クリスマスイブ
世間はクリスマスイブと呼ぶが、俺には余命半年を示す記念日、
12月24日を迎えた。
あんまり嬉しくないな、実感は無いけど。
いつものように朝食をサリーと食べ、いつものように一緒に学校に向かう。
もうすぐ冬休みだ。
しかし半年しか無いという気持ちが、気持ちをブルーにさせる。
いくら人間は死すべき定めのものと言っても、16歳では早すぎる。
サリーはそんな俺の気持ちに気づく様子も無く、
ケーキを予約しただの、チキンを焼かなくちゃだの元気いっぱいである。結構なことではある。
当然のように、俺の期末試験の成績は総合一位であった。
そりゃあ、死を半年前にして、本当に死にもの狂いで勉強する俺にかなう奴がいるはずも無い。
皮肉なことだが、人間の底力を実感する。
死の恐怖を封じ込めるために勉強に集中するというのは、大変な精神力がいる。
いや、逆か。死の恐怖が、俺を勉強に、部活に駆り立てる。
佐々木が俺に向かって感嘆して言う。
「勇気、ほんとに凄えな」
そうか?
「あんだけ、部活一生懸命やって、生徒会にも首を突っ込んで、いつ勉強してたんだ?」
そうだな、死が怖くて眠ることができなくて、しかたなく勉強に集中してるとは言えないな。俺は小声で言った。
「たまたまだよ」
佐々木が俺の脇腹を小突いて言う。
「たまたまで取れる成績かよ、ばーか」
サンタクロースは、なにか俺にプレゼントしてくれるのだろうか。
少し、寿命を延ばしてくれるとか、そういうのは無し?
商店街で流れるジングルベルの曲を聴きながら、サリーと俺は家路につく。
俺は上の空だった。あと半年か、そのことだけが頭を支配していた。
隣を歩く少女が怒り気味に俺の手を引っ張って言った。
「勇気、聴いてるの?」
え、なに?ごめんごめん、聴いてなかった。
「だから、ケーキ屋さんに寄らないとダメだよぉ。ここ曲がんないと」
おお、そうか。そうだったな。サリーはケーキを予約してたんだな。
ブッシュドノエル、フランスのクリスマスケーキだ。
可愛らしく砂糖細工のサンタクロースとトナカイがあしらわれている。
俺にとって最後のクリスマスか。
家に帰って、夕ご飯の支度をする。今日はサリーの当番だが、
クリスマスだから俺もチキンを焼く手伝いとかする。
気が紛れるしな。
あと半年の命と思うと、本当に気が狂いそうになるから。
そうは言っても、香ばしく焼き上がったチキンの香りがすると腹は空くし、少し楽しみになる。
現金なもんだ。
サリーはニコニコ顔でチキンを載せた皿をテーブルまで運んできて言った。
「できた!勇気、食べよう。なんて美味しそうなの!」
笑顔でいっぱいのサリーと二人で和やかに迎えるクリスマスイブ。
悪くない。
あと半年しか俺に残されてないと考えなければ、楽しい、本当に楽しい夕餉であった。
俺は決心した。
せめてこの瞬間は楽しもう。憂鬱な気持ちになるのはあとでもいい。
サリーがチキンを頬張りながら笑顔で言う。
「んー、美味しいね!」
うん、美味しい。俺も笑う。
サリーは、あっという顔をしてから言った。
「でもでも、あとでケーキもあるんだよ?!おなかに隙間を残しとかないと、ケーキを食べられないかもよ?」
俺は言った。
「サリーは甘いものは別腹なんだろ?」
えへへ、と笑いながら少女は悪戯っぽく言う。
「うん、私は別腹なの。だからたぶん大丈夫なの!」
楽しい夕ご飯が終わり、片付けも終わって二人でソファに腰掛けてお茶を飲む。
サリーが嬉しそうに言う。
「ケーキ、美味しかったね!少し残っちゃったけど明日の朝、食べてもいい?」
ああ、良いんじゃ無いかな。俺は言った。
そして、懐から用意しておいたプレゼントを少女の前に置いた。
「はい、メリークリスマス。サリーにプレゼントだよ」
意表を突かれたらしく、少女は目を大きく見開いて小箱を見つめて言った。
「プレゼント?」
ああ、プレゼント。
泣き笑いのような顔をして、サリーは小箱を両手で大事そうに持ちあげた。
「開けていいの?」
ああ、もちろん。
「わああ、可愛い!」
サリーの細くて白い指に金色のネックレスが映えた。
「安物だけどな」
俺は少し照れながら言った。
サリーの目に涙があふれる。そして小声で俺に言った。
「勇気、ありがとう。本当にありがとう。着けてみてもいい?」
そのために買ったんだから着けてみてよ。
少女の白い首にネックレスが輝く。ああ、よく似合ってる。
「ホント?似合ってる??」
ああ、似合ってる。ええと、すごく可愛いよ。
少女は、少し驚いたような顔をした。
そして、はにかんだ様子を見せてからもう一度、ありがとう、と繰り返した。
「そうだ、私からも勇気にプレゼント!」
え?用意してくれてたんだ?!
「ちょっと目をつぶってて」
パタパタと部屋を出る音。しばらくして戻ってきた。
スイッチを切る音。部屋が暗くなった。少女が言った。
「もういいよ。上を見上げてみて!」
満天の星空が広がっていた。オリオン座が見える。ひときわ明るい星はシリウスか。
俺の横に座って天井を眺めながら、少女は嬉しそうに言った。
「今のこの瞬間の星空を投影するの」
そして続けて呟いた。
「私のいた世界には、お星様は無かったの。だからこの世界に来て、夜空を見て、びっくりしたの。宝石が散りばめられてるのかと思ったの」
少女は俺の方を向いてニコニコ笑いながら言った。
「だから、勇気には、私の一番好きな、星空をプレゼント!」
俺は思わず、隣に座る少女の肩に手を回して抱き寄せた。
驚いたらしくビクッと少女は身体を震わせたが、嫌がる様子ではない。
俺は一緒に星空を眺めながら言った。
「サリー、ありがとう。綺麗だな」
うん、と少女が肯く。俺は言った。
「あと、俺は半年しかこの綺麗な星空は見れないけど、出来るだけ頑張ってみるよ」
少女が泣いているのを感じる。
この世は美しい。去るのはとても惜しいけれど、俺は精一杯生きてやる。




