両親
「ん……う……」
窓から溢れる光が目に当たり、目が覚める。
ここは……病院?確か卓也の運転する車に跳ねられた筈だけど……。となると、死後の世界か……。
「あぅ……」
あれ?僕の声はこんなに高かったかな……いや、違う。そんな筈ない。十七年間も聞いてきたんだ、聞き間違える事はない。
そもそも、体全体が動かしにくい。死後の世界でも死ぬ直前の傷が適用されます、何てふざけたものではない筈だ。
「うぅ……」
何とかベッドの柵を頼りに起き上がり周りの様子を見る。
視界がまだボヤけてる……目を擦っても治らないから眠ってたからじゃなくて何か他の理由があるからか?
「……えぅ?」
床に落ちていた鏡を見つけてしまい、写る姿に唖然としてしまう。
写っていたのは幼子。乳児と言って良いくらいだ。髪の毛は黒く右目は赤、左目は青のオッドアイ。
だが、それ以上に額には犬歯のような角が二本生えている事に注視してしまう。
鬼……?そんな馬鹿な、僕は人間だ。紛れもない、人間だ。それなのに何故こんな異形の姿をしている。そもそも、鬼と言うのは架空の存在、そんな生物が存在していること自体あり得ない。
「あうぅ……」
ショックのあまりベッドに横になる。
布団の感触や土の匂い、太陽の光が現実だと告げている。これが夢ではないことを告げている。
つまりは、転生。そうでなければ、この感触も、匂いも、光も、全てが嘘となってしまう。
「うぅ……」
動揺が落ち着いたところで自分の状況を整理する。
鬼がいる何て地球ではあり得ないから、異世界なのは確実。だが、この世界に対しての情報があまりにも足りなさすぎる。
どんな世界なのか、どんな文化があるのか、どんな食べ物があるのか、どんな生き物がいるのか。そう言った生きていく上で必要な情報があまりにも欠如し過ぎている。そこの入手をしなければならない。
けれど、それは僕が異質である事を勘づかれないように慎重に行わなければならない。
僕自身、自分が穏やかな性格だと評価はしているけど冷静な性格だとは評価していない。焦って無理に情報を入手しようとして異物や腫れ物のような扱いを受け、前世のような生活を送るのはなるべく避けたい。
年相応の振る舞いをしつつ、少しずつ集めないといけない。
「んん~」
けど、年相応と言ったところで多くの事が出来る訳ではない。精々、柵伝えに歩く程度だ。その程度しか出来ないのに何をすれば良いのだか。
「エインちゃ~ん」
扉が開けるような音が聞こえ、そちらを向くと美しい女性がいた。
豊満な胸に穏やかそうな顔立ち、頬から植物の刺青が描かれている。服装はダンサーを思わせる露出が多い。そして、額には一本の黒い角が生えている。
顔立ち、特に目元がどことなく僕と似ている。多分、僕の母親なのだろう。
「おっぱいの時間でちゅよ~」
「!?」
抱き抱えられ、さらけ出した胸に顔を近付けられると母乳を飲ませられ始める。
そうだ……!まだ柵を使って立つことしか出来ないと言うことは卒乳出来てないと言うこと。恥ずかしい……。精神年齢十七歳にとってはとても恥ずかしい……。
でも、栄養素とか考えると摂取しないしないといけない。なんと言うジレンマ。
「よくできまちゅたね~」
「あうう……」
恥ずかしい授乳を終えベッドに戻され頭を撫でて母親は部屋を立ち去ってしまう。それを見た後、起き上がり柵伝えに立つ
あれが今の母親か……僕の母親のイメージは殴る蹴るの暴行を加え、ろくに接してこなかったイメージしかない。あまりにもイメージと現実がかけはなれてて頭が痛い。
「あぅ?」
ふと窓から外を見ていると風と共に日光とは違う光が流れこんでいるのが見えてしまう。
この赤い光は何だろう。手を伸ばせば触れる。
「うぅ?」
触った瞬間、赤い光は消えてしまい日光だけが照らす。
一体何だったんだろう……。まあ、調べるのは後に回そう。
「んん~」
満腹になったからか、瞼を閉じてしまう。
僕は死んで、そして異世界に転生した。だけどこの世界の親、少なくても母親はいい人のようだ。僕を捨てることは、無いと思いたい。
「エインー!」
「……あう」
意識が沈み眠りにつこうとした瞬間、野太い大きな声が聞こえ強制的に起こされる。
……人が今眠ろうとしていたのに。今度は誰だ?
「よいしょー!」
「キャッキャッ!」
ベッドを覗き込んできた男が突然変顔をしてきたつい笑ってしまう。
ま、まさかのいきなりの変顔には驚いてしまい、つい笑ってしまった。
「はははははは、どうだー!」
「キャッキャッキャッキャッキャッキャッ!」
笑いながら僕の体を持って上に上げたり下に上げたりしてしまうものだから笑ってしまう。
男は無精髭を生やしているが渋みのある顔立ちで背中には弓、腰には矢筒を付けている。赤い瞳をしており、柔和な表情を浮かべている。
まさか、父親なのか?僕のイメージの父親とはあまりにもかけはなれてて分からなかった。母親よりも積極的に暴力を振るっていた印象しか残ってない。
「いた、いたたたたたたた!!」
あまりにも上下するため少し試すために男の頬をつねる。
さて、どうでる。僕のイメージ通りならここで殴り付けてくる。
「やったな~!このこの~!」
「キャッキャッキャッキャッキャッキャッキャッキャッ!!」
僕をベッドに置いた男は笑顔で僕の体をくすぐってきてくすぐったさのあまり笑ってしまう。
この男……怒らないのか!?普通怒るだろ!?
「っと、そろそろ戻らないと。静かに待ててね、エイン」
時間がきたのか、僕を置いて一回撫でた後男は立ち去っていく。
母親と同じくいい人そうだった。だけど、どちらもまだ信用するには値しない。もっとしっかり見定めないと。




