新たな「未来」
俺の心の中には、前よりも大きな黒い穴が穿たれた。
今度は死の恐怖では無く、喪失感という名前の穴だ。
その巨大な穴を埋めるべく、俺はこれまでよりもさらに必死にあがいた。
あがくことに意味があるかどうかもわからないまま、
どう生きれば良いのかわからないまま、
眼前に現れる課題に対して徹底的に取り組んだ。まるで敵を殲滅する戦士のように。
数学が一番得意だった俺は、理科系に進んだ。
そして南高始まって以来、初めて日本で最高の難易度の大学に行き、
取り憑かれたかのように勉強を重ねて大学院に進んだ。
修士課程を卒業後、世界一の売上高を誇る自動車メーカーに就職した。
仕事に没頭した。
徹底的に全てをやり、いつしか社内で研究開発の鬼と呼ばれるようにまでなった。
しかし俺の心の黒い穴が埋められることは無かった。
サリーに会いたい。会ってサリーの泣き言やわがままを聞きたい。
一緒にご飯を食べたい。朗らかな笑声を聞きたい。
無邪気な笑顔を見たい。一緒に神社にお参りに行きたい。
あの小さな華奢な身体を抱きしめたい。
仕事は上手くいくことも、そうで無いこともあった。
努力が報われないことも、裏切られることもあった。
プロジェクトリーダーも任された。海外赴任も経験した。
サリーがこの世からいなくなってから10年以上の歳月が流れた。
俺は時々、サリーにもらった小型のプラネタリウムで天井に投影された星空を眺めた。
どこかでサリーもこの星空を見ているに違いない、俺はぼんやりとそんなことを思った。
5月の連休最後の日の朝、呼び鈴がなった。
こんな朝っぱらから誰だ、新聞の勧誘か?インターホンの画面を見た。
そこには見覚えのある、いや正直に言おう、夢にまで見て、恋焦がれた少女の笑顔が映っていた。
首には金色のネックレス。
俺は一応、聞いてみた。
「どちら様でしょうか?」
少女はさらに大きな笑みを浮かべて大きな声で答えた。
「サリーって言います。江藤勇気さんのお宅はこちらでしょうか!」
ドアを開けると、顔全体で笑ったサリーが俺の胸の中に飛び込んできた。
「探したよぅ!やっと見つけた!!」
俺は、華奢な少女の身体を力一杯抱きしめた。
サリーは笑いながら言った。
「勇気、痛いよぉ、力強すぎ!」
俺は、腕の力を弱めて、少し離れてサリーの顔を見て言った。
「随分長い間、待ったぞ。どこほっつき歩いてた?」
サリーは俺の顔を見上げて、ニコニコ笑いながら答えた。
「私、方向音痴だから!」
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
短編小説として、すでに発表していたものですが、
読みづらいというお声を頂きましたので、「新装版」として
改めて分割の上、投稿させていただきます。
楽しんでもらえたならば幸いです。
なお御時間がありましたら、評価と感想を頂ければ幸いです。
今後の創作の参考にさせていただきたいと存じます。




