさん並んでいた。
「私、フルートやってみたいんだよね」
「やりゃぁいいじゃん。金あんだろ」
「まぁそうだけど」
葵は苦笑いを浮かべ、そこを過ぎていった。
「なんだ?」
苺、パイナップル、とうもろこし、などなど、訳のわからないものが、壁にかかっていた。
「海翔、これなに?」
海翔はそれらを触ってみた。
「マラカス? とうもろこしはわかんねぇな」
「海翔でもわからないことあるんだね」
「まぁな」
海翔はそのまま、先に進む。
ドラムのスティックがたくさん並んでいた。
「こんなあるんだね」
「まぁな。一応1つの区切りが同じメーカーの物だけど、同じメーカーの物でも重さが違ったりするらしい。よくわからんけど」
へぇ、葵は数本のスティックを持つが、たしかにわからないようだった。
スティックの隣、そこにはピックがたくさん並んでいた。
「あ、私これがいい」
葵は蝶が書いてあるピックを取った。
「なんで、なんでよりによって」
海翔は呟く。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。
てかお前ギターできないだろ」
「海翔に使って欲しいの」
「それ持ってるよ」
「そうなの! 私の時は絶対にこれ使ってよね」
「あぁ」
葵は先に進んでいく。
海翔は置かれたピックを眺めた。
紅の蝶のピック。その隣に四つ葉のクローバーのピック。
忘れたかったのに、
どうしてこうも、
アイツのことが気になるんだ?
海翔はゆっくりと葵を追っていった。
デートは続いた。
ゲームセンターの、UFOキャチャーでマグロのキーホルダーを取ったりなんかして、2人は帰路についた。
「海翔、楽しかった?」
「あぁ」
そう答える海翔ひ明後日を向いていた。
葵は、きっと疲れたのだと思った。この時間が、今が、海翔が隣にいることが幸せだった。
この時のために、1年我慢したのだから。
いつのまにか2人は家の前に立っていた。
「じゃぁな」
海翔が繋いでる手を離した。
葵は発作的に海翔に抱きついた。
「どうした!?」
「少しこのままでいさせて」
海翔はなにも聞かなかった。
そっと、葵を抱き寄せた。