第百七小節:痛い
もうクリスマスも目の前だった。
テストも終わり、特にやることもない授業をしっかり受けている。
午前中に授業は終わるのでそのあとは部活のし放題だった。
クリスマスライブも近いので、全バンドがフルで練習を入れていた。
【ペインツ】もそのなかの1つにしか過ぎなかった。
文化祭で評判が良すぎ、期待され過ぎている【ペインツ】は曲のレベルを上げ過ぎ完成度が低い。
「ごめん。
もう一回。」
さらに麗奈がギターを始めたことで、やらなければならないことが増えていた。
このままでは、確実に完成しない。
海翔はそう考えていた。
「よし、ダイゴもっかいいこう。」
「おう。」
ダイゴがスティックを叩く。
いきなり歌から始まる曲。
8ビートで簡単めなのだが、左手がついてこない。
明らかに違う変なコードを弾いてしまい麗奈は自分で止める。
それを繰り返していた。
「ごめん。もう一回。」
「休憩。絶対に楽器に触るなよ。」
海翔の変な指示だった。
海翔は基本的に休憩をいれない。
いれたとしても自分はギターを弾いている。
が今日はそんな指示を出した。
4人は楽器を置き、適当に動き回ったり座り込んだりしていた。
海翔は動き回ってる麗奈に近づき、いきなり左腕を掴む。
「いっっっ!」
麗奈は余りの激痛に腕を引いた。
「なにすんのよ!!」
「触っただけだ。」
麗奈は首をかしげた。
その言葉にユウヤは反応した。
「麗奈大丈夫!?」
「平気よ。強く掴まれただけだし。」
海翔はため息をつく。
「だから触っただけだ。」
「嘘よ。あんな痛いはずが…」
そう言いながら、自分の左腕を右手で触った。
「いっ!
なんで。」
「肉離れだバカ。
よく動いてんな。
ちょっと待ってろ。」
海翔は部室から出ていった。
麗奈は泣きそうだった。
「あんまり触らないでね。」
「うん。」
「大丈夫だよ。」
「うん。」
「うん。」
ユウヤはどうすれば良いかわからなくなった。
「楽器に触るなとは言われたが、口を動かすなって言われてないぜ。」
ダイゴがそう言う。
ユウヤは首をかしげた。
「ったく。歌なら練習出来んだろ。」
ユウヤは閃いたように首を戻す。
「麗奈、歌だけでもやってる?」
麗奈は目を閉じた。
ユウヤはすねちゃったかと思ってあたふたしていた。
「太陽と雪が交わり
金色に光る雪の
降る場所を眺めて
あなたがそこにいると願ってる」
急にさらっと歌った。
そこはハモりパートで単品で聞くとおかしなフレーズにしか聞こえないはずなのに、ハモりが旋律に聞こえてしまう。
ダイゴとユウヤは開いた口がしまらなかった。
そこに海翔がシップを無数に持って帰ってきた。
「どうした?」
そう聞くのも無理はない。
麗奈は一筋の涙を流し、2人は口をあんぐり開けて麗奈を見ているだけなのだ。
行動が矛盾しまくりなのだ。
「ま、いっか。
麗奈、左腕出せ。」
海翔は叩きながらシップを張り始めた。
麗奈の泣き叫ぶ声は校舎内をぐるぐる回った。
一通り終わると、
「もう無理すんな。
無理そうなら諦めろ。
あんまりやり過ぎると左手、動かなくなるからな。」
麗奈はコクりと頷いた。
「よし、じゃぁ始めんぞ。」
海翔が号令をかけると、全員が定位置につき、練習が始まった。
そんなに強く握らないはずなんですけどねぇ。
力が弱いのかな?
にしても大丈夫でしょうかねぇ?