女の言う今度という日は大抵2度と来ない
昨日は投稿出来ず、申し訳ありませんでした(T_T)
天界のトップとの対談を終えた後、オレは日本で古野英雄としての生を再びスタートさせた。携帯のメッセージを見るとさくらさんからは「急用があったならしょうがないですよ、また今度にしましょう(^^)」とメールが来ていた。流石さくらさん、マジ天使。
惜しい機会を失ったと思いつつ、ゆっくりと会話の内容を思い出した──
「おぉ!! そうか、そうか!!
引き受けてもらえるか!!!!」
「はい!もう悪魔だろうが魔王だろうが何でもバッチコイ!って感じですよ!!」
ようやくこの生活を卒業できるとすっかり上機嫌になったオレは笑顔で神様の手をガッチリと握り、ブンブンと振り回していた。いかに世界を救った英雄といえど人であるのなら所詮はこんなものだ。
「──だが、今回は魔界も本気だ。
噂では君が過去に敗れている奴も出場するらしい……」
(……あぁ、そういえばアイツ元気にしてっかなー)
*
──11回目の転生でオレは初めて真の意味での敗北を知った。
そいつは魔王ではないくせに魔王の椅子に我が物顔で座っていた。魔物にしては小柄な体に一ミリの肉体の露出も許さないと言わんばかりの漆黒の鎧、身長の2倍はあるかのような巨大な剣と空いた方の手には小刀を携えていた。
対面するとそいつは言った。
「……噂になっている勇者がどれほどのものか値踏みに来た。期待ハズレならば2度とリスポーン出来ないまで破壊する。」
この世界でリスポーン不能になるという話は聞いた事がなかったのだが、なぜかオレはその言葉を酷く恐れた。これは現実と何ら変わらない“殺し合い”なのだと。
「さぁ、私を楽しませろ。」
剣を交わした瞬間に分かった、いや分かってしまったのだ。圧倒的な戦力の差が。ただの高校生だったオレが初めて魔物に殺された時、それ以上の戦力差をこのつばぜり合いが物語っていた。
勝てない、逃げろと全身が悲鳴を上げる。
だが、ここで逃げて何になる? オレは現実から逃げてまでここに、オレが必要とされる場所まで来たんじゃないか。そうだった、簡単な事だ、
初めからコイツを倒す以外の選択肢なんて──ないッ!
「いい目だ、エイユウ」
そう奴は笑うと、オレの視界は1面赤に染まった。
次の日この世界の起点となる村のベッドで目を覚ましたオレは生きている事に安堵し、同時にそんな自分を恥じた。
その日からのオレは片っ端から強くなるための修行を積んだ。この世界で覚えられる魔法は全て覚えたし、体力面や剣術や体術も極められるだけ極めた。
生憎オレは堪え性のない性格だったので、途中何度かあの黒騎士へと挑み、その度にぶっ殺されていた。
こうして現実とは時間軸が違うのを良いことに、後半からはその事すら忘れ時間の限りひたすらに己を磨いたのだった。
あれから恐らく現実の時間で言うのなら人1人が生涯を終える程の鍛錬を積んだオレは久方ぶりに黒騎士にぶっ殺されに向かった。これほどの力を手にしても奴の足元にも及ばない気がする。そして、その事実に直面しても尚少しワクワクする自分に驚いた。
しかし魔王城にいた奴にはいつものような余裕はなく、数万はいるであろう上級悪魔や、それらを従える数匹の魔王達の前に膝をついていた。
「貴方さえ、貴方さえ殺せればようやく我々にも日の目が当たる。我らの憎しみが、憎悪が分かるか! 強大過ぎる力は競争には不必要なのだ!!
……安心しろ、大魔王様には立派な最期でしたと伝えておく。」
下剋上だ。
恐らく黒騎士は魔王でないながら魔王達の中でも抜きん出た存在であり、その強さから奴らの反感を買ってしまったのだ。王に最も必要な支配力を欠いていたために、強さを体現したかのような奴が弱き者達に敗れるとは皮肉な話だな。
というか、ここで黒騎士さえ死ねばこの世界にオレの敵はいなくなるのでは?
ならばオレはここで指を咥え、見ていることにしよう、貴様の哀れな最後を──これも勝負の世界なのだ。
「貴様ら如きが!! 貴様ら如きが私の強さをッ! 弱さを語るなーッ!!」
黒騎士そのの言葉は奴の強さも弱さも全てを剥き出しにしたモノだった。そこでオレは初めて彼の──いや、彼女の体に、心に触れる事が出来た気がした。
「……意外と可愛い声してんのな」
「なっ……!?」
素っ頓狂な声を上げる黒騎士を回復させてやると奴は勢いよく飛び立った。そこからはもう地獄絵図だった。見る見るうちに目の前に転がる魔王の首、首、首。この状況を見るに先程の劣勢は完全な不意打ちだったのだろう、しかしそれなら致命傷を負っていたとは言え、自らに回復魔法をかければこんな事になっていなかったのでは?
そんな疑問を浮かべている間にも戦闘は呆気なく終わりを迎え、猛スピードでこの闘いの勝者はこちらへと走り出しており、オレはその勢いのまま胸倉を掴まれた。
「貴様ぁっ!!!!
私を上から見下した事!! それに、それにっ、わ、私を侮辱したこと2度と忘れはせんからな!!!」
黒騎士さんの完全なるキャラ崩壊である。我を失った彼女の姿が可笑しくて笑っていると、目の前には巨大な剣がすぐそこまで迫ってきていた。
「……そ、それでっ、き、きしゃま名はっ、ナハナントイウ?」
「わわわっ!! ちょ!! タイム!!
……え、はい?」
「……だからっ、貴様の名は何というのだっ!!」
「はい! く、黒騎士様ぁ! ふるのっ、古野英雄でございまする!」
「そうか、ならばお別れだ……フルノヒデオ」
「……へ?」
次の瞬間目の前が赤に染まる。
そのせいか漆黒の鎧に覆われた奴の顔も朱く染まり、アリガトウと恥ずかしげに俯いて呟いているようにも思えて少し滑稽だった。
*
──これが奴との出会いであり、それ以来顔を合わせてはいないが、100を超える転生の中で今も1番の印象に根強く残るモノだった。またアイツと戦えるそう思うと無くしたはずの胸の高まりが再びよみがえるのだった──
「……おーい、感傷に浸るのも良いが、我の話の続きも聞いてはもらえんかね?」
「はっ!? し、失礼しましたっ!」
「まぁ、よい
それでだな、話の続きになるが3ヶ月後から始まる運動会の第一種目はズバリ……」
「ズバリ……?」
「魂入れだっ!!!」
センスのない種目名を声高々にドヤ顔で叫ぶ神様の事を今日初めて殴りたいと思った。
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