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かっどり

作者: 金城sora

短期間の出張を命じられて、私は今1両編成のローカル電車に揺られている。


座席は向かい合わせ、私は窓際に座って窓の外を眺めている。


外の景色はどんどんと山の中を走っていき、あちこちにある短いトンネルを潜りながら。


まるで、山をほじくりながら進む土竜にでもなった気分だ。


SNSで話題になった、小瓶に入った山の山菜を使った珍味。


その生産者である家族経営のお店に行ってあわよくば量産して卸し販売の専売権を取ってこい。


雑な上司の雑な司令に振り回される、渡されたのはわかりづらい道案内の紙が1枚。


11月の、その週は最初の冬の寒波が来て非常に寒い日だった。


雪がチラついて葉っぱの上や土の上にうっすらと白い雪化粧を施している。


時計を見ると時刻は昼の2時を少し回ったところだった。


本来なら、もう先方の指定した駅に着いている筈の時間だ。


途中、電車の上りと下りを間違えて乗り込んで、それに気付かずに随分と乗っていた。


自分の間違いに気付いて慌てて反対の電車に乗り換えようと下車して反対のホームに向かったが時刻表を見ると1時間も待つ羽目になりそうだった。


だが、幸いにも10分もしない内に電車がホームに入ってきた。


私はその電車に飛び乗った。


時刻表よりも遅れていた電車が来たのだ、助かりはしたが、それでもかなり遅れてしまった。


外の分厚い雪雲同様に私の心もどんよりとしていた。


「はぁ」


窓ガラスにおでこをつけたままついたため息は窓を白く曇らせた、曇りは中々消えずにいつまでも残る。


時計を見る、到着時間は夕方になってしまいそうだ。


先方には乗り換えを間違えた時に電話して、誰もいない駅のホームで相手もいないのに一生懸命頭を下げて謝った。


その時、電話口で今いる駅の名前を言うと


「今度は絶対に間違えないようにね、その沿線は違う電車も来るから、しっかり確認しなさい」


と、何故か念入りに注意された。


情けない。


1両編成ワンマン電車には自分以外誰もいない。


私はもう一度「はぁ」と、大きなため息をついた。


先程のため息と重なって、より一層窓が白く曇った。


スマートフォンを見ると電波は圏外の表示になっていた。


窓の外を見ると深い山間をゆっくりと走っている、もう随分と駅に入っていない。


体感で1時間以上は走っている気がするが時計を見ると一向に針は進んでいなかった。


秒針だけが焦れったそうに動いている。


気が急いている時、時計は中々進まない。


大きなあくびが出た、今日はかなり早起きだったので睡魔が襲う。


まだ、到着には時間があるので目を瞑った。


ゆっくりと走る電車の振動が心地よく、意識はすぐに微睡(まどろ)んだ。




=========



ぱっと目が覚めた。


どれくらい眠っていたのか、大きく伸びをすると体のあちこちがパキパキと久々の伸縮に応えた。


窓の外を見ると真っ暗になっていた。


「えっ!?」


一体どれだけ寝ていたんだ!?


頭が真っ白になって腕時計を見ると時刻は2時を少し回ったところだった。


時間は進んでいない。


「なんだ、トンネルか」


窓の外を見ると一切の明かりがなくて真っ暗どころか真っ黒だ。


窓にはため息の白い曇りが未だに変わらずくっきりと残っていた。


「随分と残ってるな」


ボソリと呟く、暇になって少し立ち上がって周りを見るが相変わらず自分以外には誰もいない。


頬をポリポリとかいた。


時計を見る、時針は2時を、分針は1と2の間。


その2本の針の上をゆっくりと秒針が回っている。


おかしい。


いくらなんでも体感と時計が合わない、窓の外を見るが未だ真っ黒で何も見えない。


スマートフォンを見るが電源が入らない、おかしいな、充電切れか?


腕時計をじっと見つめる。


・・・


・・・・・・


秒針が何周しても分針が動く気配は無かった。


「うわっ最悪、壊れてたのか!」


慌てて意味もなく立ち上がる、周りを見回しても誰もいない、外は真っ黒で何も見えない。


・・・


・・・・・・


なんだろう、違和感がある。


窓の外をじっと見つめる、真っ黒で何も見えない。


でも、電車内の明かりがあるのだからトンネルの内側が照らされて見える筈だ。


窓の外はよく見ると真っ黒いナニかが蠢いているように見えた。


な、なんだこれ・・・


妙な胸騒ぎがして背筋に寒気が走る。


運転室を見ると制服姿の運転士が椅子に座り、レバーを握って何も見えない前方を凝視していた。


一瞬躊躇ったがドンドンと運転室と客室を隔てる窓ガラスを叩いた。


運転手は動かない。


「すみません」


そう声をかけながらもう一度ドンドンと窓を叩く。


運転士はゆっくりとこちらを振り向いた。


「うわあぁぁぁぁっ」


運転士の顔は真っ黒で真っ白な眼、顔の中心にある筈の鼻は無く、口は耳元まで裂けていた。


私が悲鳴を上げて後ずさると運転士は〈にまぁ〉っと笑ってまた前を向いた。


なんだこれっ!!


どういう事だ!?


どうしよう!


どうしよう!!


どうしよう!!!


席に戻ってカバンを漁るがこんな状況で役にたつものがあるはずも無い。


窓を見るとウゾウゾとナニかが這い回っている、気づかなかった時はサッパリわからなかったのに一度気付くと異様に気持ち悪く見える。


私の吐いた白い曇りも消えること無くずっと残っている、まるで、時間が止まっているのかのように・・・


一体どれほどの時間この電車に乗っていたのか。


ガチャン


音のした方を見ると運転室の扉が開いていた。


さっきまでいた運転士がいない。


なんだよっ!!


恐怖でパニックになりそうだ!


カバンを胸の前で抱き締めるようにギュッと持って車両の前に行ったり後ろに行ったり。


運転室には気味が悪くて入れない。


乗降口の扉を意味も無くバンバンと叩いた。


「なんだよコレ、どうすりゃいいんだよ・・・」


乗降口の窓ガラスにもウゾウゾとナニかが這い回っている、恐怖に歪んで今にも泣きだしそうな自分の顔が写っている。


「っっ!!!!」


窓ガラスに映る自分の背後にナニかが立っている。


耳元まで裂けた口を〈にたぁ〉っと開けた


「う、、あぁ、、、、」


恐怖にすくみ上がり、口から漏れたのはそんな呻きのような声だけだった。


振り向くと、ソレは覆い被さるように両手を広げた。


私は足の力が抜け、その場にペタンと砕けるように腰を落とした。


何も考えられず、ただ、ナニかの顔を見上げた。


ナニかの口の中は真っ赤で歯は生えていない。


真っ赤な肉々しいトンネルが口を開いて、私を頭から飲み込もうとしている。


不意に後ろの乗降口が開いて体が電車の外に落ちていった。


電車の周りを這い回っていた真っ黒な物が全身に纏わりついてくる。


どんどん真っ黒な空間に落ちていった





=======



「・・・いさん ・・・・・・ お兄さん」


体を揺さぶられる。


ハッと目を覚ますと目の前に見知らぬ男性が自分を揺さぶっていた。


周りを見る、どうやら山に囲まれた電車の駅に寝転んでいたらしい。


「お兄さん、電車間違えて乗ったね」


「えっ?」


「○○社の人だよね、電話くれた」


「あぁ、はい」


「だから気を付けて乗りなって言ったのに」


「どういう事ですか?」


「お兄さんが乗ったのはね、〈かっどり〉っていう妖怪だよ。時間に焦ってる人の所に行って目的地まで運ぶんだけど、運賃に寿命をごっそり持ってくんだよ。 時計見てご覧」


腕時計を見ると14時を少し回ったところだ。


「時計、壊れてないよ。 電話で大分焦ってたからもしかしたらって思って駅に来てみたんだけど。 お兄さんが電話くれてから10分も経ってないよ」


私を起こした男性の車に乗り、駅を後にした。


その駅は目的地の駅で私が電車に乗った所から4時間はかかるはずの場所だ。


腕時計を見ると秒針が1周する事に分針がカチッと動く。


車の窓に息を吐くと、窓ガラスが白く曇ってすぐに消えた。


アソコは、時間が動いていなかったのか・・・



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