手編みって嬉しいけどちょっとチクチクする
ご意見、アイデアもらえると泣いて喜びます\(^o^)/
「うっ、うわぁぁあ~!!!!
とうとう魔王が……魔王が真の姿を現したぞ!!!」
1度目の転生はそれはもう刺激的なモノだった──
高校3年の夏、道端で拾った光る石はなんとギナービズ帝国の魔王の魂を閉じ込めたものだった。
魔王の幹部がこの日本に次々と送り込まれ、同時に悪の存在からオレを守ろうと天使達も送り込まれた。
次々とオレを守り死んでいく天使達……とうとう魔王の幹部が現れ、オレも殺されてしまう。
そして石を奪おうとした瞬間石はオレの体と一体化してしまい、困った幹部は死体ごと帝国へと連れて帰る。
牢獄で目を覚ましたオレの右手は如何なるものでも存在を消すまで燃やし尽くす
─神罰の獄炎─を出せるようになった。
この力で帝国から逃げだし、天使達の国へ行き、そこで修行を積んだり信頼できる仲間達も出来た。
帝国へ再び進撃し、何度もピンチを乗り越えながら魔王の側近をあと一歩の所まで追い込むと……突如体が痛み出し、黒い煙が体から漏れ出した。
煙は怪物の形となり、やがて魔王として目の前に君臨した。
──となんやかんやで世界を救い、初めて英雄になった日の事を今でも懐かしく思う。
「英雄さん!前!前から魔王来てます!」
最初の転生から現世に戻ってきて、その活躍が異世界の間で話題となり、今会いに行けるヒーローとして話題になり始めた。
「何ボヤッとしてるんですか!!!
……あぁ!手が!手が!英雄さんの手がヤバい方向に曲がって!!脚も!!」
次々と増えてくる世界を救って下さいという話…お蔭様でデートの約束はおろか友人との遊びにも行けず、バイトも受験勉強をする時間もなかった。
「……え、死んでます?
あれ死んでますよね?首とか4回転半くらいしてるし、体は原型ないし……」
気がつけば大学にも行かず、ニートになっていた。
親に事情を正直に説明すると号泣され、そのまま病院へ連れて行かれそうになった。
必死で異世界が!魔王が!!と話をする真面目だった息子を見て親はどう思っただろうか。
「魔王は私が足止めします!
その間に英雄さんの回復をお願いします!!」
なぜこんなことになったのだろう
軽い気持ちで転生したいなどと思うんじゃなかった。
現実のオレは何も成し遂げてはいないじゃないか。
ちっ…
「ぢぐしょおおおおぉおぉオッッ!!!」
「おぉ!!!!
魔王が!魔王が一瞬でコナゴナに!!
流石は英雄さんだ!!」
──この戦闘を見た者は後にこう語った
“ぐちゃぐちゃの肉塊が魔王にぶつかって粉砕する様は正直見ててすげぇキモかったです”
と──
「いやー、流石です!
あそこからどうするのかなと思いましたけどあのまま突っ込むとは!」
「……ありがとうございます」
「あ、あの……それとですね……?
この日の為にセーター編んだので…良かったら着て下さい!!
きゃ、渡しちゃった♡」
「ありがとうございます」
「これからも頑張って下さい!!
私達毎日見て応援してるので!!」
「ありがとうございます」
「英雄さんのお帰りです、皆さんアーチを! アーチを作りましょう!!」
王国中の人々が満面の笑みでアーチを作ってくれてオレは張り付いた笑顔でその中をくぐる。
ありがとう!ありがとう!という人の中には英雄LOVEと書かれたうちわを持った者や、英雄オフィシャルファンクラブ専用のTシャツを着た人達も大勢いる。
笑顔で手を振り返し、いつも応援ありがとうと言った。
アーチを抜け、現世へのワープゲートを通る前に先程のセーター娘に引き留められた。
「英雄さんっ!」
「あの、英雄さんの家に電話したのは女神界での固定電話でして……
えっと……これが私の個人の電話番号なので……あの……その……」
「すいません、そういうのはお断りしているので」
困ったように笑みを浮かべると目に見えて落胆していたので、
「セーター大切に使いますね」
と言うと顔を真っ赤にしながら満面の笑みで走り去って行った。
それを笑顔で見送ると1人静かに現世への扉をくぐった──
「3時間30分か……あと1時間早く魔王の幹部を見つけ出せれば面接にワンチャン間に合ったのに……」
オレは昨日必死で書いた履歴書を見ながら涙を滲ませた。
「22にもなって親からの仕送りで暮らす……このままじゃダメだよな……」
「明日は……病院に行かないと」
今でも月に1度カウンセリングを受けている。
親はまだ息子は何らかの病気で幻覚に囚われていると思っているのだ。
早く両親を安心させたいが、オレにしか救えない命があると思うと居ても立っても居られなくなってしまう……ただ現実の自身の生活にも限界がある……いつかは、いつかは職を手にしなければ──
と、貰ったセーターを見てそう思うのだった。
「今日もアミコンダ王国、救っちゃいました☆」
オフィシャルファンブログを更新すると、ファンからは
素敵です!ファッション決まってますね!勝ち方めっちゃロックだったよぉー!
というお褒めの言葉を頂く。
それらを死んだ目で見つめるとパソコンを閉じ、タウンワークを枕に眠りについた。
明日の病院は時間通り行けるのだろうか……今はそれだけが心配だった。
──この時はまだ知らなかった。
脅威というものは気がつく頃にはもう強大になっていること。
その時がもうすぐそこまで来ていることに。
読んで頂き、ありがとうございました!
明日も6時頃に投稿予定なのでよろしければチェックして下さい(>_<)ゞ