第百二十小節:ファン?
学年末テストが終わり、もう、先輩になり始める海翔たち。
新入生歓迎会でのご指名が入ったので練習を再開していた。
「こんなのやるの?」
「こんなのってなんだよ。」
「いや、珍しく明るい曲だなって。」
「新歓なんだから、バカみたいに暗い曲やっても歓迎されてる気がしないだろ。」
「海翔がこんなの選ぶなんて夏以来よ。」
「悪かったな。」
相変わらずの夫婦漫才にダイゴはため息をついた。
「おら、いつにも増して練習時間がねぇんだ。
さっさとやるぞ。」
「あいよ。」
「はいはい。」
海翔のファンなのか、【ペインツ】のファンなのか、廊下でちらほら覗いているやからがいることにダイゴは気づいた。
「海翔、あれ、お前のファンか?」
「てか、なんか変じゃねぇか?」
「なにが?」
「麗奈に比べて制服が綺麗。」
「悪かったわね!!」
「今何月だ?」
「3月の最後。」
「変だな。」
「だろ。」
海翔は扉に近づき、開ける。
そのやからは驚いて転けた。
「見せもんじゃねぇぞ。」
「す、すみません!」
「海翔、言いかたキツいぞ。
興味あんのか?」
ダイゴも海翔の後ろにつき、少女に聞いた。
「は、はい!
文化祭で聞いたときにスゴいなぁって思って、先輩みたいにやりたいなぁって!」
「先輩?」
麗奈は頭を傾けた。
「ひとつ聞くが、新入生か?」
「は、はい!
4月2日から入学します!
石川由梨と言います!
よろしくお願いします!」
海翔はダイゴを見た。
ダイゴも海翔を見た。
「ねぇ、なんか楽器やってたの?」
ユウヤが聞く。
「え、あの、その、」
「未経験なんだな。」
「はい。」
「麗奈。あれ弦変えたか?」
「あれ?変えたわよ。」
部室の隅っこにあるギターを見た。
「じゃ、ギターでも触ってみっか?」
「いいんですか!」
「おい、新歓は!」
「3日だろ。
ユウヤがなんとかなればなんとかなるさ。」
「ごめん。」
「麗奈、イス。」
「自分で出しなさいよ!」
「手伝えアホ。」
「誰がアホよ!アホ!」
「おまえだよアホ!」
「アホの海翔がアホなのよ!アホ!」
「バカどもいい加減にしろ!」
「誰がバカだ!」
「誰がバカよ!」
海翔と麗奈の怒鳴り声がハモる。
由梨は笑った。
海翔と麗奈はなにが起きたのかと由梨を見る。
「2人って仲いいんですね。」
「良くねぇよ。」
「良くないわよ!」
またハモる。
「そうなんですか。」
由梨は笑いが止まらなかった。
取り合えず、イスとギターを用意し、由梨をイスに座らせる。
海翔は真っ正面に座る。
「まず、右足を左足に掛けて。
そうそう。
麗奈ギター。」
「はい。」
由梨は麗奈からギターを受けとる。
「ひもかけなくてもいいけど、掛けたきゃ掛けて。
で持ち方はこう。
そうそう。
で右手のピックで上からジャランって。
そうそう。
麗奈チューニングしたか?」
「してないでーす。」
「ったく。
ちょっと待っててね。」
海翔は由梨が持っているギターのチューニングを耳で合わせる。
「こんな感じかな。
で、左手は、ここを押さえて……」
そんな感じで下校時刻が近づいていった。
「もうこんな時間か。」
「すみません。
忙しい中お邪魔しちゃって。」
「いやいいよ。
部員一杯連れてきてくれりゃぁ。」
海翔は冗談混じりに言う。
「海翔、1回ぐらい合わせようぜ。」
「ん?いいぞ。」
「聞いてって良いですか!?」
「どうする?」
「別にいいんじゃない。
減るもんじゃないし。」
「良いってさ。
あそこら辺に座りな。」
「あ、はい!」
海翔と麗奈とユウヤは由梨がイスに座る前に適当にチューニングをした。
「行くぞ!
ワン!ツー!」
その曲を聞き終わると、由梨は顔を火照らせとびきりの笑顔だった。
「今日はありがとうございました!」
「どういたしまして。」
「入部待ってるよー。」
「はい!絶対に入部します!」
由梨は海翔と麗奈と同じ帰り道だった。
3人は、他愛もない話しに花を咲かせて、帰っていった。
まさかの新キャラ!
てか、何用で来たのでしょうか?