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クロ猫クロスのクロニクル  作者: ほしぎほし
2/24

猫、スライムに流される。

 眩しい陽射しにおいらは起こされた。

 夜は寝にゃい生活していたが、いつのまにか寝ていたようだ。側にいた嬢ちゃんはおらず、目玉を動かして周りを見れば、毛むくじゃらににゃにか話している姿を見つけた。


 早起きだにゃあ嬢ちゃん。


 そう思いにゃがら近づけば、先に毛むくじゃらと目が合った。

 こいつにはおいらの言葉がわかるらしいが、おいらが思ったこと全部が筒抜けにゃのだろうか?

 毛むくじゃらの視線を追った嬢ちゃんが振り返り、おいらを見る。するとぱぁっと日が昇ったみたいにゃ輝く笑顔をおいらに向けた。


「おはようございます、クロス!よく眠れましたか?」


 おはよう嬢ちゃん。おいらにはまだ少し寝たりねぇにゃ。ま、にゃにせ猫はよく寝る動物だから仕方ねぇんだが。嬢ちゃんは眠れたのかにゃ?


「ライラはよく寝れたのか?」


 自然にゃように毛むくじゃらがおいらの問いを嬢ちゃんににゃげてくれる。おぉ、流石は翻訳家。


「はい。まだ野宿は慣れないのですが、クロスの温もりのお陰でか昨日よりは眠れました」


 そいつはよかったぜ。飼い主が元気じゃにゃいとペットとしては困るからにゃ。


「……飼い主」

「どうしたのです?」

「あ、いや。なんでもない」


 笑いを堪えている毛むくじゃらに嬢ちゃんが不思議そうに首をかしげる。


 おいらにゃにか可笑しいこと言っただろうか。



 朝食を食べたおいら達はすぐに動き出す。

 昨日毛むくじゃらが教えてくれた通り、村を目指すようだ。

 鮮やかにゃ世界はまだ物珍しく、嬢ちゃんから離れたりくっついたりして歩いていたが、危にゃいからと嬢ちゃんに抱えられた。


 ……楽ではあるが、一人でも歩けるんだけどにゃ。


「この辺は冒険者が多いからモンスターが出る心配は少ない。だからそこまで身構えなくていいぞ」


 嬢ちゃんより先を歩く毛むくじゃらがそう言ってくれたが、嬢ちゃんは首を横に振る。


「万が一があります!折角仲間になったクロスに怪我をさせたくありません」


 そうは言うけど、嬢ちゃん。ただおいらを抱きたいだけだろ。笑顔が貼りついたままじゃねーか。


 毛むくじゃらはそんにゃ嬢ちゃんを見て諦めたように肩を竦めやがった。


 もう少し説得してくれよ。


 村が見えてきた辺りで、ふとにゃにかを感じた。


 ……毛むくじゃら、にゃんか来るぞ。


 おいらの声が聞こえた毛むくじゃらは、立ち止まりおいらを見る。


「リュカ?どうしたのです?」

「……嬢ちゃん、クロスを放してくれ」


 毛むくじゃらの少し声を潜めた低い声に、嬢ちゃんも流石においらを解放する。おいらは向かって右の方に少し走り、上半身を低くする。方向がわかった毛むくじゃらも、おいらとおにゃじ方を見て、嬢ちゃんを守るように立つ。剣は抜いてにゃいが、いつでも抜けるように触っている。

 しばらくじっとそちらを見ていた。そして、それはやってきた。

 最初は小さにゃ塊だったが、どんどん大きくにゃり、おいら達の所にやってくるとそれは沢山の物が集まった塊だとわかる。

 おいらには見たことがにゃい、水色のプルプルした物体だつた。それが、おいら達に攻撃もせず、おいら達をギリギリで交わしにゃがら後ろににゃがれていく。まるで水のにゃがれみたいに。


「す、スライム、ですか?」


 嬢ちゃんの全身をすっぽり包むぐらいの量まで来ていたそれは、あっという間ににゃがれていった。


 ほぉ、スライムと言うのかあれ。


「みたいだな。大きさからして生まれたての、無害認定されるスライムだったが」

「スライムって、生まれるのですか?分裂だと思ってましたが」

「分裂で増えるが、あんな感じで大量に分裂になると生まれるって言った方が正しい気がしてくるだろ?」

「……そう言われると、そうですね」


 分裂して増える。ふむ、にゃかにゃか面白い奴のようだ。


 スライムがにゃがれて来た方向を見ると、もう一匹、小さなスライムが近づいて来ていた。こいつだけ、にゃがれていると言うか、バッタみたいにピョコピョコ跳ねている。

 そいつはおいらの足元まで来たと思うと、その動きを止めた。おいらは首を傾げ、スライムにはにゃを近づける。


 ふむ、水みたいにゃ匂いだ。


 しばらく匂いを嗅いでいると、突然スライムの身体が震え出した。思わず身体が上に跳ねて、おいらは慌てて嬢ちゃんの後ろに身体を隠した。


 ……いや、ビビってねーぞ。奴の動きを見るために移動しただけだぞ。ビビって身体が跳ねたとかそんなんじゃねーからにゃ。


 おいらの行動に二人が笑いを堪えている。毛むくじゃらに関しては笑い声が抑えられてねーじゃねーか。こんにゃろう。

 改めてスライムを見るとまだ身体を震わせていた。その姿を見守っていると唐突に震えが止まる。そして、その頭?に三角の物が二つ生えた。まるでおいらの耳みたいだ。


 ……耳?


「あら、クロスとおんなじですね」


 嬢ちゃんはスライムの変化に嬉しそうにゃ声を出す。


 おんにゃじって、耳が一緒にゃだけじゃねーか。


 耳を生やしたスライムは、おいらに向かって跳ねてくる。おいらに触れたと思えば、すりすりと身体を擦り付けて来た。


 おいらにマーキングとはいい度胸してるじゃねーか。


 おいらがぺしっと右前足でスライムにパンチを与えると、スライムはコロコロと転がったが、またおいらに擦り寄ってきた。


「これは、懐かれたな。クロスケ」


 はぁ?にゃついた?


 おいらは毛むくじゃらを見てからスライムを見る。スライムはおいらを見上げてどこか嬉しそうに身体を震わせている。


 にゃんつーか、変にゃのににゃつかれちまったにゃ。


「まぁ、害意がないなら大丈夫だろ。今日中につかなくなっちまうし、動くぞ」

「あ、そうでした。行きましょうクロス」


 そういやぁ、そうだったにゃ。


 おいらが嬢ちゃんの広げた腕に向かって飛びこむ。嬢ちゃんがおいらの身体を抱え、おいらが体制を整えてから下を見ると、スライムが嬢ちゃんの足元でぴょこぴょこ跳ねていた。嬢ちゃんが動くとついてくる。嬢ちゃんとおいらは困ったように毛むくじゃらを見れば毛むくじゃらは息を吐き出し、スライムを掴んだ。


「仕方ない連れてくぞ。そんで仲間見つけたら返してやろう」

「それがよさそうですね」


 嬢ちゃんも苦笑交じりにそう言った。今はとにかく進むことを最優先にするらしい。

 毛むくじゃらの手から逃げたスライムはおいらの頭の上に乗っかる。すごく邪魔臭いが、少しの我慢、のはずだ。



 そしておいら達はスライムを連れて村に向かって歩いていく。道中でちらほらとスライムを見かけるぐらいで他に代わったことはにゃかった。だが、村に着くと小さい村のくせにやけに人がいた。


「なんだ?やけに多いな」


 毛むくじゃらの言葉に、異常に多いのだと確信する。毛むくじゃらはここで待っていろと言って人だかりに近づいていった。残されたおいらと嬢ちゃんは邪魔ににゃらにゃい場所にしゃがみ込んでスライムを突いている。そこに人間が一人近づいてきた。


「あら、お嬢ちゃんも冒険者かしら?」

「いえ、私は冒険者ではないです。この先の都市に用事があって」

「そうなの?それは困ったわねぇ」


 しゃがみ込んでいた嬢ちゃんは立ち上がり、人間に向き合う。おいらはとりあえずにゃにがあっても動けるように尾を後ろに動かす。


「何かあったのですか?」

「実はね、この村と都市の間に川が流れてて、その川を越える為の橋が壊れてしまって都市にいけなくなってるの」


 人間の言葉に嬢ちゃんはにゃにも言わにゃかったが、息を飲む音が聞こえてきた。


 ふむ、とりあえず嬢ちゃんの目的の都市に行けにゃいと。それは嬢ちゃんにとっては困った問題だにゃ。


「えっと……、村の地面が全体的にぬかるみになってますが、最近大雨が降ったのでしょうか?」

「大雨は降ってないんだけどねー。川の水が氾濫したおかげで村も水浸しになってたのよ。今はまだよくなったけど、しばらくは外歩くのも大変だったのよー」

「氾濫、ですか?大雨じゃなかったのに?」

「そ。実は近くの川って、離れたところにある大河から枝分かれした小さめの川なのだけど、流れをせき止められるようにモンスターが詰まっちゃって」

「詰まった?」

「そ。あぁ、その猫ちゃんの傍にいるスライム。それをもっと大きくしたスライムがね」


 スライム。その言葉においらは耳が生えたスライムを見下ろす。


 そういや、こいつが来る前のスライムの波は集まれば十分な大きさにゃのだろう。そう考えれば、川とせき止めるのも簡単か。まぁ、おいらにはよくわからにゃいけど。


 いや、川ってのはわかるぞ。よく水飲みに近づいたからな。たくさんの水の塊だろ?


「今冒険者を募ってスライムを何とかしてもらってるんだけど、そう簡単にはいかないみたいだね。しばらくは都市に行けないと思っておきな」

「……わざわざありがとうございました」


 人間ははにゃしを聞いてもらえてすっきりしたのか、おいら達に手を振ってはにゃれていった。それを待っていたようなタイミングで毛むくじゃらが戻ってくる。


「待たせた。どうやらでっかいスライムが川をせき止めているらしい」

「先程婦人の方に聞きました。今は水は大丈夫なのでしょうか」

「大河の方で、こちらに流れて行かないよう水門を閉じたらしいから水害被害はこれ以上酷くならないそうだ。ただ、橋が壊されたから復旧にはしばらくかかるだと」

「そう、ですか……。スライムをどうにかできないのでしょうか」

「どうにかしたいところだが、スライムに打撃攻撃が効かない。雷属性の魔法を喰らわせれば分裂してくれるなりするだろうが」


 かみにゃりぞくせい?にゃんだ聞いた事がねーぞ。


 毛むくじゃらはおいらを一瞥してから、一つ咳払いをして嬢ちゃんを見る。


「ちなみにライラ、属性の事は覚えているか?」

「魔法の分類でしたよね。炎、水、雷、大地、風の5種類が基本的な物で、炎は水に、水は雷に、雷は大地に、大地は風に、風は炎に有効でしたよね?」

「ついでに言うと、生き物にそれぞれの属性の神の加護がついている。だから生き物によっては弱点である属性は違う。で、今回のスライムの属性は、……まぁ、たまに例外もあるが基本は水属性だ」

「なるほど、だから雷属性の魔法が有効と」


 いまいち理解はできねぇけど、とりあえずスライムには雷喰らわせろってことか。

 にしても、二人が言ってる魔法ってのもおいらにはよくわかんねぇ。魔法ってにゃんだ?


「……ライラ、お前は何の魔法が使えた?」

「私は水です。戦闘では使用したことは無いのですが」

「俺は炎だからスライムには聞かないな。先程集まった冒険者を見た限りでも雷属性の奴はいなかったし」


 ふむ、おいら達でもどうにもできにゃいと。にゃら後で毛むくじゃらに魔法とかよくわからにゃいとこを聞いておこう。


「あ、そうです。クロスはどうでしょう?魔法が使えるのでは」

「猫に魔力があるとは聞いた事あるが、魔法使えるのか?」


 嬢ちゃんがおいらに目線を合わせてくる。


「何事も試してみませんと。クロス、魔法使ってみてください」


 魔法を?おいら魔法の事にゃにもわかんにゃいぞ。


「手っ取り早く、サンダーボールでいいぞ。力込めて言ってみろ」


 毛むくじゃら、そんにゃ説明でわかると思うにゃ。でも嬢ちゃんの期待のまにゃざしがやれと言ってきてる。


 と、とりあえずやってみればいいんだろ?えっと、さんだーぼると?だったか?


 おいらがそう呟いた途端、おいらの目の前にびりびりと音を立てる紫色の玉が浮き出た。驚いてそれを見つめていたが、それはすぐに消えた。


 にゃんだ、今の?


「クロス!」


 嬢ちゃんの声に驚いて見上げると、嬢ちゃんはおいらを抱き上げた。


「凄いですクロス!魔法が使えるなんて!」


 お、おう。嬢ちゃんが喜んでくれるのは嬉しいが、ちょっと揺さぶりすぎだ。


「ライラ、嬉しいのはわかるがあまり揺さぶってやるな」

「あ、ごめんなさい」


 毛むくじゃらの言葉に嬢ちゃんは慌てておいらを地面に降ろしてくれた。危にゃい危にゃい、ヘタしたら意識が吹っ飛んでいくところだった。

 一応助けてくれた毛むくじゃらを見上げたが、毛むくじゃらはおいらを見下ろしてにっと笑っていた。

 にゃにか嫌な予感がする。


「ライラは早く都市に行きたい。で、クロスケならスライムを何とかできるなら、やるしかないよな?」


 毛むくじゃらの笑顔においらは嫌にゃ予感を感じて、思わず毛が逆立った。




 沢山の人間が、深くてにゃがいあにゃを見下ろしてにゃにか言っている。その近くにでっかいスライムがそのあにゃに埋まるように存在していた。おいらの頭の上に乗りやがった耳付きスライムにゃんかと比べられにゃい大きさだにゃ。


「橋がなくとも、水がない今なら向こう側に行けそうですね」

「そんな事言わないでおいてくれ」


 毛むくじゃらは肩をすくめてから嬢ちゃんの背中を叩く。

 あにゃの中を通って向こう岸に行くにしても、あっち側の岸はほとんど直角で登るにはかにゃり苦労しそうだ。これはおとにゃしく橋が出来るのを待った方がよさそうだ。


 嬢ちゃんはおいらを両手で抱きしめたまま、あにゃのにゃかに降りていった。

 見ているだけだった人間達が騒ぎ出したが、嬢ちゃんはそちらを見ていにゃい。まっすぐにスライムを見つめていた。


「クロス、お願いします」


 頼まれにゃくても、嬢ちゃんがしてほしいにゃらやってやるのに。


 先程とおにゃじようにサンダーボールを唱えると、再びおいらの前にバチバチいってる玉が浮かび出る。今度は驚かず、それをスライムに向かって転がすのをイメージすれば、そのイメージ通りに玉はスライムにぶつかっていった。瞬間、でかいスライムの身体が震え、そして分裂した。

 二つに分裂したどころじゃにゃい。何十にも、何百にも、小さなスライムに分裂し、それは先程見たように水のように流れてきた。

 嬢ちゃんのおいらを抱きしめる腕の力が強くにゃる。おいら達はそのままスライムの流れに巻き込まれた。

 目の前が水色で埋め尽くされていく。

 嬢ちゃんがおいらを抱きしめてにゃければおいらと嬢ちゃんはあっという間にはにゃればにゃれだっただろう。

 動かずにじっとしていれば身体を思いっきり引っ張られた。スライムからはにゃれてやっと新鮮にゃ空気を吸えたおいらは深呼吸をする。


 あぁ、空気が美味しいと思える。


 見上げれば長い紐を握っている毛むくじゃらが見えた。

 にゃるほど、嬢ちゃんに紐を括りつけていたのか。嬢ちゃんのお腹に紐が括りつけられているようで、嬢ちゃんは苦しそうな声を上げた。

 毛むくじゃらが引っ張り上げておいら達は無事にあにゃの外に出された。嬢ちゃんの腕からはにゃれたおいらは身体を伸ばす。あのサンダーボールとかいうの出したら身体が少し怠く思えたが、まだ寝るわけにはいかにゃいだろう。

 先程までぼーっとでかいスライムを見ていた人間は大声を上げて、嬢ちゃんを囲んでいる。


 にゃんだおまえら。嬢ちゃんが怖がってるじゃねーか。


 おいらが嬢ちゃんと人間達の間に入って威嚇してみせるが、人間達は気にした様子もなくおいらの頭をにゃでてくる。


 くっそ邪魔臭い。


「すまない。こいつらも疲れているから、話を聞きたいのはわかるが後にしてくれ」


 はにゃれた場所にいた毛むくじゃらが周りの人間達にそう声を掛けてくれた。


 声を掛けるにしても遅いぞ全く。


 毛むくじゃらの声に嬢ちゃんも少しほっとした顔を見せている。まだ色々言いたそうな人間達を放っておいら達は近くの建物のにゃかに入っていく。にゃかにいた人間達もおいら達を見て声を上げている。

 でっかいスライムがいにゃくにゃったのが嬉しいんだろうけれど、うるせぇにゃ。

 嬢ちゃんと毛むくじゃらが椅子に座れば、あっという間に目の前のテーブルに沢山の食べ物がにゃらべられる。一通り食べた毛むくじゃらにたくさんの人が群がって来た。嬢ちゃんはそれを恐れてかゆっくりと食事を楽しんでいたので、おいらもそれににゃらってのんびりと食べている。


「その猫が雷の魔法使ったのか?すごいな」

「普通の黒猫じゃないんだな。その額の白十字が特別感あるな」

「額に白十字を掲げし黒猫が村を救った……、そんな話にすれば盛り上がりそうだ」


 にゃんか色々言ってくるが、おいらにはよくわからにゃい。

 おいらの頭の上に乗っていた耳付きスライムはおいらの頭から降りてテーブルの上に乗っている。そんにゃスライムが珍しいのか、そちらを見ている人間も多い。

 にゃが引かせた食事が終わった嬢ちゃんに気づき、毛むくじゃらが声を掛ける。


「ここの上が宿屋になってる。疲れただろうし、部屋を借りて横になってこい」

「……わかりました。ありがとうございます」


 少し考えた嬢ちゃんがおとにゃしくうにゃづいた。まぁ、毛むくじゃらみたいに人間に囲まれるのは嫌だろう。嬢ちゃんが階段を登っていくのを見ておいらもついていこうとすると、スライムもおにゃじようにおいらについてくる。仕方にゃいので階段を登る前においらはスライムに向き合った。


 お前はお前のにゃかまの方に行け。


 おいらの言葉がわかってか、スライムは身体を震わせる。


 お前はおいら達についてくる義理はにゃい。それに、にゃかまの方にいた方が安全かもしれにゃいぞ。


 スライムは動かず、黙り込んでいる。そしておいらの次の言葉を待つ前にスライムはおいらを見つめた。


『……ネコ、スキ』


 そう言って、スライムはぴょこぴょこ跳ねてこの建物から出ていった。ちゃんと、にゃかまのところに行ければいいが。

 おいらはスライムが出ていった扉を少し見つめてから階段を登っていく。登った先には少しにゃがい廊下があり、少し開いていた扉のにゃかに身を滑らせる。部屋のにゃかにあったベッドに嬢ちゃんは横たわっていた。近づいてみれば寝息を立てている。


 まぁ、あれだけ歩いたし、スライムににゃがされたりと大変だったもんにゃ。


 おいらも嬢ちゃんの枕元で身を丸める。おいらにもすぐに眠気が襲ってきた。下がうるさいが、そんにゃのは気ににゃらにゃいぐらい、おいらは深く、眠りについた。




 次に目を覚ましたのは、叩く音が聞こえてからだった。

 おいらより先に起きた嬢ちゃんが扉に近づいていく。おいらは欠伸をして身体を伸ばす。思ったより良く寝ちまったぜ。


「ライラ、それとクロスケ。起きてたか」


 クロスケ言うにゃ。


「今起きたところです。どうかしたのですか?」

「都市の方から使者が来てる。お前らに礼を言いたいと。俺が対応してもいいが、ライラの目的を考えると会った方がいいだろ」

「……すぐに準備します」


 そう言って嬢ちゃんは扉を閉めて服を脱ぎだす。おいらも顔を洗ったりと毛づくろいをして準備をする。

 準備が終わった嬢ちゃんに抱きかかえられ、おいら達は一階の食堂に降りる。そこには昨夜のように人は沢山いなかったが、それにゃりの人間が椅子に座ってこちらを見ている。その中に周りの人間とはまた違った雰囲気を出した人間が毛むくじゃらの横にいた。毛むくじゃらがその人間に耳打ちをすると、その人間が嬢ちゃんに近づいてきた。


「貴女が、スライムをどかしてくれた方ですか」

「私が、と言いますか、私の召喚獣がやってくれました」

「そうでしたか。私はキアタ国王により使わされたジャンと申します。この度水を抑えていたスライムをどかした貴女方に褒美を差し上げたいので、よければ共に都市へ来ていただけますか?」


 嬢ちゃんはうにゃづき、おいらを地面に降ろした。嬢ちゃんは服の裾をつまみ、軽く頭を下げた。


「私はセト国の第三王女、ライラ・セト・トラロクと申します。我が国と親交深いキアタ国へ向かっていましたので、その申し出を有り難く受けさせて頂きます」


 人間は少し驚いた表情を見せてから、慌てて頭を下げた。


「これは、ライラ王女とは知らず失礼を」


 おいらは毛むくじゃらに近づき、その肩に乗った。


 おい毛むくじゃら、おうじょってにゃんだ?


「……国で偉い人間の一人だと思ってくれ」


 にゃるほど、偉い人間。じゃあ嬢ちゃんは偉い人間なのか。


「まぁ、そういうことだ」


 ほぉ、普通の人間っぽくにゃいと思ったらそういう事だったのか。流石嬢ちゃんだぜ。


 しばらく人間と話していた嬢ちゃんがおいら達の方に近づいてきた。


「ジャンさんの話であれば、向こう岸に丈夫な板を渡して川を越えれるようにしているそうです。なので今から都市に迎えるそうで」

「そうか。なら嬢ちゃんとクロスケで先に行ってこい」


 クロスケ言うにゃ。


「え、リュカは」

「俺は大人しく橋が出来るのを待つ。元々都市までの護衛って話だったしな。ここでお別れだ」


 ん、嬢ちゃんがかにゃしそうに表情を崩してるじゃねぇか。にゃにしてくれてんだ毛むくじゃら。


「……あっちにも護衛はいるだろうし、俺はいらないだろう。ま、都市に行ったらしばらく都市の酒場にいるから、何かあったらそこに来い」

「……わかりました」


 嬢ちゃんはおいらを抱きかかえ、毛むくじゃらに向かって頭を下げた。


「ここまで、ありがとうございます」

「あぁ。そっちも頑張れよ」


 嬢ちゃんは微笑し、おいらを抱えたまま人間に近づいていく。


 毛むくじゃらとお別れかよ。言葉が通じる唯一の人間だったのに。


 嬢ちゃんの表情を見れば、その顔には不安の色が見える。

 とにかくおいらは嬢ちゃんを守る事を決意し、嬢ちゃんに行く先を委ねる事にした。


 

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