魔女に会い、水攻めに遭う。
◇ ◇ ◇
この世界に31代目の魔王が現れた時、それに対抗し得る勇者を女神様は選び出しました。
その勇者の名はルーカス。
彼は田舎の村出身のとても優しい少年でした。
勇者となったルーカスは、同じく女神様から選ばれた騎士、魔女、僧侶と共に旅に出て魔王討伐を目指します。
勇者パーティは強く、そして仲の良いパーティだった為旅は順調に進んでいきました。
少しの苦労はあれど、被害は最小限に進んでいきました。
しかしある日、勇者ルーカスは言いました。
もう、モンスターを倒す事は出来ない、と。
仲間たちは驚いてルーカスに理由を聞きますが、ルーカスは何も言いません。
ただ、旅を止めると言うのです。
唐突な言葉に騎士は怒り、勇者に掴みかかりますが、勇者は意見を変えません。
そして、魔女と僧侶が騎士の怒りを宥めている間に、勇者は姿を眩ませました。
あたりを探しても勇者の姿は見つかりません。
ただ、彼が愛用していた剣だけが見つかっただけでした。
こうして、勇者ルーカスはいなくなり、この世界にはまだ魔王が座っています。
逃げ出した勇者ルーカスは「臆病者勇者」として、その名は世界に広まりました。
それでも、勇者ルーカスの行方は誰にもわかりません。
◇ ◇ ◇
「どうだい?なかなか纏まった絵本だろう」
丸っこい人間は上体をそらすように嬢ちゃんに言う。
にゃんでこいつが偉そうにゃんだ?まぁ、よくわからにゃいがこの「えほん」と言うのがこいつの自慢のしにゃらしい。
「……興味深いですね」
丸っこい人間にそう返した嬢ちゃんもおいらと同じ考えにゃのか、複雑そうにゃ表情を見せていた。
さて。おいら達は今にゃんの変哲もにゃい道のまんにゃかにいる。
ここにいるのはおいらと、飼い主の嬢ちゃんと、嬢ちゃんに雇われた毛むくじゃらと、「しょうにん」だとにゃ乗った丸っこい人間だ。
あの都市で旅に必要にゃ物を買い込んだおいら達は、朝ににゃるのを待って都市を出た。
お日様が真上に来るあたりで、道の真んにゃかで立っている丸っこい人間を見つけ、嬢ちゃんがはにゃしかけたのだ。
どうやら馬車があにゃにハマって困っていたそうだ。嬢ちゃんが黙って毛むくじゃらを見つめ、その視線に耐えれにゃかった毛むくじゃらの協力で馬車は無事にあにゃを抜けたのだ。
そして今、礼ににゃにか差し上げるとの言葉を遠慮にゃく受け取り、商品を漁っていたところ「えほん」を見つけたのだ。
おいらにも書かれている文字は読めたが、「ゆうしゃ」とかわからにゃい言葉が多い。後で毛むくじゃらに聞いておこう。
「この絵本、どこで売られてるんだ?今まで見たことがないな」
「えぇ。実はこの先にある街に住んでいる魔女様が書いた本らしいです。なんでも、元勇者パーティの魔女様らしいですよ」
まじょ?そういえば「えほん」にもまじょって言葉があったな。人間のことか?
あ?そういえば嬢ちゃんや毛むくじゃらがまじょって言ってた気がするぞ?
「この先の街にですか?」
「えぇ。今から行けば日が暮れるギリギリには着くでしょうか。魔女はあまり良いイメージはないのですが、あの魔女様は良い方でしたよ」
「……そうか、ありがとう。この食料貰っていく」
「それでいいのですか?」
「あぁ。旅に必要なのはやはり食料だからな」
丸っこい人間はにゃんども礼を言って馬車を動かした。あっちは都市に向かっていくのでおいら達とは反対方向だ。
毛むくじゃら、その食料のにゃかにさかにゃはにゃいか?
「……クロスケが好きそうな魚はないが、まぁしばらく食料には困らないだろう」
クロスケ言うにゃ。
魚がにゃいのは残念だが、まぁこの辺には美味しいネズミがうろちょろしていたから食べ物を楽しめるにゃ。
「ライラ?さっきの絵本欲しかったか?」
毛むくじゃらの言葉に嬢ちゃんの方を見れば嬢ちゃんはまだ複雑そうな表情をしている。
「絵本は欲しくありません。……ただ」
「ただ?」
「……なんでもありません」
嬢ちゃんはそう言って先に歩き出した。おいらは毛むくじゃらの肩に飛び乗る。
にゃあ、嬢ちゃん不機嫌ににゃってにゃいか?
「なってる。が、理由がわからないから変に手出しできないだろ」
おまえ、意外と弱いんだにゃ。
「黙れ」
「リュカー?どうしたんですかー?」
先に歩いていた嬢ちゃんが声を掛けてくる。毛むくじゃらは肩をすくめ嬢ちゃんに向かって歩き出した。
その後は何も問題はにゃく、新しい街に辿り着いた。
「今までも思ったのですが、街までの間隔が近いのですね」
「この辺はキアタ国領土の中心に近いから、街が近くに集まっているらしい。この街を過ぎたらキアタ領土内の町や村は一つあるかどうかだったはずだ」
ほぉ、じゃあ人間だらけの場所はここで終わりか。
そういやぁ、丸っこい人間が言っていた魔女もここにいるのか。
「ひとまず今日は宿を探してしまおう。日も暮れたし、街の中とはいえ危ないだろう」
「宿、ですか。近くにあるでしょうか」
「あら、うちに泊っていくものだと思っていたのだけれど」
突然聞こえてきた声においらは思わず嬢ちゃんの腕に隠れた。嬢ちゃんも少し驚いたように身体をびくりと震わせたが、その姿を見て息を吐き出した。
「ま、魔女様ではないですか」
嬢ちゃんの言葉に顔を上げると、そこにいたのは女の人間だった。真黒な姿にとても共感を覚える。
「ライラ、こんなところで再会できるなんて思わなかったわ。その猫は貴女の?」
「は、はい。魔女様に教えてもらった召喚術で召喚した子です。クロスっていう名前で、雷の魔法が使えるんですよ」
嬢ちゃんはおいらの脇に手を入れて持ち上げる。おいらの身体がぷらーんと伸びる。あ、なんか身体が伸びて気持ちい。
魔女と呼ばれた人間はおいらをじろじろと見つめてくる。少し居心地が悪い。
「額の模様が珍しいけど、見た感じは普通の猫ね。でも、変に猫をつれていたら魔女と間違えられない?」
「そんな理由でこの事一緒に入れなくなるのは嫌ですし、構わないですよ」
そう言えば、と嬢ちゃんは毛むくじゃらを見る。
「リュカは魔女様と知り合いだったんですよね?魔女様がリュカを紹介してくれましたし」
ん?にゃんだよ。全員知り合いにゃのか。おいらだけ弾かれてる気分だぜ。
嬢ちゃんに話しかけられた毛むくじゃらはにゃにも言わない。
「……私はそんな奴知らないわよ」
魔女の言葉に嬢ちゃんは目を丸くした。
毛むくじゃらを見ると、こいつは黙ったまま頷くだけだ。
狼狽えている嬢ちゃんの背中を魔女が叩き、魔女が微笑する。
「とりあえず、ライラと私は知り合いだし、よければうちに泊って行って」
魔女の家に向かっている間、魔女と嬢ちゃんから色々聞けた。
嬢ちゃんの住んでいた国が魔王軍に襲われ、逃げてきた嬢ちゃんを拾ったのがこの魔女だそうだ。
ボロボロだった嬢ちゃんに服や少しの食料を与え、偶然通りかかった毛むくじゃらに嬢ちゃんの護衛を任せたそうだ。偶然出会ったので毛むくじゃらとは知り合いというより顔見知りのようにゃ関係だそうだ。
魔女の家の中に入る。見た感じは普通の家のようだが、テーブルの上にあの絵本が乗っかっていた。
「魔女様、そう言えばその絵本って」
「あぁ、私が作ってみたの。読んでくれたの?」
「……ルーカス様はそんなんじゃないです」
また嬢ちゃんの不機嫌そうな声だ。嬢ちゃんはそんにゃに絵本が嫌いにゃのか?
嬢ちゃんの姿を見た魔女は首を傾げる。
「あら、ライラは勇者を覚えてたの?」
「覚えてますよ。忘れていたのなら魔女様の事も覚えていないです」
それもそうか、と呟きにゃがら魔女は椅子に座る。絵本を手に取った毛むくじゃらも変にゃ顔をしている。
どうしたっていうんだ?二人して。
「ほら、猫ちゃんが心配そうにしてるし、二人も椅子に座りなさい」
魔女の言葉に二人は大人しく椅子に座った。
それを待ってから魔女はおいらを見る。
「初めまして猫ちゃん。私は魔女。昔勇者のパーティに入っていた魔女よ。名前は捨てたから、魔女さんと呼んでね」
勇者パーティ?あぁ、そういやぁ丸っこい人間が絵本を作ったのがその魔女だって言ってたにゃ。
つまり偉いのか?
「偉いかどうかで聞かれたら、まぁ偉くはないわね。今は静かに住んでいるだけの魔女よ」
うん?あれ、会話できてる?
「動物の言語とかモンスターの言語とか必死に学んだからね。これぐらい話せるようにならないと色々不便だし」
魔女の視線が動いたのでそちらを見ると、毛むくじゃらがいた。どうやら魔女は毛むくじゃらもおいらと話せることを知っているようだ。
にゃにも知らない嬢ちゃんは不思議そうにおいらを見つめていたが、すぐに魔女を睨む。
「魔女様には感謝しておりますが、この絵本は少し許せません」
「許せないって言われてもねぇ。これ、ルーカスに頼まれて作ったのよ。5年経って勇者の結末を知らない人に伝わるようにって」
嬢ちゃんは目を丸くして、言葉が出てこにゃいのか黙り込んでしまった。
そんなに嬢ちゃんにはそのルーカスって奴は大切にゃのか?
「……姫様はそんなにルーカスが気に入ってたのかしら?」
「姫様はやめてください。今は国の復興は考えないことにしたんです。それと、ルーカス様とはよくお話させてもらっていたので」
「そういえば、パーティから離れてよく話してたわね。歳が近いのもあったからかしら?」
「いえいえ10も離れてましたから。ルーカス様の生まれ故郷が国と似ていたので話が合ってただけです」
「あら、そうだったの。そういえばあの子も農村の生まれだったわねぇ」
魔女はにゃつかしむように目を細める。ふと毛むくじゃらの方を見るも視線をそらされた。
にゃにか言いたいなら言えよ。
「……ライラ、疲れたんじゃないかしら。もしよければお風呂入っておいで」
「え、でも……いいのですか?」
嬢ちゃんの目が輝いたのが見えた。
嬢ちゃんをそんな顔にするにゃんて、オフロってそんにゃすごいものか!
「いいわよ。旅の間身体洗えないのって辛いわよねぇ。入れる内は遠慮しないで入っておきなさい」
「…………ありがとうございます」
少し嬉しそうに嬢ちゃんは魔女に教えられた扉に入っていく。おいらもそれについていく。
嬢ちゃんが服を脱ぎだす横で部屋を確認する。
ふむ、にゃんか不思議にゃ臭いはするが、そこまで不快ではにゃいにゃ。オフロというのがどんなものかわからないけれど、危険はにゃいようだ。
「クロスも洗わないといけませんね。大人しくしててね」
そう言って嬢ちゃんはおいらの身体を抱き上げる。おいらはされるがままにされていたが、隣の部屋に入ってからにゃにか嫌にゃ予感を感じた。
凄く、水臭い。水の匂いが強い。
逃げ出したいのに足が動かにゃい。
嬢ちゃんはおいらを丸い入れ物にいれる。木製のそれだけだったらよかったのに、にゃかには水が入っている。しかもその水からにゃんかしらんが白い煙が出てる。
脚が水面に触れて、おいらの脚がびくっと反応して縮こまる。だが嬢ちゃんは容赦にゃくおいらを水の中に入れた。
うわあああああ!?にゃんかしらんがこの水冷たくにゃい!にゃんだこれ怖い!意味がわからにゃい!嬢ちゃん!嬢ちゃん出して!!
「クロス、そんなに叫んでは喉が枯れてしまいますよ。静かにお湯に浸かっていてください」
にゃんで嬢ちゃんにはおいらの声が届かにゃいんだよぉおおお!!嬢ちゃんに言われたら声も出せにゃいじゃにゃいかよ!
ここから出るのは諦めるしかにゃいのか。嬢ちゃんはおいらを気にせずに身体を洗ってやがる。
そもそもにゃんで水で洗うんだよ。毛づくろいでいいじゃにゃいか。にゃんでこんにゃに戦闘力減らされにゃきゃいけにゃいんだ。
もう、こうにゃったら別の事に集中しよう。集中すれば水を気にする事もにゃくにゃるはず。きっと、多分そう。
集中したおいらの耳に先程の部屋にいた毛むくじゃらと魔女の会話が届く。
「メラニー、お前は変わらないな」
「あんたはいつになればその邪魔臭い髭をそるのかしら、リュカ」
あと、その名前はもう捨てたの。と魔女の不機嫌そうにゃ声が聞こえてくる。
にゃんだよ、にゃまえで呼び合えるぐらいに知り合いだったんじゃにゃいか。
それにしても、と魔女が堪えきれずに噴き出す。
「あんなに可愛かったのに見事に熊になったわね。最初わかんなかったわ」
「印象を変えられたのならよかった。顔は隠したかったしな」
「でも勿体ないわ。美形だったのに。むしろ美少年だったのに。勇者であり、見た目もいいからこそ人気あったのにねルーカス」
ん?ルーカス?そのにゃまえ聞いたぞ?それって、勇者のにゃまえだよにゃ?
はにゃしのにゃいようが気ににゃっておいらは耳に全神経を研ぎ澄ませる。だが、それは嬢ちゃんによって邪魔をされた。
「さ、次はクロスを洗いますよ」
そう言って嬢ちゃんはおいらの身体に水をかける。
いぎゃああああ!?ちょ、嬢ちゃんやめて!?集中できにゃい、むしろもうにゃにも考えられにゃい!?
「クロスは大人しくていい子だねぇ」
おとにゃしいんじゃにゃくて動けにゃいだけにゃんだよ!とにかくいいからおいらを水から引き上げて!すぐに引き上げて‼嬢ちゃんお願い!
「黒いから気づかなかったけれど、クロスは結構汚れていたんですね」
今だけでいいから嬢ちゃんにおいらの言葉届いて‼にゃあ毛むくじゃら、魔女聞こえてるよにゃ!?早く助けに来いにゃあああ‼
ステータス紹介
名前:ライラ・セト・トラロク
種族:人間
性別:♀
年齢:10歳
出身地:セト国
誕生日:5月18日
容姿:金髪 臀部まで伸びてた髪をバッサリ切ったので今はボブカット。
青目
身長は平均的。
右耳にセト国王族の証のピアスを付けている。今では遺品として大切にしている。
今は板だけど、きっと将来魅力的なボディの女性になるはず。
スキル:水属性魔法Lv.2 治癒魔法Lv.3
HP:300/300 MP:100/100
属性:水
セト国が魔王軍に滅ぼされ、逃亡した姫様。
ボロボロの状態を魔女に拾われ、服と食事を与えてもらい、ついでに通りがかりでキアタ国の方向へ向かう途中だったリュカに金を払い護衛としてもらった。
リュカには護衛と旅をする上での基本知識を教えてもらい、師匠と弟子のような関係となっていた。
召喚法は魔女に教えてもらっていて、戦闘力が欲しいと願い召喚した。でも可愛いからほとんどペットのような扱いをしている。
王族としての教育を受けていたが、羊に乗って駆け回っていたりもしていた。
クロスの声は全く聞こえていないがペットのように可愛がっているのは確か。
クロスと話せる日が来るかは謎。
今は王族である事を隠して旅をしたいが口調とかは中々直せずに困っている。
前は戦闘には非協力だったけれど髪を切ってからはそれなりに頑張っている。書いてないだけです。