第百三十三小節:☆Spring concert☆
とうとう始まっちゃいました!
☆Spring concert☆
会場は満員を越え、熱気と声援で埋まっていた。
胸の下の方を抉るような低音が一線鳴りながら、段々と大きくなっていく。
不安と期待をかもしだすそれは、会場を黙らした。
舞台の両端から爆発音と共に花火が開く。
それと共に胡桃が下から飛び出してきた。
「始めての、出会いきっと」
強烈なインパクトをつけ出てきた歌姫が歌い始めた。
キャラ通りの明るい曲。
会場の人たちは、胡桃がリズム良く手を、上げたり下げたりしているのを真似していた。
最初の曲が終わって、すでに会場のボルテージは最高だった。
そのあと、胡桃のトークが入り、次の曲。
終わったらまたトーク、早着替え、次の曲。
それの繰り返しだった。
とうとう、次はあの曲だった。
「みんなぁ! つかれてるかぁ!?」
疲れていないという声が鳴り響いた。
嘘だ。
もうかれこれ2時間になる。
疲れていないはずがなかった。
「私は疲れたよ! 1曲バラード入れていい?」
いいよぉ、だそうだ。
「よし、じゃぁ、ニュースとかでもやってたけど、私、いや、<私たち>のデビュー曲、聞いてください。【好きですの言葉】」
会場から音が無くなった。
舞台上には胡桃、その隣に付き添うようにして海翔が、イスに座りながらあのアコギを構えていた。
大きすぎる舞台の中央にたった2人だけ。
「はじめまして
私は幸せです
こんにちは
あなたは幸せです
さようなら
離れたくないよ
ありがとう
君に返さなきゃ
好きです」
完全なアカペラを夜空のように美しく奏でる胡桃。
それを追って海翔がアルペジョを始めた。
「このままずっと一緒に
いる未来の私たち
あの太陽のように
綺麗だった日々を
暑い日も寒い日も
おんなじ部屋で
笑い合ったりケンカしたり
幼かった2人
手を太陽に向けて
透かしてみたの変でしょ
この手にあなたの手が乗り
変じゃないよと呟くあなた
毎日一緒に
いるのに不思議ね
1日1日の日々が
新鮮なの
左手の薬指
2人で見せ合う
白銀に光る指輪
好きですの言葉」
明るいのに、しんみりしていて、優しいのに、どこかけなされていて。
胡桃は泣いていた。
夢だった。
舞台でこの歌を歌うのが。
海翔に向けた思いをつづった曲。
その左手には白銀の指輪。
海翔もしていた。
「離ればなれ
会いたい気持ち
あなたはどうですか
私は耐えられません
意味もなかった人形
ゲーセンでとった人形
あなたの匂いが微かに
染み付いている
毎日不安で
プリクラ眺めている
電話しても必ず
無視されてすねている
白銀の指輪が
色褪せたと思う
でも変わらない声
好きですの言葉
やっと会える
駅で待つ私を
電車のガラスが写して
後ろに立っているあなた
振り返った私を
抱き締めて
好きだよ、と呟いた
だから返すよ
好きです」
一緒に終わった。
余韻がまだ響いていた。
舞台裏で瀬川が拍手を始めた。
それに続いて会場で拍手が起こり、次第に嵐のようになっていった。
いまだにこの感動に浸っていた胡桃。
「おい、先にいかねぇのか?」
海翔が叱咤する。
「少しは、待ってよ。」
海翔は左手の薬指についている白銀の指輪を見せつけた。
「最後までやりきるんだろ。」
胡桃はマイクをとった。
「あ、ありがとう!」
会場が震え上がるような歓声があがる。
「よぉし、セット換え!」
後ろでベースが次の曲の伴奏弾き始めた。
海翔はすぐさまエレキに持ち変え、ベースに続く。
胡桃は早着替え中。
次の衣装は、いわゆるお決まりの奴だった。
「いくよ!!
1・2・3!」
指輪、どうしたんでしょうか?