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思いがけない告白

 新学期が始まって数日経った。


 朝、登校して靴箱を開けると上履きの上に、ちょこんと封筒が置かれていた。

俺は固まってしまった。

このネット社会で、なんという古典的な。いたずらかな?


サリーが、こちらの妙な様子に気がついたようで尋ねてきた。


「勇気、どうしたの?なにかあった??」


俺は気を取り直し、素早く封筒をカバンの中に放り込み答えた。


「いや、なんでもない」


そう、なにも起こるはずがないよな。大方、佐々木あたりのいたずらに違いない。


 休み時間、サリーが女子軍団と楽しそうに話しているのを確認してから、

俺はさりげなく教室の外に出た。


普段閉鎖されている屋上への階段の踊り場で、封筒を開けてみる。


便せんが一枚入っている。


開いてみると生真面目な女性らしい文字でこう書かれていた。


「江藤勇気様 突然のお手紙でごめんなさい。お話ししたいことがあります。今日の放課後、体育館の裏の用具小屋の前に来てもらえますか?」


署名は、野上亞紀、となっている。


野上先輩?2年生の、あの野上先輩??


女子バスケ部の次期主将。背がすらっと高くてボーイッシュな特上美人。

周囲にある他の高校も含めて、めちゃくちゃもてて、

告白されまくっているけど、全然男子と付き合おうとしないとの噂。


1年坊主の俺でもそのくらい知ってる有名人。


一度、話しかけられたな、転がってきたバスケのボールを投げてよこしてと。


雨の日の部活時に体育館でサーキットトレーニングをしていたときのことだ。


それ以外に接点は無い、はず。


俺になんの話だろう?見当もつかない。


なんか怒られるのかな。


イヤな予感しかしないけど、心当たりも無い。


便せんを封筒にしまいポケットに入れて、俺は教室に戻った。


どうしようもないな。会って話すか。



 俺は、急いで身支度をして素早く教室を出る。


高橋さんと楽しそうに話しているサリーに一声掛けた。


「サリー、俺ちょっと用事があるから、先に部活行ってるぞ」


こちらも見ずに、サリーは片手をひらひらと振る。


随分扱いがぞんざいになってきたな。全力サポートが聞いて呆れる。


まあ今日は好都合だけど。


後ろから、あははと朗らかに笑うサリーの声が聞こえた。


 人気の少ない体育館の裏に呼び出しというのは、なかなか剣呑だ。


野上先輩の手下かなんかに囲まれてボコボコにされたりして。

それはあり得ないとしても、一体何だろう。


用具小屋の前に人影があった。


野上先輩一人だな。ボコボコ、というわけではなさそうだ。



 先輩がこちらに気がついて、片手を振る。こちらは会釈で返す。俺は言った。


「野上先輩、お手紙ありがとうございました。なんのお話でしょうか?」


相手は先輩だし丁寧語だよな、普通。


少し慌てた感じで、野上先輩は目を見開き、首を小刻みに小さく振ってから答えた。


「あのね、江藤君。あ、江藤君って呼んで良い?」


もちろんいいですよ、それで?


大きく深呼吸をしてから、野上先輩はこちらの目を睨み付けるような勢いで言った。


「江藤君のことが好きです。付き合ってください」


は?なんておっしゃいました??


それにまた随分男らしい告白だ。


俺は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたに違いない。


慌てて真顔に戻して一息つく。どう対応したものか?


「あの、まだ野上先輩とは、まともにお話ししたこともないのですけど」


ああ、と先輩は溜め息を一つついて、少しうつむく。


しかし美人だな、そんなことを俺は思ってしまう。


先輩は気を取り直したらしく、すっと顔を上げて話し始めた。


「ひとめぼれ、っていうのかな。この一ヶ月、毎晩江藤君が夢に出てくるの」


え?なんで。俺は自分がイケメンじゃ無いのわかってるんですけど。モテる要素も無いですよ?


野上先輩は、真顔で俺に言った。


「江藤君と私は、将来結婚するの。それで平凡だけど本当に幸せな一生を送るの。そういう夢を毎晩見たら、それは意識するに決まってるじゃないの。で、確かめようと思って」


俺は唖然とした。あの走馬燈に現れたすらっとした美人は野上先輩なのか?

ぼんやりとした印象しかないけど。それに、なにを確かめるんだ??


「なにを確かめようって言うんですか?」


思わず口に出してしまった。野上先輩は、少し微笑んでから俺に答えた。


「私の気持ちが本当かどうか、会ったらわかるかなって」


俺は一つ大きく深呼吸をしてから、野上先輩に聞いてみた。


「それでどうでしたか?」


先輩は、こんどはにっこりと笑って答えた。


「確信したわ。私、江藤君となら幸せになれる」


それに、と野上先輩は付け加えた。


「私は、江藤君を絶対幸せにする」


俺もようやく正気を取り戻した。


こんな無茶な話は数ヶ月ぶりだ。


サリーの見せてくれた走馬燈が頭の中で蘇る。


俺は野上先輩に向かって思い切って言った。


「新婚旅行はメキシコで子供が二人。二人とも男の子で、孫は女の子。平凡だけど幸せに俺達家族は暮らす。それで俺は80歳くらいで死ぬって話、ですか?」


野上先輩は、虚を突かれたらしく大きく目を見開き、手を口元に持っていった。


しばらくの沈黙の後、先輩は小声で俺に言った。


「なんで私が毎晩見てる夢を知ってるの?」


俺は溜め息をついて、どう答えたものか思案した。ビンゴか。で、どうする?


良いアイディアは浮かばない。当然だよな。この場ですぐに解決できるはずも無い。ここは一旦、退却だな。


俺は答えた。


「なぜ俺がその夢を知っているかも含めて、今度、改めてじっくり話をしましょう。それでいかがでしょう?」


野上先輩は、うんうんと肯いてから言った。


「江藤君、私のこと、変人扱いしないでくれてありがとう。連絡先教えてもらえる?」


ああもちろん、と俺は答えた。IDを交換する。


俺、これから部活なんで失礼します。


野上先輩も気を取り直したらしく、自信に満ちた笑顔に戻って、

私も部活だわ、とつぶやいてから、片手を振って、またね、と言って颯爽と去って行った。


いつもの野上先輩だ。さて、どうしたものか。


とりあえず今晩サリーに相談してみるか。



早速、野上先輩からのメッセージが入っている。


「江藤君。さっきは、ごめんなさい。びっくりさせたと思う。私もびっくりした。でも私は本気だからね」


これは、返事のしようが無いな。

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