第十一小節:ムカつく気持ち
放課後。結局2時限分上の空だった麗奈。放課後になり一気にやる気が沸き起こる。
「海翔、ダイゴ、ユウヤ、さっさと部室行くわよ!」
ホームルーム(HR)が終わった瞬間、3人の方を向いていつものように威張りながら人指し指だけを向ける。
「焦るなっつうの。」
だるそうに頭を掻く海翔。
「焦ってないわよ!歌いたくてウズウズしてるのよ!」
麗奈の体から吹き出る熱量。海翔にとっては熱すぎた。
部室に引っ張られた3人。とりあえず定位置に移動する。
「なぁ麗奈。やら…」
「やるわよ!ダイゴ、スティック!」
「お、おぅ。」
スティックが3つ鳴る。
「チューニングしてねぇよ!」
「あと五秒!」
海翔とユウヤが無理矢理止めた。
「早くしなさいよ。12345。」
5つ数えるのが1秒だった。
「はえぇよ!」
「スティック!」
また3つ鳴る。ギターがアーフタクトで入りそれに続いてベースとドラムが8ビートで刻む。
久しぶりなのだ。ほとんど海翔がいなかったからフルでやらなかったのだ。
イントロが終わり歌が入る。
「あ゛な゛た゛…」
「やめろ!!」
完全に曲が止まった。ダミ声、音程はずしまくり、リズムなんてまったく無視。海翔は耐えられなかった。
「落ち着けよ。力入りすぎ。薫先輩はこんなこと無かったぞ。」
またダルそうに頭を掻く。目線は麗奈の所に無かった。
「もう一回やろうぜ。」
スティックが2つ鳴った所に叫び声が入る。
「海翔のバカ!!」
そのまま部室から出ていってしまった。
「おい、海翔!」
「薫先輩はNGだよ。」
2人が責める。
「でも、あれはないだろ。」
「一言多いんだよ。早く追っかけなよ。」
「なんでオレが、行かなきゃいけねぇんだよ。」
ダイゴがドラムセットから立ち上がり海翔に近づく。
「海翔、素直になれ!」
「素直だっつうの!」
「海翔!」
ダイゴは海翔の顔を殴る。海翔は吹き飛びアンプに当たる。
「お前はやっぱりバカだな。お前とはやれない。」
ダイゴも部室から出ていく。ドアを強く閉めて。
「大丈夫か?」
ユウヤが海翔に近づいてくる。
「くそ!」
海翔はアンプを強く叩いた。
「どいつもコイツもなんだよ!」
麗奈は校門を出ようとしていた。地面のタイルが過ぎていくのを眺めながら、足早に歩く。
「どうしたの?麗奈ちゃん。」
目の前に影が出来た。薫の声だ。とりあえず止まる。
「涙が流れてるけど。なにかあった?」
麗奈は歯を悔い縛る。沈黙を保った。
「もしかして、海翔君と喧嘩した?」
その瞬間麗奈は強い怒りをいだいた。鬼のような顔で薫の顔を睨む。
「あはは、私はなにもしてないよ。一緒に音楽しただけ。」
勝ち誇った顔。麗奈を見下すようなその言葉。
「諦めたら。海翔君とはあわないのよ、あなたは。」
その言葉を聞いて麗奈は走る。目の前の薫を押しどかして。駅まで全速力で。
苦しい胸。涙で上手く前が見えない。この道、こんなに長かったのかと思いながら走る。
だって、いつも必ず隣に貴方がいた。なんだかんだで。
でも、海翔は薫先輩を選んだ。負けた?そもそも始めから勝ちは無かったんじゃないか。
力尽きた場所が楽器屋の近くにある公園だった。
「麗奈ちゅん?どうしたの?」
そこにカナが通りかかった。公園の中に入る2人。誰もいなくなった公園。夕陽によって悲しく見えた。
「はい。炭酸飲めるよね?」
麗奈は頷く。カナは麗奈に缶ジュースを渡し、麗奈の隣に座る。
カナはお茶を一口飲む。
「どうしたの?ヒドイけど…顔。」
麗奈はブレザーの袖で顔をおもいっきし拭く。
「ははは。」
腹を抱えて笑うカナ。
「笑うな!」
「ごめんごめん。でも…」
笑い止まない。そのうち麗奈もそんなカナが面白くなってしまい笑い始めてしまった。
「笑ったね。」
「へ?」
カナは立ち上がり麗奈を方を向く。
「なにも聞かないけど、笑ってた方がいいよ。泣いてたら幸せどっか行っちゃうから。」
と言って右手を麗奈に差し出す。麗奈はそれをとり、立ち上がる。
「まぁ、言いたいってなら聞くけど。帰ろ。」
2人で帰る。始めてかもしれない。
今日の出来事を朝からカナに言う。
全部言い切る前に駅に着いてしまった。
「とにかく、あのバカがウザイんだな。」
「そうよ。次あったら一発殴ってやる。」
もう大丈夫だろう。カナはそう思った。
「ジュースはおごりにしてあげるから、あたしになにかあったらよろしくね。」
カナもまた反対方面だった。駅でお別れ。
「じゃぁね!」
「また明日!」
2人は手を振りあった。
仲直りするのでしょうか…