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うさぎロマネスク

1

今々、あるところに小さな男の子がいました。

その男の子は

お母さんぐらい

歳が離れている先生を

好きで、好きで

仕様がありませんでした。





男の子は先生と会えることを

一番の喜びとして

胸を太陽のように明るく

あったかくして

だから、NE、、

陽だまりのような学校に

通いました。





たとえば、39度の熱が出ていたとしても

お母さんには、嘘をついて

学校に向かうほどでした。

一目だけでも、大好きな先生を

見ることが、できたのなら

ようやく安心して

保健室で、倒れることができました。





先生も、男の子の気持ちを

知ってか知らずか

笑顔で振り向いてくれるのでした。





男の子は、次第に想像するようになりました。





先生とおたまじゃくしの国で

お姫様と王子様ごっこをしたり

公園で一緒に

砂遊びをしたり

ブランコに乗って

好きなだけ

おしゃべりをするのでした。





お家に帰れば

先生が出迎えてくれて

大好きな牛乳と

クリームシチューの晩御飯

トマトのスープ

デザートには

タルト・タタンを

作ってくれるのでした。









そんなある日のことでした。

突然、先生と会えなくなってしまいました。









それからというもの

男の子は

学校が終わると

家に帰らずに

見晴らしのいい丘で

一人ぼんやりと

空を眺めるようになりました。

ただ、ただ

眺めるようになりました。

何日も、何日も

眺めるようになりました。









丘にいた精達が

何日も男の子がぼんやりと

通ってくれているので

哀れに想い

男の子に、金木犀(きんもくせい)のフェアリーは

優しい語調で、語りかけました。





「ハル、ハル。どうやら、きみはひどく悲しんでいるよう、」





ハルは、つんとした唇に一度なってから、眺めていた雲を変えてみた。





「そうなのかな、それよ…り見てよ、あのクジラの尾っぽのような雲を。」





「ハルが見ている雲は、ぼくには見えないんだ。」





「ほら、また形を変えていったよ」





「そのようだね。ハル」





「ぼくはさ、」





突然少年の顔は、群青色に染まった。





「ハル、なんて愛しい子なんだ、ハル、ハル」





それからというもの

この世界は、ほんの少しだけ

しあわせな恋人が増えた、

増えたようなのです。



2

ハルは、それからというもの

水色のお家に帰って

ヴェルディグリの扉のドアノブに

手をかけてひねったあと

自身の部屋に入っていった。





クリームイエローとインオールイノセンスの

太陽のひかりが射し込む部屋には

チョコレートやブリキのおもちゃ

造花の薔薇

チェスや木馬

亀のぬいぐるみ

けん玉

ヴァーチャルなゲームが

うなだれてベッドに置かれていた。





その部屋でハルは

時々、寝っ転がりながら

絵本を読んだり、窓越しから見える景色に

心を奪われていた。





だが、最近のハルのこのような

どこか寂寥(せきりょう)な部屋が

がちゃがちゃがちゃと一変してしまった。





あれこれと、物が片付かず

あれこれと、物心が(かさ)んで増えていく。





それから、なんだかがちゃがちゃと

していったから、

また、唇をつんとさせる機会も増えていった。

ハルが眺めているのは

全てあの人であったのであろうことは

定かではなかったが、

それでも、あの人が多かったことに

間違いはなさそうだった。





ハルは、普段より

リビングに行く回数が減っていき

一人の時間が多くなっていった。

それから、ある一定のところまで来ると

それからというもの

あの、大いなる力を

呼び起こしてしまう風が吹いてしまえば

泣いてしまうだけであった。





とある日

ハルは、寝てしまいたくもなかったが

気もつかず、清らかな月光に包まれて

眠ってしまった。

眠ってから、次第に

あの神秘の力が充満する世界へと

いざなわれていった。





足元は軽いので

ジャンプをしなくても

空に浮かぶことは出来て

その、感覚は普段よりも鮮明であった。





あたりは、様々な色や紋様が

描かれたような世界に変わっていった。

そこから、少しすすんでいけば

世界は輪郭を変えていくのであった。





ハルは楽しくなってきたので

手をロープのようにくねらせたり

くるくると宙を回って遊んだり

鳥人間や不思議な木々、様々な[存在]と

思う存分に、お話しをした。





鳥人間は言った。

「きみは、知らないだろう。可愛いものは、世界を止めてしまう力を持っていることを」





ハルは言った。

「へぇ。造花の薔薇だって、止まっているよ。」





アトランティスの木が言った。

「今の時代の文明は、ぼくたちの文明に比べれば、ナンセンスなのさ。なんだか、おもっくるしいよ」





ハルは応えた。

「きみは見たこと無いんだよ。カッコいい車を」





レムリアの花は言った。

「私たちは、いつでも繋がっている。ほら、また25689km離れたピラミッドさんから、声が聞こえてきた。」





ハルは言った。

「あっ、電話をしているんだね。」





七色のライオンが話しかけた。

「ハルが住む家に、今度おじゃましにいくよ。」





ハルは話した。

「じゃあ、一緒にチェスとけん玉で遊ぼうよ。それから、冒険ごっこをしようよ!」





カブトムシが言った。

「今度また来たときに、見せたいものがあるんだ。」





ハルは、言った。

「今じゃ、ダメなの?」





ハルは、このように

この神秘の世界を飛んでしまったあと

次第に、懐かしい感じがしてきた。





その懐かしい感じがする方へと

向かっていった。





向かっていくと、懐かしい感じから、

普段の感じより、やや、心が和む

感じに変わっていった。





それからハルは

気が付けばあの丘にいたのだった。





この丘に来たのだから

いつものように、ぼんやり空を

眺めようと思っていたけれど

今々は、違った。





楽しいから歌を歌ってみた。







『ハルのうた』

こかげではひかりがやすみ

ちょうちょやとりたちも

しずかにあそぶ

そらがなくのをやめたから

ぼくはかわりにないてたよ

きみはいまどこにいるの

ぼくはきみのかわりに

うたをうたうよ

ちいさなうたから

おおきなうたまで

ほら、くもがぼくのてのひらに

おっこちてきたよ

ほら、たいようがきみの

こころをいつまでも

てらしているよ









すると

うたを聴いていた小鳥達が

ハルに話しかけてきた。





「ほら、きみが会いたかった人が、来るよ。」





ハルは、少し緊張してから、何故かまた

唇をつんとさせた。

それから、丘に咲く、ハルジオンを眺めた。





「ハルさん、ハルさん。お元気ですか?」





ハルは、なかなか顔を見ることが

出来なかった。





「元気です。先生はどうですか?」





「ハイ、私は元気です。ちょうどこの頃は、金木犀(きんもくせい)が咲きますね」





ハルは、何故だか、素直になって

大好きな(まなこ)を見て喋り出した。





「この前、話しましたよ。金木犀は、ぼくのことはなんでもご存知でした。」





先生はハルの眼を見つめて、微笑んだ、微笑んだ。命は尊いんだ。





ハルは、気付けば、目を覚ましていた。すると、いつものように、なんだかがちゃがちゃがちゃした天井がうっすらと見えてきた。ハルの心は、あのよろこびで染まった、ままだった。しばらくハルは、ベッドから起き上がれなかった。

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