第百四小節:ギターと歌
麗奈と海翔はギターの練習を始めていた。
麗奈まだ微妙だが、ゆっくりなら曲通りに弾けるようになっていた。
海翔は貰った楽譜と、自分達のやる3曲の譜読みを始めていた。
他の2人は珍しくいなかった。
「ねぇ、ここってこう?」
「違うよ。こう。」
2人は触れるほど近くで肩を並べて、同じ楽譜を眺めていた。
「ここまで一緒にやろう。」
「おう。」
海翔は近くにあったメトロノームをゆっくりでならし、
「1、2、3、」
2人で未完成な曲を始める。
麗奈はリズムを刻んでいるだけで、海翔は難しいパッセイジを軽くこなす。
「ストップ。
お前歌えよ。」
「弾きながら歌えない。」
「その練習もかねて。
もいっかい行くぞ。
1、2、3、」
また同じように始める。
「雪を見ていただけ
ただそれだけであなたを思い
なにもできなかった
あなたがいないから」
Bメロの麗奈のソロ。
海翔のギターが合いの手のように入り、2人の息合わせが大変重要になっている。
が麗奈は歌うと、コードを間違え、コードを戻そうとすると声が小さくなってしまう。
海翔はまた止め、頭を抱える。
「ごめん。」
「大丈夫だ。
慣れるまで何回でもやるか。」
また同じところを始めた。
そして、やっと慣れてき始めた頃だった。
「私も入れてくださる?」
海翔と麗奈はビックリする。
入り口の方を見るとギターを持った薫が2人に向かって歩いてきた。
「ダメかしら?」
「だ、大丈夫ですが、まだ、」
「大丈夫。私も初見だから。」
「むしろ大丈夫ですか?」
「私のパートは刻みだけだから。
海翔くんよりは楽よ。
それに、慣れてるし。」
「わかりました。
じゃぁ、1、2、3、」
ギターの3人は弾き始める。
始めから最初のサビまで。
2人は刻み、海翔のソロがすんなりと心に入ってくるような音色で奏でられていた。
「一面の銀世界
窓から見える世界
まだ寝間着の私は
布団に籠ったまま
寒さ堪える朝
心も寒くて
なにもしたくないと
呟くと白い息が
雪に変わっていく」
「雪を見ていただけ
ただそれだけであなたを思い
なにもできなかった
あなたがいないから
永遠に一緒だよと
言ってくれたのは気のせいで
なにもしてくれない
あなたがいても」
『どこに行ってしまったの
冷たく濡れる枕に
顔を埋めながら
あなたがいないと強く思い
太陽と雪が交わり
金色に光る雪の
降る場所を眺めて
あなたがそこにいると願ってる』
3人は口も手も止めた。
海翔は左手首を宙で振る。
「クリスマスっつったらラブソングが王道ですけど。」
「王道も好きだけど、たまには邪道に走るのも良いじゃない。
聴いたとき体に電撃が走ったの。
理由はそんな感じよ。」
薫は立ち上がる。
「もう二度とやりたくない曲ですよ。」
海翔はあっさりとそう言う。
「私もそう思うわ。
歌ってるだけで胸が痛いもの。
じゃ、私は。」
薫は出ていった。
海翔は泣いている麗奈の肩を抱いた。
「まったく、感情移入し過ぎだよ。
それがお前の良いとこだけど。」
ボロボロ泣く麗奈を抱き寄せ、胸を貸す。
歌って泣ける人はいますか?
聞いた話ではそのくらいしないとプロにはなれないと…
ホントですかね…