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16.可愛い王子様

 アルノートのフォローをしようとアルノートに近づいて頭を下げさせたのに何故かさらに状況は悪化してしまったらしくセナ王子の綺麗な顔がピクピクとひきつり眉間に皺まで作って怒りを鎮めようとしているのかギュッと目を閉じている。


「既に…今…適切な距離を保ててはいないようだが…あ〜っもう。良いからこっちへ来いユリアナ」


 セナ王子は大きく唸り私の腕をガシッと掴むと自身の胸に隠すように私をギュウッと包みこんだ。


「あ〜あ」


 後ろからつまらなそうに嘆くアルノートの声がした。それを眉を寄せてセナ王子が威嚇するように見つめている。そんなセナ王子をまじまじと見上げていればふとセナ王子が下を向いて私と目線があった。


「っーー」


 抱き寄せられているこの距離感もあってキュンと心臓が小さく疼いた。

 それを見破ったかのようにセナ王子が蕩けるような笑みを向け囁いた。


「ああ、真っ赤になって…可愛いな」


 チュッと音がして額にやわいものがあたった。


(あっ…デコチューされた…)



 思わず額に両手を当てセナ王子を見上げると、そこにいる三人が奇跡的にも同時に声を合わせた。


「「「その仕草かわいいな…」」」


 至近距離にいるセナ王子は自身の従者であるリトの失言にガバリと振り向き彼を睨めつける。

 彼は『しまった』と顔に書いてあるようなわかりやすく動揺した面持ちで騎士など武臣がする礼をとり頭を垂れた。


「失礼しました。不意打ちでつい…」


 その様子を見てかアルノートが壁に持たれて足を組みながら彼を擁護する。


「いやいや、今のはしょうがないよ。むしろ婚約者なのに余裕ないな殿下は。心狭すぎでしょー」


 セナ王子がムッとした顔をしてアルノートに目線を移した。そうして私から身体を離したが両手はまだ私の肩を抱いたままで反論する。


「婚約者だからこそ、他の男に可愛い所を見せたく無い!とゆうかアルノート、だったな。

お前は主であるユリアナを可愛いとかそーゆう目で見るな、純粋に職務のみ真っ当しろ」


 それを聞いたアルノートがバカにする様に鼻で笑い肩をすくめてみせる。



「いやいや、お嬢に使える人間がそれを我慢できる訳無いでしょ。シンフォニア公爵家の使用人なんか僕より信者めいてるよ。僕はただ可愛い主だな〜て思ってるだけで夜のおかずにもした事ないんだから健全そのものでしょ」


(主である令嬢の前で何いってんだアルノート…いや、おかずにしてないならいいんだけど…いいのか?)


 そんなアルノートの言葉に共感を持ったのかは知らないが、突然従者の彼まで口を出す。


「…確かに。個人的な感情を心に留め置くくらいは許されてしかるべきだと私も思いますね。影や従者だからといって、同じ人間ですから感情を押し殺すにしても限界はあります。同じ立場の身としては、そーゆう感情と忠誠心は隣り合わせのような物ですし、殿下のように使役する側のお方は下々の事は気にせず、どーんと構えていらっしゃればよいのではないでしょうか?」


 アルノートも彼の言葉に同調して横でそーだ、そーだと追い鎚をうつ。


 私はと言えば、彼らの言わんとする事は最もだ。と思いつつも、ここで私までも同調するべきでは無い気がしたのでセナ王子の私を掴む手の力が弱まった所でさりげなく抜け出し、アルノートがもたれる壁と反対の壁側まで寄り出来るだけ気配をけし傍観する事にした。


 二対一で何故かこの場で一番偉い人なのにセナ王子が責められるような状況に陥ってるのを内心おかしくないかと思いながらこの国で三番目に偉い権力者だとわかっていてこの態度な二人の男を交互に見つつ、もはや何処からの不敬を注意するかすらこんがらがって、私はこの場にグレアムが来てくれたら良いのにと切に願った。


 その願いが通じてか前方の薄暗い回廊から足音と共に人影が現れた。


「…何を遊んでいらっしゃるんですか?殿下は」


「グレアムか?」


 セナ様の安堵するような声色にセナ様も収集がつかなくて焦っていたのが垣間見える。


「兄上、僕を待たせてこんな所で従者と立話など、ユリアナ嬢をご覧下さい、このように冷える回廊の片隅で待たせるなどお可哀想ではございませんか。」


「ノア殿下…」


 グレアムの後方から彼の胸のあたりの背丈のノア王子が背筋をぴんとはり幼いなれど凛とした面持ちで私へ歩みより私の手をそっと引き壁から離した。


 金髪碧眼でセナ王子を小さくしたようなそっくり加減だが十歳にしては大人びた印象だ。


 由梨としてははじめましてなノア王子をまじまじと観察しながらも膝を曲げドレスの裾を持ち挨拶をする。


「ノア殿下、お久しゅうございます。

 本日は突然の晩餐の同席をお許し下さりありがとうございます。そしてお待たせしてしまい申し訳ございません。」


「ユリアナ嬢が謝る事はございません。

 薄着のレディを置き去りにして話しに夢中になり時をお忘れになっている兄上がいけないのです。兄上、どのような話しかはわかりませんが、婚約者を蔑ろにして話しこむなど、紳士のなさる振舞いではございません。彼女に謝るべきです」


 兄であるセナ王子にも臆する事無く落ち着いた口調でノア王子がセナ王子を諌める。それにセナ王子が焦った様子で反論する。


「違うんだノアこれには理由があってだな、けしてユリアナを蔑ろにしていた訳では…」


 セナ王子の言葉を遮りノア王子が困り顔で言葉を発した。


「ですが、彼女の指先は冷えてこんなに冷たくなってますよ」


 ノア王子は掴んでいる手と反対のもう片方もそっと掴み両手に持つと、はーっと自身の息をかけ温めようとしてくれた。


「すみません兄上が…。寒かったですよね?」


 上目遣いで小首を傾け子犬のような視線を向けられ心臓を鷲掴みにされた。


(この歳でこの対応…末恐ろしい。セナ王子よりよほど王子らしい…。)


「ノア、女性の手をむやみにとりそのような事をするのも紳士的といえど軽率だ。ましてや婚約者のいる女性にしてはダメだ。絶対に」


 セナ王子は数歩かけより私の肩を抱き寄せる。

 ノア王子は不思議そうに目をまるくして私の手を離した。


「僕だって誰かれ構わずは致しませんよ。

 ユリアナ嬢は僕の義理の姉上になる方ですし、姉を慮るのは弟として当然ではないですか?」


「セナ様…さすがにノア殿下にまでやきもちをやかれるのも大人気ございませんわ…」


 これ以上愛が重い感じのキャラにシフトチェンジされてもヤンデレ化しそうで怖いのでチクリと警鈴を鳴らす。



「ユリアナ…」


 セナ王子が見るからに落ち込む。

 その背後からアルノートの様子が見えるがなんだかバツが悪そうに自身の首に手を置き目を泳がせている。


「あー…じゃあ俺はもう行こうかなぁ。

 殿下への挨拶も済んだし、城ならお嬢も安全だし…じゃそーゆう事で」


「あっ、俺も、なんかそういえばやる事あったような…殿下、俺も行きますので」


 リトもペコペコお辞儀しながらこの場から離れようとしている。だが、グレアムはそれを見逃さないようだ。ガシッと二人の肩に手を置き笑顔で圧をかける。



「殿下はこれから晩餐の予定なんだが、リージット、君が何でこんな回廊なんかでふらふらしているんだい?」


 殿下がリトと呼ぶ従者をグレアムがリージットとよぶ。


(リトって愛称だったのか…あの身なりで、セナ殿下が愛称で呼ぶ程の者ならば、アルノートと面識もあるような話し方からみても、おそらくはセナ殿下直属の影かしらね)


「えっと…まあ色々ありまして…」


 グレアムと目を合わせずそう答えるリトを私はまじまじと観察した。

 黒髪短髪でキリリと切長の碧眼、耳にはシルバーのイヤーカフを付けている。

 その端正な容姿はひきつった笑みをつくり、心なしかグレアムから距離を取りたがっているように見える。


「ほう。色々か。その色々を殿下の代わりに私へ報告しなさい。それから、赤髪の君は察するに…例のユリアナ嬢の右腕の従者だよね。今後の事もある。丁度良いから話し合おうじゃないか」


「あー…僕は別に話す事は無いかな〜…」


「君が無くても、今後もユリアナ嬢の右腕としての地位を奪われたく無ければ、私の話は聞いておいたほうがいい…二人とも。ふ.け.い.と言う言葉を良く知らないようだからね。王家の臣下としての基本をこの私直々に教えてあげようじゃないか。この世界で誰を一番敵に回してはいけないのかもね。君達は知ってるようで、解ってはいないようだ…」


 ニコニコとした笑みを貼り付け グレアムは青くなった顔の二人を連れ反対方向へ歩いて行った。

 暗殺だってお手の物なアルノートと、その剣捌きを見切って相手をしていたリトを子供を窘めるようにいとも簡単に説き伏せ連れてく様にグレアムの底知れない闇をみた気がしたが世の中知らないほうが良い事もある。このような世界観からなる異世界では尚更深入りしない方が良い気がするのでこちらに助けを求める様子のアルノートにニコリと微笑みだけ返してすぐに顔をそらした。

 それにしても、セナ王子の様子だけを観て瞬時に事の真相を察する頭の回転の速さはあの人を置いて右に出る人はいないのでは無いだろうか。


 そんな事を考えながら去っていく三人の背中を見ていると横から明るい口調でノア王子が私をよんだ。


「さあ、ユリアナ嬢、こちらです。城の晩餐の間は久しぶりではありませんか?」


 ノア王子は完璧な紳士の対応で私に触れる事なくエスコートしてくれた。私はそのスムーズな優しさに自然に笑みが漏れ、ノア王子に合わせて歩を進めた。



「はい、半年ぶりでしょうか…王城は広くて、

 正直に申しますと晩餐の間がどこだったかも覚えて無いのです。」


「あははっ、無理もないでしょう。ここに住まう僕でも時々順路を間違えてしまうくらいですから。足を踏み入れた事の無い部屋がいくつあるやら…でも大丈夫。あなたがお嫁に来たらそれこそ側仕えの女官がつきっきりでお世話をするでしょうから、迷ったりなんてしませんよ」


「まあ、それなら安心ですわね、でも私の子守りに付き合わせる女官が可哀想ですし、早く王城の見取りを覚えたいです」


「俺を無視するな二人とも…」



 ノア王子と横に並び話しながら晩餐の間へ移動する私の後ろにとぼとぼとセナ王子がついてくる。

 そんなセナ王子の声が聞こえなかったのかノア王子は兄を気にする事なく話し出した。


「前から言おうと思っていたのですが、そろそろあなたの事を姉上とお呼びする事を許していだだきたいのです。僕、兄上との婚約が決まった時からあなたと姉弟になれる事が嬉しくて…ずっと本当の姉弟のように仲良くなれたらと思っていたのです」


「まあ、そのように思っていただけていたなんて感激ですわ。私もノア殿下ともっと仲良くなれたらと思っていました。まだ、婚約中の身で殿下の姉を名乗るなど恐縮ですが、どうぞノア殿下の思うままにお呼び下さい」


「ありがとうございます。では今日この時をもって姉上とお呼びしますね。どうか僕のことはノアと呼び捨てに」


 はにかむ様に目元を赤らめノア王子が笑った。

 義理の弟になるらしい第二王子が可愛い過ぎる。

 頭をなでなでしたい気持ちを必死に耐えて言葉を紡ぐ。


「ノア殿下を呼び捨てには…私くし出来ませんわ」


 後ろから「そうだよな、俺だってまだ呼び捨てにされてない…」と聞き取れたのが奇跡なくらい小さな声が聞こえたがそんなのお構いなしにノア王子がせめてくる。



「良いでは無いですか、姉上。

 お願いします。ねえ、いいでしょう?

 一回呼んでみて下さい。お願い姉上」


(もう姉上ってよんでるよ〜、この子なんで

 こんなに可愛いのーー)


 甘える様に上目使いで強請られてもう我慢できなくなってしまった私は口元に両手を添えながらぽそりと呟いた。


「ノ…ノア…」


 後ろから「はあ!?」とすごい不満気な声が聞こえ振り返るとセナ王子が何かもの言いたげに口を金魚のようにパクパクしてこちらを凝視している。


(や…やっぱり不敬だっただろうか。

 でもセナ王子の時とは違いユリアナの唇は躊躇う事無く声に出せたから、きっとユリアナ自身もノア殿下に親しみをもっていたんじゃないかな)


「嬉しいです姉上。今日からそうよんで下さいね。ずっとですよ」


 眩い程にキラキラした笑顔を振りまいて嬉しそうにしているノア王子に私は慌てて自身の掌を向けちょっと待ってという仕草をしながらそれでも気落ちさせないように優しい口調で言い聞かせた。


「ずっとなんてさすがに公の場では不敬に取られる事もありますし、正式に王家に嫁ぐまでは今日の様にプライベートな時だけにして置きましょう」


「わかりました。姉上と僕二人だけの約束ですね」


 ノア王子が小指を差し向け私もその指に自身の指をからめる。


 二人の間を春の小花が舞うようにほんわかと和む空気が漂い始めたのを切り裂いて物申したのは言うまでも無いセナ王子だった。



「まて、俺もいる。俺は許していないんだが!?

 てゆうか、ユリアナ、おかしいだろ!?なぜ俺が呼び捨て出来なくてノアには出来るんだ」


 いや…私にそう聞かれれば、ユリアナ仕様のこの身体が勝手に反応するからとしか言いようがないのだけれど。


(でもとりあえずそれらしい理由を言っておくか…)



「…セナ様は王太子であり、私より年上の殿方でらっしゃいます。ノアは私より年下で、こんなにも姉として慕ってくれるのですもの、私もその思いに応えたいと思うのは自然な流れです」


(むしろこんな可愛い生き物愛でる以外の選択肢無いのよ。あーっ。弟に憧れた事あったけれどこんな理想的な弟ができるならユリアナになるのも悪くないかも…)


 そんな事を考えている私の真横から声変わりもまだの可愛い男の子の笑い声が聞こえて来る。


「ふふふっ、またノアって呼ばれた〜」


 両手で口元を隠して上機嫌で喜ぶノア王子。

 それを見て絶対おかしいだろ…とまだ納得いかないと不満顔のセナ王子。


 そんな二人だったが、基本セナ王子もノア王子を可愛がっていて、ノア王子もセナ王子に懐いているのでその後の晩餐はとても和やかで楽しい時間となった。


 晩餐中の会話でセナ王子の小説の話しになり私とノア王子は読者仲間として多いに話が弾んだ。食事の後にはノア王子からセナ王子が書いた兵法書の第一章とレスティアの歴史書を読みやすくしたレスティア王国物語を借りる事ができた。


 セナ王子が小説を書きはじめたのは二年前からで書物にしてまとめると六冊ほどある事を知り私はこの世界にやってきてようやく自分の欲求を満たす術を手に入れ上機嫌になっていた。

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