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15.赤髪の影

 高位貴族が自身の影を有し隠密に情報を得たり影で主の害を取り除くのはこの世界では周知の事だ。


 ユリアナにも十五歳より自身の配下である影が公爵から与えられている。名前はアルノート 影には家名は無い。実際はあるのだろうが、主にさえも名はあかさない。私達の世界でいう忍者に近い。

 主の命であれば情報収集に留まらず暗殺者(アサシン)とかす事もある完全に闇側の存在だ。

 ちなみにユリアナの影、アルノートはゲームには出て来るが攻略対象ではなかった気がする。

 ユリアナになってから私がアルノートにあったのは二回。影との連絡にはリードでは無く魔道具が使用される。魔道具の形は様々で水晶玉であったり、ネックレスや指輪などの装飾品のようで見分けがつきにくい物もある。連絡はその魔道具に触れれぼ契約を交わしたもの同士のみがテレパシーの様にやり取りができる為リードとは違い外部へやり取りが漏れる事は無い。ユリアナはイヤリング形の魔道具を使ってアルノートと連絡をとっている。


「私の影はとても優秀なのですよ」


 少し自慢げに言ってしまったが、実際アルノートはすごいのだ。多方面でスペックが高く至る所でその実力を発揮する。エリノア夫人との時は彼の情報の早さにかなり助けられた。

 年齢不詳だが金色の瞳に長い赤髪を編みこんで横に垂らしている見た目はユリアナと同年代の少年で、神秘的な魅力を持つ美少年だ。

 アルノートとの会話は主と影の様な堅苦しい話し方では無くとても砕けた話し方で、アルノートと対話している時の内から滲み出るような安心感にユリアナが余程気を許す存在である事がうかがえる。テレパシーで通信できるアルノートには周りの事は気にしないで不敬も許せる。ユリアナにとって貴族令嬢らしくあらねばならない日常から解き放たれる唯一の存在、それがアルノートだった。私自身もユリアナとして行儀の良い言葉ばかり使う生活の中アルノートと朱音には由梨のままで会話が出来る事に救われている。


「ユリアナ、晩餐の間へ移動しながら話しをしよう。今日はノアとも一緒に夕食をとる事になっているんだ」


「ノア殿下がいらっしゃるのに私がご一緒して本当に良かったのですか?」


 私の背に手を添えて執務室の扉を開き部屋を出るように促すセナ王子を横から見上げ問いかけるとセナ王子は「問題無い」と一言返し安心させるように笑った。

 セナ王子がそう言うのなら…とセナ王子のエスコートに身を任せ部屋をでる。

私の背中からいつの間にやら腰まで移動した手をそのままにセナ様が歩みだし、つられて案内されるままに長い回廊を歩く。


「先程の話の続きなんだが、ユリアナが自慢するほど優秀な影ならば、俺と結婚して王城に住んでからも主従契約は解か無いつもりなんだよな?」


「はい、そのつもりです。彼は私の右腕のような存在です。優秀なだけでは無くとても信頼のおける者です。もちろん王家の影の能力はこの国随一なのかもしれません。ですが、影とのやり取りは魔道具を使用しなければなりません。心に直接語りかけるようなやり取りをまた一から別の相手と交わし信頼関係を築くより元より信頼のおける影をつれ嫁ぐほうが精神的には楽なのです。ですから、王家に決まりなど無ければ…」


「ああ…わかった。解っている。別に反対などするつもりは無い。ただ、そのまま今の影を有するならば、私の影とより連携をとる事にもなるし、俺自身が会っておきたいと思ったんだ」



 セナ王子はなんだか落ち着き無く上を向いたり下を向いたり自身の顎に手を添えたりしながらとにかくそわそわした様子だ。


 (別に言っている事は真っ当だし…なぜそんな

 挙動不審なんだろう)


「はい、もちろん。セナ様がそうおっしゃるのもわかります」


 私の言葉にセナ王子は突然バッとこちらに向き

「わかってくれるか?」なんて言い出す。


「へっ?ええ、当然セナ様には会う権利があるかと…」


 そう私が言った側からセナ王子が安堵するようにため息をついた。そして何かもの言いたげなすっきりしない表情をしながら話し続ける。


「実はだな、俺の影からユリアナの使役する影が非常に見目良く。歳も俺たちと同じくらいだろうと聞いてな…それに…お前の影は俺の影にやたらとお前の事を自慢するらしくてな…」


「アルノートがですか?」


 ユリアナに仕えるものは皆とても忠実でユリアナが主である事を誇りに思っているのは身に染みて知ってはいるけれどアルノートはいつもそんな素振りは見せない。頼んだ仕事は完璧に遂行するけれどいつだってゆるく「了解、お嬢の仰せのままに」とか、「はいはい、僕に全部まかせときな」て感じで

アルノートが主として私を…違った。ユリアナを自慢するだなんて。ちょっと想像出来ない。


 しばしアルノートの事を考えて思考を巡らせていると頭上からセナ様の声がふってきた。


「アルノート…アルノートと言うのか。お前の影は。てよりそんなあっさり名を呼んでよいのか?」


「はい…殿下になら。知られても、いつかは会うでしょうし」


「そ、そうか。まあ…そうだよな」


 (なんでそんな嬉しそうに笑うかな?そんなにアルノートに興味あるわけ?ああ。もしかして優秀だからユリアナと結婚ついでに引き抜いて自分が使役したいとか?)


「殿下、それで。アルノートはなんと私の事を殿下の影に自慢しているのです?」


「ん?あぁー…色々だ。『この国一の令嬢に使えてる俺が羨ましいだろ』とか…『うちの姫さんはとにかく可愛い。綺麗なのは当たり前、可愛いんだよ、わかるか?わからないよなー僕しか知らないから』とか後は…」



 セナ様が喋り方までアルノートのように話すので、自身の影から聞いたままに覚えて言ってるのがわかった。

(さっきも自身の影の話し方を真似て私に教えてくれたし。聞いた事をそのまま記憶する人なんだなセナ様って…それにしても…セナ様がアルノートの口調や仕草までそれっぽくして話してるのちょっと面白い…)


「…まだあるんですの?」


「ああ、それが。段々自慢ってのより…過保護な幼馴染みたいな…妹を溺愛してる兄弟のような…妙に親密で粘着質な感…」


 その時だった。

 タンと壁に何かが当たるような音が背後から聞こえ刹那ーー。

 風向きが変わったような風を瞬間的に感じた。

 その瞬間セナ様の言葉が途中で止まり、キィンと耳に響く金属音が静かな回廊に響きわたる。

 次に瞬きすると私の視界一面は大きな背中に遮られ圧倒され二歩ほど後退し前を見れば、その背中の主はセナ様だと気づく。さっきまで真横にいたセナ様は何があったか咄嗟に私の前にでたのだ。


「セナ様…?」


 困惑してその背中に触れようとした瞬間。


 その背中に隠れた先に見慣れた赤を捉えた。

 綺麗な赤髪を長く編み込んだ先には無骨な金の髪留めが光る。それはユリアナの記憶にも私の記憶にも刻まれた人物の特徴でーー。


 もしやと思ってセナ様の前方の様子を確かめようと身体を横へずらし前を見れば思った通りの人物だったのだけど、その現状は私をさらに困惑させた。


「へぇー察知が早い。お嬢をかばって、この一瞬で防御魔法を発動する機動力…悪くないね。とりあえず僕の主の相手としては合格だよ。王太子として自らの命を最優先にしないのはどうかと思うけどね」



 そう言って私達の前に立つのはやはりアルノートで、だけどアルノートは短剣の刃をセナ様に向けセナ様が発動したであろうシールド状の魔法陣とジリジリと反発し合うような音を放ち押し合っている。


(これって…二人でやりあってるの?えっ、ちょっと待って…)


「アルノート、セナ様…」


 状況が読めないままに名を呼べばそれを遮るようにもう一人いた別の人物が威嚇するように声を上げた。


「なにやってんだてめー」


 私はセナ様に隠れて存在すら気付かなかったその人物に目が行く。黒髪、長身のその男は碧い切長の目をキッと睨め付けアルノートを見ている。


「頭いかれたか?」


 そう言って今にもアルノートを殺し兼ねない殺気を纏い男は二刀の短剣を手にしている。気づけば片手の剣をアルノートの剣の鍔に噛ませセナ王子への攻撃を防いでいた。もう片方の手に持つ短剣はアルノートの首を捉えているがその手首はアルノートがしっかりと握りこんでいる。


(アルノートと互角に渡り合ってるなんて、一体何者?それより、なんでアルノートがこんな事…)


「お前がアルノートか、初対面がいきなり襲撃とは随分なご挨拶だな」


 セナ王子が不敵に笑う、それをとらえて返すようにアルノートも鼻で笑った。


「襲撃?僕が狙ったのは主であるお嬢であって殿下じゃ無いんだけどね、あんたが勝手に前に出てきただけだろが」


「えっ?私を狙ったの?アルノートが?」


 アルノートは一瞬私に視線を移しニッコリと笑うとまたすぐにセナ様に視線を戻す。


「ああ、お嬢、気にしないで、ちょっとしたテストだからさ。この僕が主であるお嬢を殺そうとするわけないでしょ、これは殿下がお嬢にふさわしいかを見定めようと思ってね。後ちょーっと余計な事お嬢に口走り過ぎてたからさ、やめてよねって態度でしめしたわけよ」



「はあ?殺されてーのかお前。そんな理由で剣を向けてゆるされる相手じゃねーのはわかるだろうが!冗談ですまされると思うなよ、俺の前でこんな事しといて…」


「リト、衛兵はよんでくれるなよ?彼はユリアナの影で、俺を直に狙ったわけではない」


「ですが殿下、一歩でも間違えば…」


 ガキンとセナ王子がリトと呼ぶ人物がアルノートの剣鍔を力技で押しやるとアルノートは彼の腕を離し間合いをとって一息つき短剣を腰ベルトの鞘に収めた。それを見たセナ王子もシールド魔法を解除する。


「間違えなんておきるわけない。全てが彼の計算のうちの事、俺にもユリアナにも傷ひとつつけるつもりも無かったさ。そうだろ?」


「ああ、もちろん。僕がそんなヘマする訳ない。殿下がお嬢を庇わなくってもお嬢は尻餅ひとつ付かないさ、僕が優しく抱き上げるからね」



 そう言って私に近寄り跪くとそっと手を取り手の甲に口付けまたニッコリと私を見つめた。が、それも一瞬。セナ王子が私とアルノートの触れていた手を引き離し私とアルノートの間に割って入ってきた。


(セナ様わらってる?…)


「ああ、そうだろうな。万が一にでもユリアナになにかあればお前がユリアナの影であっても今ここで半殺しくらいにはしているだろうよ。いやいや、そうならなくて本当によかった。後ユリアナを抱き上げるとかジョークでも笑えないな」


(セナ様笑ってるけど絶対ブチギレてるな、これ)


「あはは、ウケる。そんな笑えないジョークないでしょ?マジに決まってるじゃん。僕が何度この手でお嬢の命守ってきてると思ってんの?」


 アルノートも笑ってるけど、目が笑ってない。

リトって従者?は呆れ顔で壁にもたれて腕組して二人の様子をみている。



「ユリアナ、こいつに抱きあげられた事があると?」


 セナ王子が私へ視線を移す事無くアルノートを睨みつけながら問いかけてきたので何の準備も出来てない私は思わず素の由梨のほうで声をもらしてしまった。


「へっ?」


(いきなり私に話ふるの?ここで?)


「…まあ。階段の手すりに細工がしてありグラついて落ちそうになったりとか…殿下との婚約が決まった当初はわりと標的の的でしたので…アルノートには何度かそーゆう状況下で護衛として助けられたりはしてますね。」


 そんな私の言葉に乗っかるようにアルノートがマシンガントークを繰り出した。


「そうそう、あの頃のお嬢はほんとねらわれてた。お嬢に片想いしてた令息があの手この手で既成事実作ろうと画策してたり、王太子妃の座を狙ってか殿下に惚れてか知らないけど、毎日いろんな貴族令嬢の手のものが命狙ってきたり、まあ、お嬢は人気あったから取り巻き貴族令嬢達が半分くらいは勝手に断罪してくれたりしたけどね。犯人が特定出来ないような大物がまわした刺客もいたからね。僕がつきっきりじゃなかったらお嬢は今ここにいないと思うな」


 そんなアルノートのマシンガントークをぶった斬り従者の彼が声をあげた。


「いやいや、こいつの能力だったらユリアナ嬢に触れずともそれくらいの護衛なんて出来ますから。職権濫用のセクハラですよそれ」


 セクハラって言葉に反応したのか一瞬にしてセナ王子の目の色が氷のように冷たく変わった。

ただでさえ寒い王城の回廊で更に温度が低くなったような気がする。


「リトが言うならそうなんだろうな。

 やはりしばらく牢にぶち込んでおくか。ついでに魔導士よんで、ユリアナの専属の影だった事も忘れさせたほうが良いだろうか?許してくれるか?ユリアナ」


(こわい、こわい、こわい、セナ王子のキャラが

 ヤンデレ化してきてる。なんでこーなった)


「お、お許し下さいセナ様。アルノートはいつもはもっと普通に忠実な影なのです。

 職権濫用のセクハラなど、とんでもございません。いつも身を挺して私を守り。諜報任務にも長けています。影としては本当に有能なのです。

 今回は私を思っての出過ぎた行動、この責任は主である私にもございますわ。これからはこのように試すような事無く、私とも適度な距離を保ち殿下の信頼を得られるよう努力させます。どうか今日の事はご内密に寛大な処分を」


 そう言って私はアルノートの腕を引っ張り軽く屈ませ勢いよくアルノートの後頭を抑え首を垂れさせた。


「僕の為にお嬢が必死になってんのかわいいな…」


 近距離から横顔を覗きみればアルノートはへらへらと嬉しそうにこちらに笑顔を向けて反省する所かふざけた事をぬかしだす。


(もう黙ってくれないかな君…状況わかってる!?

ああ、やばいわ怒りでセナ王子の肩が震え出してる)


 私は一人あわあわして対極的な様子の二人を交互に見つつちらりともうひとりの男を見れば目が合うなりスッとそらされた。


(元はあなたが余計な事言ってこの二人悪化させたんでしょうが、なんとかしなさいこの状況をーー)


 と思いながら私はこっそり拳を握っていた。

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