第百四十四小節:悲しい音楽
バッ!
海翔は部室の扉を開けた。
やっと探し当てたのだ。
ダイゴと、カナと、薫。
「海翔、」
カナがガラガラになった声で呟く。
「さっきはごめん。ごめんなさい。あたし、また、」
「気にしてねぇよ」
そんなことより、
「薫先輩。まさかと思いますが、風紀委員として駆り出されて来たんですか?」
久しぶりに、その顔を見た一同。真っ黒で、前より少しだけ長くなった髪。
「そのまさかよ。むしろ、海翔くん。来るの少し遅かったみたいね」
ダイゴは壁を見たまま、硬直していた。
カナをよく見れば、涙目だった。ガラガラの声も、絶望に浸ったような感じもあった。
「薫先輩、率直に聞きます。カナは、」
「あなたの口から言わせるのは酷だわ」
海翔の言葉を遮る。
「保健室に行ってたんでしょ。なら小村先生に聞いたのよね」
薫はカナの方を向き、
「2年2組、出席番号7番、川崎加奈、風紀委員として改めて伝えます。校長、及び学年主任がだした決断は、暴行、過去の事件の件を含め、あなたが学校にとって、秩序を乱し、さらに人を傷つける危険性がある。故に、あなたを退学処分とただいま決定がありました」
カナは悟っていた、いや、聞くのは2回目なのかもしれない。やけに冷静で、それでいて晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
だけど、だけど、
「急すぎですよ。薫先輩」
海翔はそう呟いて、ゆっくりと薫の方に、カナの方に歩いていく。
「なんで、殴っただけで退学なんすか」
「私は言いに来ただけ。その返答には困るわ」
「先輩はなんで冷静でいられるんですか」
「仕事ですから」
薫の目の前に来て、海翔は涙を溢した。
「先輩なら掻き消せるんじゃないんですか!?」
「私がなんで、権力を行使しなければならないの?」
「だって、オレたち、仲間じゃないですか!」
「止めて!」
カナが叫ぶ。ボロボロ涙を流す。嗚咽が混じる。
「あたし……、せ……かく……受け入……れ……たのに……そんなこと……言われたら……離れ……たく……な……くなる……じゃん」
海翔の力んでいた気持ちが、一気に脱力する。
カナの言っている意味がわからなかった。
「申し訳ないけど、私は先生に報告書を出さなければいけないから、失礼するわね」
足早に部室を出ていく薫。
「なんでだよ」
喉を裂いて出てきた言葉。
「オレ、7人で卒業できると――」
「だから……止めて。……惨めだよ……」
「……ごめん」
沈黙。
嗚咽が微かに聞こえる。
「でも、あたし、嬉しい」
海翔は驚いてカナを見た。
「だって、みんなと会えたんだもん」
笑っている。不思議なものだった。
「楽しかったよ」
カナは部室から出ていく。
「あたしも職員室に行かなきゃ」
沈黙の部室。
無音。
音がうるさいほど鳴り響くはずの部屋が、無音。
海翔の心の叫びさえ、鳴り響かないほど、空気が震動しないほど、部屋が音を嫌った。
悲しい音楽が、ここで起きすぎた。