きらら雲/悪夢の効能/果実
『きらら雲』
かじりついた苺に
憂鬱の美しさが弾け散る
春の悲しみは
あの初夏のやさしい黄昏を呼ぶ
悲しみよ、悲しみよ
御行きなさい
つむじ風のなかを
寂寞の夜凪ぎを
土埃が舞うあの地を
君が渇くその喉仏を
行って
鸞鳥のように
機関銃を悲しみの雨で濡らしなさい
『悪夢の効能』
ある聖句ではこんなことが
言われている。
「天使が災いを携える」と。
そうして
人は悪夢を体験する。
その生臭い悪夢の中で、ひどく震え
悶え苦しみ、怯えるのだ。
だが、やがて
目を覚ます。
目を覚ましてからも
冷や汗を流し
しばらくは悪夢の余韻に襲われる。
これによって
日頃気付かなかった
潜在意識や前世の何かが
クレンジングされているのだろう。
あれ、これは夢も現実も
同じではないかしら?
次第にぼやぼやと
小鳥の囀ずりや
爛々とした太陽の白い光が差し込んで
意識が戻ってくる。
それから
人はこのように思い、痛感する。
人の中で、最も尊ばれるべきことは
清らかであること、と。
人は、清らかな豊饒のために
生きているのだ、と。
『果実』
幾つもの季節を巡り
膨らんでいくものはなあに
紫、赤、黄、青
爛々と
瑞々しく広がっていく波紋
したたり零れ落ちていく
水晶の涙
それは
歌うには甘く
習慣にするには苦いもの?
あなたとぼくが
交わした
遠い日の約束
それは洗礼のように…
ぼくたちは
選択をする力
意志を持っている!
いつでも
凛と澄んでいる今を
よりよいもの
愛の馥郁に
少しずつ近づいていこう
楽園は遠くにあるものではない
ここにす・で・にあるんだ!
ほら
ありふれた言葉が
星座となって連なり
煌めき
ときめいているよ
あなたがここにいれば
そのかけがえのない
貴い息がありさえすれば…
ほかに
必要なものなんて
何もないんだよ…
朝まで語り合おう
とっびきりの血の告白で!
今晩は
あなたを眠らせない…
眠らせないから