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痴漢されている美少女を助けたら一緒に登下校するようになりました  作者: 木嶋隆太


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第十六話 球技大会2



 どんなに頑張っても、実力以上の力なんて出ない。

 時々、うまく動けたと思うことはあっても、それはあくまで相手がミスをしただけだ。

 それでも浩明たちのチームは奮闘した。

 

 ディフェンスにしか参加していなかった浩明だったが、努めてキーパーの邪魔にならないよう動き、幸助と二人がかりで相手を何度か止めた。 


 試合は0-1で負けた。結局、浩明たちは防戦一方で攻めこめる人がいなかったのだ。

 試合時間は球技大会ということもあって短い。一試合7分という制限時間だったが、浩明は額に汗を浮かべていた。


 普段から体を動かしているわけではないため、浩明も幸助も少しの運動で息を切らす程度ではあった。もともとインドア、というのも理由の一つだろう。


「終わっちまったなー!」


 幸助がそう声をあげ、コートから下がる。

 クラスメートたちの「どんまいどんまい」という言葉に、皆は軽い調子で返していた。

 浩明もベンチに置いてあったカバンを持ち上げ、タオルと飲み物を取り出す。

 

 汗をぬぐうようにしてから、何度かスポーツドリンクに口をつける。火照った体に、冷えたスポーツドリンクが体を冷やしてくれた。

 

「うわぁー! あのときの俺のシュートが入ってたらなぁ……っ!」

「惜しかったね」


 そんな感じでクラスの中心に混ざる華恋をちらと見てから、浩明は首を振る。

 これで浩明の球技大会はほぼ終わり。あとは、後半にあるクラス対抗のドッチボール大会に参加して終わりだった。


(確か、あそこの教室なら空いているよな)


 いつも開けっ放しの空き教室が一つだけあった。

 それを思い出して浩明は、クラスの輪から離れ校舎へと向かう。


「浩明、休憩か?」


 近くにきた幸助の言葉に頷き返した。


「ああ、適当な教室で休んでる」

「おー、了解。いい場所あったら教えてくれー」

(……おまえと美咲のたまり場にされるだけじゃないか?)

「あとでな」


 一段落、あるいは今日仕上げようと思っていたところまでやったら呼んでもいいか、と浩明は校舎へと入った。

 しばらく廊下を歩き、部屋を探していく。


 球技大会の日は、各クラスの教室の鍵は閉められている。教室にはそれぞれのクラスの人たちの貴重品がおかれているからだ。

 だがそれ以外の特別教室は、普段通り鍵は開けっ放しだった。

 校則も含めてだが、浩明たちの通う高校は緩い。


 浩明は狙いの教室の扉を引く。少し開いたのを確認してから、一気に開けた。

 普段使われていないこともあって、埃っぽい教室だったが、一人でいるには悪くない。

 隅には机と椅子がぎゅっと置かれていた。倉庫のように使われているのだろう。


 昔は使われていた教室だったが、少子化もあって浩明の学年からクラスが一つ減った。

 そういう背景もあって、以前よりも空き教室は増えていた。

 浩明は比較的綺麗な机と椅子を見つけ出し、用意しておいたウェットティッシュでテーブルを拭く。


 文化祭の日を含め、一人でいられる場所を見つけるのはお手の物だった。

 浩明は流れるように準備を整え、席に座った。

 取り出したのは執筆用に購入した中古のタブレット。文書作成ソフト以外は何も入っていない、まさに専用のものだった。

 同時に取り出したのはブルートゥースキーボードだ。このセットで、浩明はどこでも執筆活動ができた。

 

 中古のパソコンも検討したが、もともと外ではあまり集中できないこと、あまり誰かに見られたくないこともあって、浩明はほとんど家以外で執筆はしない。

 しても、こういった完全に一人きりになれる状況だけだった。そして、そういった日はあまりない。


(……頑張るかな)


 それから、作品を書き始める。

 時間にして三十分ほどが過ぎた時だった。

 浩明は近づく足音に気づいて、慌ててタブレットとキーボードをカバンにしまう。


(……教師か? まさか、見回り? 去年はこんなことなかったが――)


 浩明はちらと視線を掃除用具入れに向ける。

 隠れる場所はそこか教卓しかなかった。

 しかし、想像よりも早くその人物は扉を開け、逃げかけた浩明の腰が浮いたところで止まってしまった。


「……あっ、戸高くん、いたいた」

「早水、か」

(なんだ、焦って損した……)

「ごめんね。驚かせちゃった?」

「……いや、大丈夫だ。どうしたんだ?」

「校舎に向かってるの見たから、ちょっと気になって。何してたの?」

(執筆していたわけだが、それを彼女に伝えるのも気恥ずかしい……)


 それを華恋は否定することはないと分かっていても、浩明はやはりまだ自分からやっていることを積極的に口にできるほどではなかった。


「まあ、色々と」

「そうなんだ。」


 浩明は教室に入って後ろ手で扉を閉めた華恋に、顔を引きつらせる。

 華恋の体操服姿を改めて間近で見た浩明は視線をさっとそらした。

 健康的に引き締まった四肢を見れば、華恋が運動が得意だったことを嫌でも思い出せた。


(……まさか、中に入ってくるとは思わなかったな)

「戸高くん、さっきのサッカー惜しかったね」

「……っていっても、一方的に攻め込まれていたような気がするけど」

「ほら、何度か戸高くんスライディングでうまくボール弾けてたよ! よかったよ!」

(慣れないスライディングで若干足を痛めたことは言わないでおこう)

「たまたま、だ」

「そんなことないって。ここで休んでたの?」

「……そんなところだな」

「てっきり、小説でも書いてるんだと思った」

(エスパーか?)


 華恋のずばりな言葉に浩明は頬を引きつらせて笑う。

 それを指摘するように華恋が浩明の頬を指さした。


「その笑い方、もしかして図星?」

「エスパー、か?」

「戸高くんがわかりやすいだけだよ。なるほど、だから一人になりたかったんだね?」

「……そんなところ、だな」

「それじゃあ、私は邪魔かな?」

(……なんだろう。昔なら、邪魔だと思ったけど。……今は、少し話したいとも思った)

「ちょうど、一区切りついて休もうと思ってたところだ」

「そうなんだ」


 そう笑顔を浮かべる華恋を見ていると、浩明はぎゅっと胸が苦しんだ。

 思い出したのは今朝の話だ。斎藤が華恋に告白を考えているということ。

 それを、華恋は知っているのかどうか。浩明の思考はそれでいっぱいだった。


「どうしたの?」

「……いや、なんでもない」


 そっか、と華恋はつぶやくようにいって椅子に座った。

 浩明と華恋の間にしばらくの沈黙があった。

 その沈黙を破ったのは、浩明のほうだった。


「……そういえば、今年は球技大会のあとにクラス会とかやると思うか?」

(……回りくどい、質問だな俺)


 その質問が出てきたのは、華恋の放課後の予定を確認したかったからだ。 

 他クラスである斎藤が接触する前に、華恋が教室を出るのなら――という考えのもとでの質問だった。


(って、なんだ俺は。これじゃあまるで俺が早水のこと好きみたいじゃないか。別に、そういうわけじゃない)

「やるって言っていたよ? クラスのLINFにも……あー戸高くんそういえば入ってなかったね」

「まあ」

「どうなるかは分からないけどね? 初めはカラオケっていう話だったけど、他のクラスもやるみたいだからあいてないかもだし。近くのファミレスとかになるかもね」


 店にあまりがなければ、別の店舗に行くことになる。

 ただ、浩明と華恋たちの住んでいる場所に比べ、高校周りは店が多い。

 カラオケ、あるいはファミレスあたりで団体で入ることは決して難しくはないことだった。


(……斎藤のこと、どう思ってるんだろうな)


 浩明はそんなことを考えながら、けど、それを口には出せなかった。


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