第一小節:結成
『貴方だけのおひめさま』を読みに来ていただいてありがとうございます。
それではお楽しみください。
「私はお姫さまなの。それ相応の対応をしてよね」
自己紹介の時にそう語る背は低い女の子。
当たり前だがクラス全体の空気が固まった。
その少女の隣の席の男子も口をあんぐりあけながらその少女をガン見してしまった。
これが美島麗奈との出逢いだった。
この物語の主人公である高尾海翔も勿論麗奈の事を変人だと思ったのだろう。
開いた口が塞がらないとはこの事だ。
しかし不運な事に隣の席だった。
麗奈が目線を海翔に向ける。
目が合わさる2人。
その時に麗奈は一目惚れをした。
そう、海翔に。
無事?高校生活が始まる海翔は自宅に着きすぐに隣の席の変人の話をした。
「目立ちたいんだよ」
笑いながらそういう姉。海翔もそう思っている。というよりそうとしか思えない。
「まぁいいじゃない。面白そうな子がいてさ」
「なに言ってんだよ、母さん。すげぇめんどいんだぜ」
海翔を茶化すように喋られるその口調に少し苛立つ。
その日はもう寝る事にした。
この後、高校3年間、波乱万丈な生活になるとは知らずに。
翌日。
海翔は麗奈の事が気になりすぎていたせいで、麗奈の反対と後ろの席を見ず、男だったと今日知った。
その後の思考回路は単純だった。
友達にしよう。
簡単に友達は作れるみたいだった。
隣の席はダイゴ、後ろ席はユウヤと言う。以外と趣味が一緒だった。
それは軽音。
海翔はギターが得意。ダイゴはドラムが出来、ユウヤはベースが出来る。こんな珍しい事があるなんて3人は思わなかっただろう。
高校生活の醍醐味である、どの部活に入る、は考える必要が無かった。
仮入部も全て軽音に行き。当たり前のように軽音楽部に入部した。勿論3人でバンドを組む。
しかしそこで番狂わせが起きた。
3人とも歌うのが下手なのだ。最悪だった。ヴーカルがいなければ曲にならない。早急に探すが、ほとんどが他のバンドと組んでいた。
そして、唯一のあまりはあの変人だった。
3人は相談をする。メンバーにアイツを入れるか、それとも頑張って歌を練習するか。悩んだ。
「ねぇ、」
そんな悩みを一言で切った。
「私を入れなさい」
人差し指を海翔たちに向けてそう言った。3人は唖然とする。
「聞こえなかったの? 私をバンドに入れなさい!」
そして麗奈は無理矢理バンドに入った。3人の意見は完全に総無視。
溜め息さえも吐く暇を与えなかった。
しかし嬉しい誤算はあるものだ。
そのあと、誰もが知ってる曲を合わせてみたら、麗奈の歌は予想以上に上手い。
よく聞けば中学は合唱部に入っていたらしかった。
「なぁバンド名どうする?」
突然ユウヤが聞く。
全員は悩む。
「こんなのどう!? 麗奈と楽しいなかまたち」
「却下」
3人同時に答える。
「じゃぁ、麗奈withアニマル」
すでに人間扱いされていない。勿論却下だ。
「こういうのは? プリンセス」
意外とダイゴが言う。
「3人は男だぞ」
そっかと。いがいと天然?
「これは? ペインツ」
塗るの? と批判。海翔は返す。
「そう。うちらのバンドで心に虹を架けてやりたいから」
「愚民のクセにいいじゃない」
いちいち引っ掛かる言葉を麗菜。海翔は熱くなる感情を抑える。
「じゃぁ、」
「決定!」
そして、忘れる事が出来ない『ペインツ』の三年間が、海翔と麗菜の歌劇が流れ始めるのでした。