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転生した鬼は元クラスメイトを地獄へと誘う  作者: 月のウサギ
一章 復讐者の慟哭
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交渉

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「遅い」

スフィアが持つ剣が勢い良く振り下ろされるが瞼を閉じ見ることもなく回避する。


「まだまだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「振り回すな」

「キャン!?」


連続して剣を振り回すが見ることもなく回避しつつ足払いをして転ばせる。


スフィアを買って数日、体調が良くなってきたスフィアに剣を持たせて裏庭で訓練している。


魔法でやっても構わないが……いざと言うときに必要になるのは身体的な技術だ。奇襲を受けるよりも速く魔法を放てるのは何かしらの魔道具を使っているときだけだしな、それなら武術を学ばせる方が速い。


とは言っても、吸血鬼族は鬼族ほど身体能力に傾倒している訳ではないから必然的に武器を持たないといけず、俺は武器をそこまで使わないから基礎中の基礎しか教えれないが。


「僅かな間接の動き、行動の予備動作、その他相手から洩れる情報全てから相手の行動を予測しろ」

「はぁ……はぁ……、はい……!」

「それと」


剣を杖代わりにして息を切らしているスフィアの頭を切らない程度の手刀で小突く。


まあ、切らない程度であって普通に痛いけど。


「痛ぁい!?何するんですか!?」


「常に相手の行動を注視しろ。裏切り、化かし会い、俺らが相手にする手合はそう言った事を平然とやってくる。隙を見つけたら攻撃されると思え。っと……今日の訓練はこれで終了だ」

「うぅ……分かりました」


小突かれた頭に手を当てて涙目で見てくるスフィアを立たせるとさっさと宿の方に戻らせる。


朝日が裏庭の中に入り込んできた時点で吸血鬼族の特性から訓練を終了させている。


だがまぁ……数日前よりは体力も筋力も上がってきてるし、本人のやる気の高さからあと五日程度でダンジョンに入れてみるのも悪くないか。


まぁ……その間に最初の復讐を終わらせるとするか。高い実力を持つ新人(ルーキー)が領主と勇者が死んですぐに消えたら可笑しいからな、少し間を空けて都市を出るか。



朝食を食べ終えると、俺は一人で街の中を歩く。

スフィアは昼間は外での活動が制限されるから事情を知ってる宿の方の手伝いをさせている。


それに、今日行うことは俺一人の方が良いからな。


「面会を申し込んでいたエインだ、通らせてくれ」

「エイン様ですね、畏まりました」


領主の館の門で兵士にチップとして金貨数枚を握らせて屋敷の門を開けてもらい、中に入る。


ここの領主は人族であり予約さえすれば平民でも面会する事が出来る。人族にとっては直に領主にもの申せるから大きなメリットになってる。


まぁ、それを差し引いてもアウトなレベルの色狂いである事は否めないけどな。


「こちらでお待ち下さい」

「ありがとう」


屋敷の扉の前で待っていた老執事に案内され、応接室の中に入る。


それにしても……やはり、贅を凝らした屋敷だ。


この土地を何代にも渡って統治し続けただけ格調高い。この床に使われている白い石だって白亜の迷宮でとれる壁や床の鉱石を使ったものだろう。


「紅茶です」

「ありがとう」


兎の獣人族のメイドが持ってきた紅茶を仮面に空けておいた穴から啜る。


ティーカップが銀だし、毒が入ってないと言うアピールなのかもな。それに、鬼族は生まれつき毒物に対する耐性は高いからな。


そしてせっきのメイド……太腿に赤い刺青があった。間違いない、奴隷だ。となれば……確実に仕留めれるか。


「ほっほっほっ!よくおいでになさいましたね、エインさん」

「これはこれは、メリアス・シャルトニーニュ辺境伯様。今日はお会いできて光栄です」


扉から入ってきた領主に殺気を隠しながら柔和な声音で立ち上がり礼をする。


「おや、冒険者とお聞きしましたが……まさか、ここまで礼儀正しいとは感心ですね」


「今日のために知り合いに礼儀作法を教えて貰いました」


実際、数日前にスノーに頼んで礼儀作法を教えて貰った。付け焼き刃だが、今回はこれくらいで良いだろう。


そして、領主の瞳に隠れた感情は侮蔑が混じってはいるが敵意はない。第一印象は中の上と言ったところか。


「その仮面は……」

「幼い頃、事故で酷い傷を受けまして。その傷を隠すためのものです」

「それは……何とも不幸な事ですね」


思ってもいない事を口に出してるな。……まあ、本人は気づいていないが、俺も大概だが。


「それで、私に何の用でしょうか」

「……勇者様のことです」

「ほう……何かトラブルでも?」

「ええ。魔物を狩っている際に妨害されまして」


困った風に語る用件に領主は前のめりになりながら聞く。


勿論、この話は嘘八百だ。普通に伝えるだけだとあいつの事を知っている人間ならあり得ないと言うだろう。


だが、声音や瞳に写る感情、僅かな仕草で示すことでそれを本当のように思い込ませる事ができる。


人の心を操るのは魔物との駆け引きよりも難解だが、この男はやりやすい。


「……と言うことでして」

「ふむ……それでは、今度私が注意を―――」

「―――本当に、それで良いでしょうか」

「……と、言いますと?」


そして、これは前座。本座はここからだ。


「いえ、最近辺境伯様は平民を娶っておりませんよね。それは貴方様の行いを勇者様に止められてるからですよね」

「ええ。お恥ずかしい話ですが、それだけ権力がありますからね」

「……それでは、排除しませんか?」

「……ほう。それでは、そのメリットを聞かせて貰いませんか?」


乗った。まあ、当たり前だよな。お前と言う男ならそうすると予想していた。


「まず、貴方様は平民を誰にも妨害されずに娶る事が出来ます。私は、魔物狩りの妨害を受けなくて済みます」

「だが、それでも教会に逆らうのは」

「問題ないですよ。……相手が自殺してしまえば」


そう言うと、俺は懐から透明な液体の入った小瓶を取り出す。


「これは……?」

「ちょっとしたお薬です。これを相手に服用させれば、どんな生物でも一撃ですよ」

「つまり、飲み物に服用すれば簡単に殺せるのだな」

「それと、この薬には面白い特性がありまして。この薬、服用直後は身体を麻痺させるんです」

「それが何かあるのか?」

「いえ。ただ……楽しめるんですよ。これは元々媚薬から抽出したものですので」

「……ほう」


まあ、乗るよな。お前がこの話題を振られて、乗らない方が可笑しい。


「自分を今まで妨害してきた女を死ぬ間際まで汚せる……とてつもない背徳だと思いませんか?」

「それは……!良いだろう。その話に乗ろう」

「協力、感謝します」


細かい段取りを決め、醜い欲望を顔面に出す領主と握手を交わす。


瞳から侮蔑の感情が消え、好意的な感情が芽生えてるな。ありがたく、利用させて貰うよ。


「ああ、それと辺境伯様」

「どうかなさいましたか?」

「屋敷内と庭園がとても美しかったので、見てから帰ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」


領主から許可を取ると応接室から出るて屋敷の中を歩く。


これで領主との協力関係を結べた。本当に、あの男は御しやすい。


あの男の幼女を汚すことが好きであること。


特に多く買っているのが幼女の奴隷であること。


背徳感が堪らないと奴隷商に言ったこと。


勇者が目の上のたんこぶであること。


人を痛め付ける事に堪らない快感を覚えること。


これらの情報があれば、男の醜い欲望を上手く操作し、自分で考えたと思い込ませて話に乗せる事は容易い。


最初に好印象を持たせておけば、更に乗せやすい。


例え、その中に明確な(ウソ)が混ざっていたとしても。


「ホント、御しやすい」


懐から取り出した小瓶を見つめながら仮面の裏で邪笑する。


媚薬から抽出した薬?勿論嘘だ。そんな薬は存在しない。お香に使われているのは原材料を粉にしたものだ。この小瓶に入っているのはただの水だ。


相手が自殺?それも嘘だ。子安には死ぬことも赦さない。デモンストレーションとして死ぬことは赦されない。


明確な真実の裏に隠された嘘を領主は欲望と言うフィルターを通したせいで見抜けなかった。当たり前だ、見抜かせないように徹底して欲望を刺激したのだから。


本人は今有頂天だろうな。それが命取りと知らずに。


「それに、俺がここに入ったもう一つの目的(・・・・・・・)も見抜けてないしな」


俺がこの屋敷に入ったのは領主との交渉以外にももう一つある。


それは、奴隷たちの状況の確認。こっちは殆んど俺が心配しているだけだがな。


本来なら、養殖場への道を探しておきたいところだが……まぁ、それをして警戒されたら困るからな。


「……酷いものだな」


屋敷内や庭園で働いている奴隷たちを見て俺は憐憫の眼差しを向けてしまう。


どいつもこいつも、外の奴隷商が売っている奴隷よりも酷く虚ろな表情をしていやがる。顔色や肉付きが良いだけにそれがより顕著に現れていやがる。


それに、たまに香る僅かに染み付いているこの匂いは……間違いなく、血の匂いだ。……領主の趣味で拷問でも受けたのだろう。


「おやおや、どうでしたか?」

「ええ、とても良かったですよ」


ホント、良かったよ。……あんたを殺す事に更に躊躇いが無くなったよ。


屋敷を出た時、領主が来たので殺気を隠しながら笑いかける。


「そうだ、面白いものを見せましょう。こちらに来て下さい」


醜い笑顔を浮かべる領主に連れられて屋敷の離れに入り地下に降りる。


さて、何があるのや……!?


「さあ、これが私のコレクションでございます」


階段を降りきった先で領主が見せたのは、醜い欲望だった。


壁中に鋸やトンカチが飾られ、部屋の隅には使われた三角木馬等の拷問が置かれていた。手入れはそこまでされていないのか、血が少しこびりついている。


そして、ガラス越しに囲まれた部屋には全身を革製のベルトで手足を拘束された吸血鬼族が恍惚な色にまみれた表情をしていた。


あの顔……間違いない。スフィアによく似ている。となれば、あれがスフィアの母親か。成る程、娘が殺してくれと願うだけの状況だ。


「この扉から養殖場に繋がる通路には様々な女がいるよ。君に一つあげようか?」

「いえ……いりません」


女の表情を見ていられなくなり、俺は怒りを堪えながら階段を登って離れから出てさっさと屋敷から出る。


収穫はあった。だが、だからこそ赦しがたいものがあり、怒りの業火が燃え盛る。


「……エイン様」

「……来ていたのか、スフィア」


黒いマントを被り手にグローブを装着し仮面を着けて日に肌が焼かれないよう完全防護しているスフィアが門の前で待っていた。


迎えに来いとは言っていなかったが……荷物を抱えてるし、宿の買い出しついでか。まぁ、それなら別に構わないか。

「……お前の母親を見た。あれは酷い」

「……それで、どうするの?」

「今日の夜、決行する。……準備を整えてくれ」

「分かりました。……私は、今回は裏方に撤しますが母親だけは、私の手で……!」

「分かっている」


スフィアと一緒に歩きながら作戦の概要を伝える。


領主、お前が生み出し続ける悲劇を俺らは赦さない。


勇者、お前が生み出した悲劇を俺は赦さない。


故に、お前らは……この俺が潰してやる。


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