22歳無職、とうとう暫定的に職(?)を得る
「この履歴書に書かれていることは全て本当ですか!?!?」
ロノワールは神にそう質問した。
神は困ったような、渋い顔をしたままウンウンと頷いた。
「味方になれば戦力となる事は間違いないのですが……果たして本当に信用してもいいものなのか……」
天界のトップ1,2は問題児の入学を認めるべきか否かで頭を抱えた。
*
「で、いつまで女の子を玄関先に立たせておくつもりですか?
さっさと部屋を片付けてお茶の1杯くらい用意して下さい」
黒羽乃環は疲れたーとわざとらしく態度に出してそう言った。オレは急な展開に、は、はいとしか言えず急いで部屋を整えてたまたま作ってあった麦茶を机に置いた。
「ど、どうぞー」
「はい、お邪魔します」
その傍若無人な態度にイライラとしながらも、女性らしく上品に靴を脱ぎ、綺麗に整える姿に免じて許した。というかやっぱり可愛いかった。
「で、私が天下一運動会に参加するか、でしたよね? えぇ、もちろん参加しますよ
あなたと同じ天界チームで」
「あ、はい、そうなんですね
あと、もう一つ気になる事がありまして……」
女の子と1対1でこんな風に話すのは初めてなので緊張して目を合わせる事はおろか、まともに言葉を選ぶことすら出来なくなっていた。
というか近くで見ると超可愛い。
「大方、何でこんな強いかとか天下一運動会の事を知ってるかですか?
それは私もあなたと同じ転生者だからです
まぁ、実力は天と地獄ほどの差があると思いますけど」
「は、はぁ」
確かにこの前の戦闘を見る限り、この少女はかなりの実力者であった。
しかし、斬撃は見切れない程ではなかったし記憶抹消をマジックアイテムに頼っていたところを見ると自分より実力が上とは思えなかった。そう口に出したところで面倒なのは目に見えていたので罵倒を大人しく受け入れていると、よっぽど喉が渇いていたのかすっかりカラになったコップに気が付いた。
「……おかわりする?」
「あっ、お願いします
……言っときますけど、コップ舐めたりしたら破壊しますから」
えっ、何を!?
それにべ、別に舐めようなんて思ってないし!
大人しく麦茶をついでいると堕天使が小さな声で呟いた。
「……前いたカウンセラーの女と付き合ってるんですか?」
「……はい?」
「だっ、だからあの時私に突っかかってきた生意気な女は古野さんの彼女さんなのかな……と」
生意気なのは間違いないなくお前の方だが、どうやらさくらさんの事を言ってるらしい。さくらさんが彼女ならどんなに良いことか……それに関係ない話だろと思った。
「なぜ……そんなこと聞くんですか?
はっ、さては本当にオレに惚れてっ……!?!?」
「んなわけあるかっ!!!」
油断していたとはいえ、繰り出された彼女の攻撃の速度は明らかにオレの反応を上回っていた。
間一髪で斬首を免れた首筋から垂れた血が、オレより強いんじゃねと語りかけていた。
「麦茶ご馳走様でした
では失礼します、お邪魔しました」
「は、はーい」
ようやく帰った堕天使を苦笑いで見送り、安堵からその場に崩れ落ちた。彼女から聞きたかったことも色々あって聞けていなかったが、また会ったときにでもいいだろう。どうやら、彼女も運動会の参加者らしいし。
あっと思い出し、強襲で忘れていたが本来の目的であった郵便受けの可愛い封筒に入った手紙を手に取る。毎回送り主は書いておらず、手紙の内容は文字が小さくギッシリと敷き詰められていて分からない。毎日決まった時間に自宅に届くところをみると自分の足でわざわざ投函しているのだろう。
嫌がらせなのか、ストーカーなのか……ただ、可愛いらしく一生懸命に毎日デコレーションされているそれに、オレは悪意を感じる事が出来ないのだった。
*
そんな調子で1月が経ち運動会の開催がすぐそこまで近づく中、入学試験が始まっていた。既に何人かの合格者は出ているらしく本日いよいよオレの受験日となった。
ヴーヴーヴー
携帯のディスプレイには桜庭さくらと表示されていた。
「はい、古野です」
「おはようございます、桜庭です!
今日が面接なんですよね??
古野さん、落ち着いて頑張って下さい!! 私、応援してるので!
……終わったらあの、お食事でもどうです?」
「は、はい!!
ありがとうございます!!
え!?!? ぜ、ぜひっ! 必ず良い結果をもぎ取ってきますね!!」
ではまた、と言って通話を終了する。
鏡の前にはオールバックにし、少し背伸びをしたスーツに身を包みいつもよりも大人びた自分がいた。
手の平に10回人という字を書くとそれを飲み込み、もう1度トイレを済ませて、しばらく帰ってこない予定の部屋へ別れを告げた。
「行ってきます!!」
そのままオレは天界へ続く扉を開いた。
「志望動機は何でしょう?」
「神様にはご恩があるので、運動会での天界のしょ、勝利の為に私の力を尽くしたいと考えました!」
面接官はてっきりロノワールさんだと思っていたオレは、知らぬ人との3対1の闘いという予想外の展開にスキルの人見知りが絶賛発動中で防戦一方となっていた。
「そうですか
それではあなたの固有の力は?」
「あ、『アイ・アム・アイ』と呼称されており、具体的に言いますと……」
押され気味ながらも、緊張がほぐれてきて徐々にまともな受け答えも出来るようになってきた。入学願書や履歴書などの書類も1週間考え抜いて書いたモノなので穴はないはずだ。
対策してもらった話題についてほとんど返答する事が出来、部屋内の空気も和やかになったところで面接官はこんな質問をしてきた。
「休日は何をされてますか?」
シンプルではあったが、練習にはなかった質問が急にきて驚いたオレは咄嗟にこんな事を口走ってしまった。
「ふ、普段、休日は転生とかしてますっ!」
ぷっと吹き出した面接官達を見て、そのまま面接終了までの間冷や汗が止まらなかった。
──こうして古野英雄は無事無職から、学生(仮)へと昇格を果たしたのだった。
読んで頂いてありがとうございますm(_ _)m
とりあえずこれで1章として一区切りです!!
ここまでお付き合いして下さった方が居たなら…とっても嬉しいです!!
毎度毎度拙い文章をありがとうございました
文章力を上げて出直して参る所存ですので…お許し下さいませ…笑