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地区予選決勝

 梅雨の晴れ間となった日曜日、地区予選の決勝に俺は駒を進めた。


100m走。


200mと400mリレーは残念ながら予選落ちだったが。


第三レーン。調子は良し。風が少し強い、向かい風だ。


これはタイムは出にくいな。


女子決勝には、サリーも進出が決定していた。


100mだけエントリーしていて、男子100m決勝の直前だった。


華奢なユニフォーム姿に鉢巻きが可愛らしい。


俺はサリーに近づき一声掛けた。表情が硬いぞ、大丈夫か?


「緊張するなぁ」


おい、神様が緊張するのか?俺は少女をからかう。


「あたりまえでしょ」


少女は頬をぷうっと膨らませて言う。


「人間の姿なんだから、神様の力を使えるわけでは無いし、実力勝負よ」


そうか、頑張れよ。背中をポンと叩くと、少女は力なく微笑んだ。ホントに緊張してるな。


それじゃあ、応援してやるか。


アナウンスが会場に響く。


「女子100m決勝戦、出場選手は集合場所に集まってください」


ウィンドブレーカーを着た各高校の選手が集まっていく。


フィールドではやり投げの決勝が始まっている。ときおり歓声が起こる。


サリーの小さな背中が見える。ウィンドブレーカーを脱いでストレッチを始めている。


次々に選手の名前が呼ばれていく。


「第三レーン、天本紗理奈選手。南大宮高校2年」


サリーが片手を挙げる。観客席から小さな拍手。


俺は大きく深呼吸してから、大声で少女に声を掛けた。


「サリー、ファイト!」


少女はびくっとしてから、こちらを向いて恥ずかしそうに小さく笑って、


手を振ってからスターティングブロックの方に近づいていった。



「位置について」


一瞬の間。風がやんだ。


「用意」


ピストルの乾いた音とともに、低くサリーが飛び出す。いいスタートだ。


グングン加速する。隣の第2レーンの子も早い。

サリーは1mくらい先攻されている。


第2レーンの子は優勝候補だって言ってたな。


サリー頑張れ。


70m付近で追いつく、そしてゴール。


「一着、天本紗理奈選手、南大宮高校。タイムは」


観客席からどよめき。


やったぞ!サリーがんばったなぁ。


「なお埼玉県高校新記録です!」


再びどよめき。


サリーの笑顔が弾ける。


ぴょんぴょん飛び跳ねて、両手を俺の方にブンブンと振り回して喜んでいる。


上級生が笑顔でサリー近づいていって頭をぽんぽん叩いている。


よし次は俺の番だな。


俺はサリーに向かって小さく手を振った。


「男子100m決勝、出場選手は集合場所に集まってください」


アナウンスが聞こえる。ゆっくりと俺はスターティングブロックの後ろに歩いて行った。


俺は結構頑張ってきた。2着までに入って、県大会出場の権利は取りたい、出場できないとしても。



「位置について」「用意」


ピストルの乾いた音が響く。スタートは少し遅れた、でもほんの少しだ。


加速に入る。身体は軽い。先行する選手に追いつく。行けるか?


三人の選手がほぼ同時にゴールラインになだれこんだ。


「一着、江藤勇気選手、南大宮高校。タイムは」


観客席がどよめく。サリーが涙を流しながら、俺に飛びついてきた。


「勇気、すごい、やったね、やったね、私達がんばったね」


よし、俺も陸上部でも、やれるだけやったな。やり切った。


「サリーもおめでとう、凄いタイムじゃないか」


俺はサリーの華奢な身体を抱きしめる。笑顔で見つめ合う、二人とも泣き笑いだ。


上級生が近づいてきた。


「おい、江藤、やったな、おめでとう!」


俺は答えた。


「ありがとうございます」


上級生は、少し困ったような顔をして俺に言った。


「あのさ、お前らいつまで抱きついてるんだ?まだ試合中だぞ」


あ。


「いちゃついてるのかって誤解されるぞ」


誤解?俺は気がついた。いや、ずっと前から気づいていた。


俺はサリーを愛している、心の底から。

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