第百十七小説:大凶
麗奈と美弥は海翔たちが待っている、玄関の外へ出た。
「あけおめ。ことよろ。」
出た矢先にカナがそう相変わらずの笑顔で言った。
「あけおめ!」
「明けましておめでとうございます。」
挨拶が飛び交った。
「で、なんのよう。」
「もう、海翔ったら。
わかってるくせに。
てかレナちゅんと一緒って。」
カナはイヤな笑みを浮かべた。
麗奈の顔が真っ赤になる。
「いらねぇ事考えてねぇでさっさと行くぞ。
初詣だろ。
府中のとこの。」
「せいかぁい。
さ、行こ。」
と言うことで一行は府中のとある神社に来た。
「なんでシナは着物なの?」
麗奈はその質問を投げ掛ける。
「なぜと言われましても。
お決まりと言うやつで。
回りの方も着ているじゃないですか。」
麗奈は辺りを見回す。
行列が出来ている一本道にちらほら着物を召した女性が見受けられた。
行列の外側に何故か屋台が立ち並んでいる。
「焼きそば食べたい。」
「おい、着物の話はどうなった。」
そんな感じだ。
シナとユウヤは手を繋いだまま。
麗奈と美弥は相変わらずいがみあったまま。
ダイゴは眺めるだけで、なにもしていなかった。
カナは笑いながらそれを眺めていて、海翔はため息が止まらなかった。
そして待つこと約1時間、7人はやっと本殿のお賽銭箱の前についた。
「長かったわ。
さぁてと。」
全員一斉に五円玉を投げ入れる。
そして手を2回叩き、各々の願いを胸に書き込んだ。
ほぼ全員が一斉に退き、
「おみくじ!」
と言うことで引く。
海翔、
「あ、大吉だ。」
「えぇ、大凶じゃないの。」
「えぇってなんだ!」
美弥、
「うちも大吉!」
「海翔軍強し…」
ダイゴ、
「中吉。」
「まぁまぁだな。」
カナ、
「去年も凶だった気が、」
「年初めはついてねぇのかお前は。」
「かもねぇ。」
シナ、
「末吉まずまずですね。」
ユウヤ、
「並ってなに…」
全員がユウヤが引いたものを見る。
「レアもんか?」
「むしろ奇跡だな。」
「今年の運使い果たしちゃったりして。」
「あり得るわねぇ。」
「ユウヤ…」
「いやいや、普通って事だしね。」
「まぁな。」
「そういえば麗奈は?」
「え、私。
ま、まぁまぁよ。」
「見せろ。」
「イヤ。」
「さては悪かったな。」
麗奈はうつむいた。
「図星か。
なんだったんだ?」
麗奈は大人しく見せた。
「大凶。
自分が引いたか。」
「あぁ今年はもうダメなんだぁ!」
「麗奈、大凶を引いたことが今年最大の不幸ですから、もう不幸はありませんよ。」
「だって、待ち人は去るでしょう、どの方角も鬼門となるでしょう、高いところは注意しましょう、勉強ははかどらないでしょう、なくしものは戻ってくることはないでしょう。」
「とことん言われてんなこれ。」
「むしろ大凶ってあったんだ。」
「奇跡っちゃぁ奇跡だけどな。」
「まぢへこむはぁ、」
麗奈はため息をついた。
その影響で吸った空気に焼きそばの香りが漂っていた。
「焼きそば!!」
麗奈は飛び付くように焼きそばの屋台に走っていった。
「あの変わりようなんだ。」
「さぁ。ま、元気になったんだからいいんじゃない。」
「追いかけないと見失うぞ。」
「うわ、待て麗奈!」
海翔は麗奈を追いかけていった。
「あ、お兄ちゃん!逃げるなぁ!」
美弥は海翔を追いかけていく。
「逃げてはないと思うけど。」
そのあと、麗奈は焼きそば、たこ焼き、ジャガバター、いかやき、ポテト、ラムネ、りんごあめを買い、食いつくした。
それでいつの間にか暗くなっていた。
カナたちと合流し、現地解散になる。
麗奈もいったん海翔宅に行き、晩御飯もいただく。
そして荷物をまとめ、
「1日ありがとうございました。」
「いいえ。
いつでも来ていいわよ。
ね、美弥。」
「うちは二度とごめんよ。」
「ま、この子もなついたみたいだから、いつでも来てね。
大歓迎だから。」
「本当にありがとうございます。」
「じゃ、気を付けてね。」
「か、海翔は?」
「お父さんと飲んで潰れちゃっみたい。
2階で寝てるわ。」
「そうですか。」
「起こして送らせようか?」
「大丈夫です。
では、ありがとうございました。」
「あ、気を付けてね。」
麗奈は1人で自宅に戻る。
自分で甘酒を作り、仏壇に甘酒の入った湯飲みを2つ置いた。
「ごめんね。
またいっていいかな。」
線香の煙がゆらりと揺れた。
並って本当にあるんですよ。
私引きましたし。
大凶は見たことありませんがね。
あるんですかねぇ。