第百十九小節:ケンカもすぐに
バレンタイン翌日。
海翔は朝いつものように麗奈を待っていたが、いつもの電車でも来なかった。
前にもあった事だが、こうなるとちょっとの事じゃご機嫌がとれない。
海翔はため息をついた。
そして駆け出す。
きっともう学校にいるのだろうと思って。
教室に着く。
1人分軽いと速く着けるようだ。
「なぁ、麗奈来てねぇ?」
「一緒じゃないの?
まだ来てないわよ。」
海翔はため息をついた。
「なにかあったの?」
「別に。」
海翔はやる気なしに自分の机の上にカバンを置き突っ伏せる。
カナは頭を傾けた。
そのあと先生が来てHRを終えたあと、麗奈のいない1日が過ぎていく。
そして、学校が終わった。
海翔はカバンを担ぎ、立ち上がる。
「大丈夫?
顔色ひどいけど。」
カナが心配してそう言う。
「平気だよ。」
答える海翔は明らかに元気がなかった。
「レナちゅんとなにかあったんでしょ。
力になるからさぁ。」
「なにもないっつってんだろ。
お前部活だろ。
じゃぁな。」
「ちょっと!
もう!」
海翔は足早に教室から出ていってしまった。
「あたしにも少しぐらい心開いてくれよ。」
カナはそう呟くと顔を真っ赤にした。
「いやいや、そう言う意味じゃなくてな!」
1人で訳のわからない事を叫んでいた。
「あたし、まだ……
いやいや、部活部活!!」
海翔は無意味に歩いているといつの間にか麗奈の家の前に来ていた。
「降りる駅間違えたか。」
引き換えそう。
足を駅に向ける。
が、麗奈が中にいるかもしれない。
そう考えるといてもたってもいられずに、チャイムを押した。
いつもは早いのに、今日はやけに長く感じた。
「どちらさま、」
かすれた声が機械から放たれる。
「お、オレ。」
「新手のオレオレ詐欺?」
「海翔だよ!」
「じゃぁ帰って。
合いたくないから。」
「話ぐらいさせてくれよ。」
「私は話したくない。」
「少しで良いから。」
「いや。」
海翔は舌打ちをする。
「勝手に入るぞ。」
「開いてないわよ。」
「じゃぁ開けろよ。」
「なんでよ。」
「いいから開けろよ。」
「だからなんで。」
「じゃぁなんで開けないんだよ。」
「合いたくないから。」
「わかったよ。帰る。」
海翔はそう言うと玄関の前の家の中からじゃ見えなさそうな位置に立った。
周りから見れば不審者だ。
カチャ。
鍵が開いた音がしたら、ドアが開き、毛布にくるまっている麗奈の頭が出てきた。
海翔の存在に気づいた時には遅く、扉と玄関の間に足を突っ込んだ。
「入るぞ。」
「帰って。」
海翔は勝手に入り、玄関と廊下の狭間に座る。
麗奈は毛布にくるまっているが、中身はパジャマのようだ。
目は赤くなり、腫れている。
声はガラガラで、文化祭での歌姫はどこえやらという感じであった。
「はやく帰ってよ。」
「じゃぁ教えろよ。
なんで休んだんだ。」
「こんな顔で行けるわけないじゃない。」
麗奈は出来るだけ海翔を見ないようにした。
「まだ怒ってんのか?」
「そんなわけないじゃない。」
「そうか。」
海翔は立ち上がった。
そのまま、麗奈に近づき、毛布の上から抱き締めた。
「ごめん。」
「なんで謝るのよ。
悪いの私だし。」
「オレも悪いよ。」
何秒かわからないが、その状態が続いた。
そのあと離れ、
「明日は来いよ。
テスト近いんだから。」
海翔の笑顔が輝きを見せ、出ていった。
「バカ。また目が腫れちゃうじゃん。
腫れたら海翔のせいなんだからね。」
麗奈はその場に立ったまま、半分放心状態だった。