第百二十七小節:流れる
さてさて、久しぶりの登校。
2年になると慣れちゃいますよね。それで遅刻とか…
麗奈はいつものように時間ギリギリの電車に寝ぼけて乗っていた。
学校近くの駅で反射的に降りる。
そして、ゆっくりと登り階段を上がり、やけにだだっ広い改札を抜け、下り階段を降り、いつもの木のところに足を向ける。
「おはよう。」
「よ。」
「麗奈さんおはようございます。」
いつもより多い言葉と人影に、麗奈は一気に覚醒した。
「なんであんたがいるのよ!」
麗奈は飛び下がりながら葵を指差す。
「なんでと言われても。」
葵は勝ち誇ってような顔の頬に、右手を持っていく。
「そんなこと、後でいいか?
遅刻する。」
「え!そうなの!」
「いちいちうるさいわね!
つべこべ言わないでさっさと走る!」
麗奈が学校に向けて走り始める。
「ま、そう言うこと。」
海翔も麗奈を追いかけて走る。
「もぅ。もっと楽な時間にすれば良いのに。
わざわざ30分も待たなくても!」
葵も走り始める。
途中で海翔が麗奈を抜かした時、海翔は自然と麗奈の手を取った。
「相変わらずおせぇな。」
麗奈はよくわからない、前にも味わった事のある、胸の鼓動が高まりをみせる。
今にも転けそうな速さを必死に着いていく。
物凄く速く流れていく風景にたった1つだけ変わらない映像。
まだ、この手を離したくなかった。
いつのまにか、足を止め、校内にいた。
これでいつもならあの先輩がいびりに来るのだが、今日は来ない。
先輩はもう、受験に取りかかっている。
そういう事を語らずもわかることだった。
「おら、行くぞ。」
「うん。」
「久しぶりに走ったわ。」
3人は急ぎ足で、まだ慣れていない自分たちの教室に向かう。
教室にこの3人が一斉に入ると、教室内に変な空気が流れる。
二股、ホントは三つ子、姫と執事とペットの関係、いつしか味わった事のあるツッコミ満載の噂だ。
3人は各々の席に座り、麗奈は机に突っ伏し、海翔は次の授業の準備をしていた。
葵も授業の準備をしようとすると、そこにカナが寄ってきて、小声で話しかけてきた。
「ねぇ、クルミ…じゃなくて葵ちゃん。
☆Spring concert☆やるってホント?」
情報は自分が想像しているより早く出回る。
芸能界にでてわかったことである。
「そうよ。」
「ホントなんだ。絶対に見に行くからね。
デビュー曲も気になるし。」
その言葉に前の席の海翔が体をビクつかせた。
「う、うん。ありがとう。」
カナはそのまま自席に戻り、その直後に先生が入ってきた。
「起立、気を付け、礼、」
座る。
「海翔、ちゃんとやろうね。」
「あぁ。」
授業は始まった。
因みに薫先輩当分出てきません。
好きだった人すみません…