スライムの悲願、猫たちの目標
今のおいら達の目的はドワーフに会う事だ。
そしてその目的はにゃかにゃかかにゃうものじゃにゃいようだ。証拠に、毛むくじゃらが困ったように息を吐き出しているのをおいらは見た。
トンネル抜けてすぐに入った街で情報収集をしたようだが、良い成果はにゃかったみたいだ。
あの時あった奴といい、人探しってのは大変にゃんだにゃ。
ということで、おいら達は今でっかい水たまりの傍についた。水たまりの周りにはおいら達の他にも人が沢山いる。
皆でかい水たまりを見て歓声を上げてるけど、これそんなにいいのか?ただでかいだけの水たまりじゃねぇか。
「ここがタザセンという湖だ。俺もここまでしか来たことが無いが、湖を挟んで反対側にドワーフがいると聞いた事がある」
「あら、トンネルからかなり遠いのね。ドワーフトンネルっていうから、近くにドワーフが住んでる物と思ってたわ」
「俺もそう思ったが、ドワーフは鉄とかが取れる山の方にいるらしい。あのトンネルは昔魔王がドワーフに頼んで作らせたものだそうだ」
「それでドワーフトンネルね」
にゃが耳と毛むくじゃらが会話している横で嬢ちゃんはでっかい水たまりの水を手で掬っていた。おいらはその横で危険がないか見守ってやる。
嬢ちゃんが水に落ちたら大変だからにゃ。おいらが見張って置かにゃいと。
「あれ」
ふと、嬢ちゃんが声を上げ走り出した。
慌てておいらも追いかけたが、嬢ちゃんはすぐに立ち止まってしゃがみ込んだ。あまりにも急で、おいらは嬢ちゃんを走りぬいてしまった。
おいおい嬢ちゃん、急にどうしたっていうんだよ。
嬢ちゃんの傍にいけば、その手にまた水が掬われている。にゃんだこっちの水がいいとかあったのかにゃ?
そう思ったが、よくよく見ればそれは水じゃない。
嬢ちゃんはどうやらスライムを救ったらしい。
「クロス、この子が浮かんでて、動かないようですが大丈夫でしょうか」
ううん、おいらにはわからにゃいぞ。こういう時は毛むくじゃらだろう。毛むくじゃら!
毛むくじゃらがいる方向を見てそう叫べば、毛むくじゃらはめんどくさそうにこちらに歩いてきた。
にゃんだその態度は。
「ライラどうかしたか?」
「リュカ、この子が浮かんでたんです」
「……スライムか。湖ならないとは思うが、クラゲが浮かんでる可能性もあるから、無暗に掬うのはやめろ」
「くらげ、ですか?」
「毒を持ったスライムに似た生物だ。いづれ会う事があればまた教えてやる」
「わかりました。それよりも今はこの子です」
嬢ちゃんが毛むくじゃらにスライムを突き付ける。毛むくじゃらはスライムをつまみ持ち上げた。
すぐにでも水みたいに下に落ちそうなスライムは、つままれた状態のまま垂れ下がっている。
しばらくスライムを見ていた毛むくじゃらは、スライムに手を向ける。
「ステータスオープン」
そう呟くと、何もなかったところに板が浮き上がる。あ、それおいらが嬢ちゃんにあった時も見た奴か。
「属性の力が足りない状態か」
「属性の力、ですか?」
「スライムは全ての属性が一定量あるんだ。どれかの属性の一つでも一定量より少なければそれだけで動けなくなるらしい。今こいつは風属性が足りなくなってる」
毛むくじゃらの後からゆっくり歩いてきたにゃが耳に、今度は毛むくじゃらがスライムを突き付ける。
「え、何かしら?」
「こいつに属性の力を込めてやれ。風属性が足りない」
「仕方ないわねぇ」
毛むくじゃらからスライムを受け取ったにゃが耳はスライムを両前足で包み込む。
しばらくその状態で黙っていると、前足の中にいたスライムが跳ねあがった。
「これで元気になったわね」
にゃが耳の言葉に嬢ちゃんが嬉しそうに駆けよる。
スライムはにゃが耳と嬢ちゃんの顔を見てから、おいらの方を見た。そしてぷるぷると震えたかと思うと、その頭においらと似た耳を生やした。
「あれ、この子もしかして」
嬢ちゃんも気づいたようだ。そしておいらも勿論気づいていた。
こいつはどうやら、前にあった事があるスライムのようだ。嬉しそうにおいらに身体を擦りつけてくる。
「この子と知り合いなの?」
「一度群れとはぐれてた時に出会ってな。害はなさそうなスライムだったが」
毛むくじゃらにスライムと会った場所を聞いたにゃが耳は肩をすくめた。
にゃにせこんにゃ小さいスライムがここまで来るにはかにゃり大変だっただろう。というか、おいら達より大分時間がかかるはずだ。にゃのにこいつはここにいる。
「ここは上流だし、流されたってことはないわよね」
「でかいモンスターに掴まってここまで連れてこられたってほうが説得力があるぞ」
まぁ、スライムがにゃんでここまで来たのかは気ににゃるにゃ。
再び嬢ちゃんに掬われたスライムを嬢ちゃんの肩の上から見る。スライムはしばらくおいら達を見てから、言った。
『どうやら、前よりも力を付けたようだな』
喋った。
いや、前にあった時も別れる時に喋ってた。
でも今度は流暢に喋った。
流石においらも嬢ちゃんも、そして他の二人も驚いていた。その様子を見ていたスライムは不満げにゃ声でさらに喋った。
『なんだ、そんなにスライムが喋るのは珍しいか?まぁ、確かにスライムは知能が少ないが』
少し待ってろ、と言ったスライムは、嬢ちゃんの手から飛び出した。
そしてその身体が地面に着く前に、姿が変わっていた。
人間の、子供の姿に。
いや、おいらには人間には見えるが、一つだけ人間と違うところがあった。それは目だ。
人間の目って白の中に黒とかの玉が入っているが、そいつは黒の中に赤い玉が入った目で、人間の目よりもおいらみたいにゃ目に近い。
こいつ、ただの人間じゃにゃい。まぁ、元スライムだったけど。
そいつは自分の全身を見てから息を吐き出す。
「まだ余の今の力では子供の姿にしかなれぬか。まぁ、仕方ない。スライムの姿よりもこちらの姿の方が君たちも安心するだろう」
元スライムは嬢ちゃんに近づき、手を伸ばしてきた。
こいつ、嬢ちゃんに手を出すつもりか!
嬢ちゃんに手を出される前においらがその手を引っ掻こうとしたが、元スライムはおいらの頭に手を乗せてきた。そしてそのまま、容赦にゃくにゃでられる。
「あぁ、可愛い。やっと撫でられた、やっぱり猫は可愛い。もしよければ抱っこしてもいいか?」
「え……あ、はい」
ちょ、嬢ちゃん簡単に許可ださにゃいで。
そんなおいらの言葉は勿論届かず、おいらは元スライムに抱きしめられた。ぐえ。
「あぁ可愛い可愛い。猫ちゃんよくここまできたねぇ。あの花畑もちゃんと燃やしてくれたみたいで安心したぞ」」
はにゃ畑……?
あ、おまえエルフの森ではにゃしかけてきた声の奴か。
「そうだよ。ほんと、あの時も動けなかったからすぐにモフモフできなくて辛かった。あぁ、やっとなでられたぁ」
しばらくおいらの全身をにゃでまわしていた元スライムは、おいらを抱えたまま毛むくじゃらたちを見る。
「改めて、余はネブラ。ネブラ・エルルケーニヒ・カイザーナハト。元魔王だ」
元魔王。その言葉で毛むくじゃらの表情が変わった。
うわ、今まで見たにゃかで一番おっかねぇ。
「そう睨むな、元勇者よ。元同士仲よくしようではないか」
「俺は勇者じゃない」
「君が否定しようと余にはわかる。元勇者ルーカス。名を変え姿が変わろうと、勇者であったことは変わらない」
にゃんだ、こいつら二人の間に変にゃ空気がにゃがれてる。すんげぇ居心地悪い。
「あの」
そんな中で嬢ちゃんが声を掛けてきた。
それでも毛むくじゃらの表情は変わってにゃい。
「リュカが元勇者ってことはどうでもいいんですが」
「どうでもいい!?」
「貴方が元魔王、ってことは今はモンスターを操る事も出来ないんですよね」
嬢ちゃんの言葉に毛むくじゃらが声を上げた。先ほどまでのおっかねぇ顔がなんだか魂が抜けたようにゃ顔ににゃってやがる。
まぁ、それはおいらにもどうでもいい事だ。
元スライムはおいらの身体をにゃでるのを止めずに言う。
「そうだな。君は、確か国を魔王軍に殲滅された、と聞いている。余が息子に代わり詫びを入れたいが、今は君たちに頼みたい事がある」
元スライムは手を止めず、嬢ちゃん、毛むくじゃら、にゃが耳の順に目を合わせてから言う。
「頼む。君たちに余の息子の蛮行を止めてほしい」
「……それは、元とはいえ勇者様がいるからかしら?」
にゃが耳が毛むくじゃらの肩をぺしぺし叩きながら聞く。その痛みにショックを受けていた毛むくじゃらも元に戻ったようだ。
「女神に選ばれた人間が勇者であるとすれば、そうだな。君たちが知っているかはわからないが、魔王と女神は敵対関係だと決まっていた。だが、余はそれを望まず、そのおかげで女神と和解していたが、そのせいで息子に魔王の席を奪われた。それに困っていたところを、女神が手助けしてくれてな。息子を倒せるのは」
元スライムはおいらを片手で抱えて、嬢ちゃんに指を指した。
「そこの姫と仲間達だと。偶然その仲間内に元勇者がいただけだ」
「なる程、勇者はおまけね」
にゃが耳は面白そうに毛むくじゃらを見る。毛むくじゃらはにゃが耳を睨んだが特に文句は言わにゃかった。
毛むくじゃらは元スライムを見る。
「魔王は女神を嫌い、主に女神の加護を受ける人間を滅ぼすのではなかったのか」
「余の先代はそうであったな。余は敵対する魔族の中でも出来損ないでな。女神と敵対するのは良しとしない。だがまぁ、この意思が他の魔族にわかってもらうにも時間がかかってしまったし、こんなことは初の試みだったから勇者も現れてしまったが」
元スライムは背を伸ばし、毛むくじゃらの肩を前足で叩く。それを見にゃがらおいらは疑問を呟いた。
勇者と魔王って奴は、かにゃらずいるのか?
「あぁ。人間と魔族のバランスをとる為、必ず勇者と魔王はいる。ただ、魔族は人間よりも長命だから、勇者がいない時期っというのも必ずあるがな」
魔族?
「人間より魔力を持っている種族の事だ。特徴的なのは目だな。余の目を見ればわかるだろう?」
ほうほう。じゃあ今はお前と毛むくじゃらが魔王と勇者か。
「そういうことだ。なかなか賢い猫だ」
そう言ってまたわしゃわしゃとにゃでられる。いい加減にゃでられるのも嫌ににゃってきた。
「……ライラ、俺が勇者だといつ知ってた?」
おいらがにゃでられている横で毛むくじゃらが嬢ちゃんに声を掛けていた。
「最初から知ってましたよ?」
「最初から……」
「忘れるはずがないですし、気づかないはずもないです。私を舐めないでくださいよ」
「舐めてるつもりはない。ただ、そんなに簡単に気づかれるものかと」
「ルーカス様と交流があった人ならわかりますよ。あの頃からそんなに変わってないですし」
何を当たり前のことを聞いているんだと言いたげな嬢ちゃんと、何かうろたえている毛むくじゃらの姿は見ていてなかなか面白いものだ。
その姿を見ていたが、にゃが耳が元スライムに近づいてきた。
「じゃあ元魔王様」
「ネブラでよい」
「ネブラ様。ネブラ様が求めているところってなんなのかしら。人間滅亡じゃない何か目的があるのよね?」
「ふふん、よくぞ聞いてくれた」
元スライムはおいらをやっと地面に置いて、ばっと手を広げる。
「余は生物が好きなのだ。だからこそ、人間も好きだし、滅ぶのはもったいない。余は魔族と人間が手を取り合える世界を望んでおる」
「あら、意外に素敵なのね」
「そして、生物の中でも好きな猫を沢山集め、城を猫屋敷にするのだ!」
「前言撤回しておくわ」
にゃが耳はおいらを抱きかかえて元スライムから少し距離をとる。
元スライムは残念そうにおいら達を見ていたが、すぐに目を逸らして地面に指で何か書く。
「息子にも何を考えているんだと言われてな……。いいじゃないか猫屋敷」
「え、猫屋敷に反対されて座を奪われたの?」
「いや、あいつは元より人間を嫌っていたから、そもそも余の考えに反対派だ。同じ有志を集め余を攻撃したのだ」
「ポーションは人間との戦争準備の為ってことね。あたしたちエレフは人間と関わりが少ないし頼れるってわけだったのね」
にゃが耳はううんと唸りにゃがらおいらのせにゃかをにゃでる。
さっきからおいらにゃでられてばかりだ。
「で、返答が欲しいのだが、どうだろうか」
元スライムの言葉に、まだ喋りあってた嬢ちゃんと毛むくじゃらがこちらを見る。
だが、にゃが耳も毛むくじゃらも直ぐに視線を嬢ちゃんに向けていた。
ここは嬢ちゃんの意思に任せるのだろう。勿論おいらもそのつもりだ。
嬢ちゃんは顔をしかめにゃがら元スライムを見る。
「受けたいところもありますが、私は魔王を倒せるほどの力はないですよ?」
「あぁ、それは知っている。元勇者は経験や力はあるのに決意が足りてない事も、そこのエルフは知識は一人前以上にあるが攻撃力も体力もない事も、姫が経験自体が足りてない事も、余はわかっておる」
嬢ちゃん達の問題をズバズバと言ってやらにゃいでくれよ。
おいらの言葉を聞いた元スライムは、にゃが耳に抱かれたままのおいらを見る。
「そして、この猫も鍛えればもっと強くなる。それこそケットシ―にもなれるかも知れない。だから、今すぐに息子と戦えとは余も言わん。ただ、君たちにその気があるのなら、鍛えられる場所を教えてやるまでだ」
ふむ、それにゃりに支援してやるぞってことか。
「……アレックスは、ドワーフの元に行くことが目的でしたよね」
「そうね。でも魔王退治も楽しそうだし、ライラちゃんが良いっていうなら力を貸してあげるわよ。ま、あたしがどれだけ強くなれるかはわからないけれどね」
嬢ちゃんの問いににゃが耳はにゃってこともにゃいように答える。
嬢ちゃんは毛むくじゃらを見るが、毛むくじゃらは特に何も言わず、ただ頷いた。
勿論嬢ちゃんはおいらも見たけど、おいらも別に反対意見はにゃいぜ。あっても通訳してもらわにゃいといけにゃいが。
嬢ちゃんは大きく頷いて、元スライムを見つめた。
「やります。私達を鍛えてください」
こうして、おいら達の目標が魔王を倒す事に定まった。
※ネブラさんに関してはまだ出してない情報もあるので、ステータス紹介はまた後程