表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/216

第百四十六小節:愛妻弁当




あの日から1週間くらいが経った。


毎日のように学校に行っていた海翔。


2つの空席。


いつも隣にいた人がいない毎日が続いた。


それでも海翔は平常でいた。


平常でなければ、今後ろにいる、1番愛している、葵が苦痛を感じるに違いない。そう思っていたのだ。


カナは今何をしているのだろう。連絡はつかない。


メルアドは変えられていて、電話をかけても着信拒否されているのか、つながらない。


「別にオレはなんでもいいけど」


麗奈はどうしたのだろう。


カナが退学したと言ってから、音信不通だ。


「海翔、平気? ため息ひどいけど」


海翔は後ろを向く。


心配そうに見ている葵。


「やっぱり、麗奈ちゃんのことが気になるの?」


「別に、気にならねぇよ。それよりはらへった」


うん、葵はそう頷いて、バックの中から、お弁当を2つ取り出す。


「はい」


海翔は目の前に置かれた弁当箱をおもむろに開ける。


中身を見て、げ、と鳴く。


弁当箱の中身は、栄養面でも色合い面でも完璧なのに、弁当箱の半分を占めているご飯の上に、大きくピンクのハートが描かれていた。


「へへ、海翔最近元気ないから頑張っちゃった」


幼げに笑う葵を、海翔は固まって見た。


「早く食べてよ」


「あぁ、」


愛妻弁当とでも言うのだろうか。圧倒的存在感を醸し出すそれに、海翔はお箸を入れた。


ご飯を持ち上げ(ハートの1部分含め)、口に運ぶ。


「どう?」


「普通」


そのあと、海翔は迷いなくお箸を進めた。


普通、葵は落胆とも言える感覚にさいなまれた。


美味しいってお世辞でもいいから言って欲しかったようだ。


葵も海翔と全く同じ中身のお弁当を食べ始める。


「確かに普通だけどさぁ」


葵は無意味に呟く。


「なんか言ったか?」


「別になんでもないですよーだ!」


「なに怒ってんだよ」


「怒ってないし」


「怒ってんだろ」


「うるさいわね。早く食べて」


「うるさいのはどっちだよ」


「瀬川さんにチクっちゃうから」


「意味わかんねぇよ」


「あ! ご飯飛んだ!」


「わりぃ、」


「もぅ、お行儀悪いんだから」


「誰のせいだよ」


「海翔でしょ」


そんな調子で、昼食が終った。


2人だけ。特に問題はない。


麗奈が来ないことは、【ペインツ】として不味いことは、海翔だってわかっている。


「やっぱり、」


海翔は呟く。葵はそれに反応して、ん? と鼻で聞いた。


「なんでもねぇ」


海翔は視線を前に戻した。


まだ、前の授業の板写があり、誰が消すかわからないそれを見つめていた。


「確か、今日は、カナが消してたよな」


「ん? そうだよ」


海翔は無造作に立ち上がると、黒板に近寄っていき、黒板消しを手に取り、白や赤や黄色の線を綺麗に消していく。


葵はただ見ているだけ。


ダルそうに消していた。だが、性格なのか、粉さえ残らないほど、黒板消しさえ元の色に戻るほど、完璧に掃除をしていた。


終わるとすぐに手を洗いに行き、手をビショビショにして席に戻ってきた。


葵はビショビショの手に気づくと、バックからハンドタオルを出して海翔に投げつける。


「タオルぐらい持ってきなさいよ」


「なんでだよ、めんどくせぇ」


海翔は水を拭き終わると、ありがとうと言ってタオルを返した。


「海翔って変だよね」


「なにが?」


海翔は片眉を上げて間抜けに投げ掛けた。


「黒板は完璧に掃除するのに、手は拭かないし、ネクタイ微妙だし」


「余計なお世話だ」


そこでチャイムが鳴る。


「余計じゃないよ。彼女からして、もっと格好よくなって欲しいから、ほら、止まって」


海翔は後ろを向いたまま止められた。


葵は慣れているかのように、海翔のネクタイを外し、そのまま綺麗に結ぶ。


「はい出来た」


綺麗な三角形を首元に作られ、少し苦しそうにしている。


「キツい」


「我慢して。海翔はこっちの方が似合うから。あ、先生」


海翔は葵を睨みながら、前を向いた。


授業が始まる。


海翔は葵に気づかれないようにネクタイを弛めた。

海翔と葵、順調ですね。

初々しいですね。

なんかいいですね。


やっぱり2人はお似合いなんですかね……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ