焦がれる空
あの日もこの空を見ていた。
その横顔に、瞳に、腕に、あなたの全てに、私は恋をした。
もう聴くことのないあの音色の振動がいまも心で疼いている。
今日の神奈川の最高気温は十一度。真冬のような寒さに、今シーズン初めてコートを出した。
それでも靴下は短くて、スカートは膝上五センチ。足元が異常に冷える。
あの頃の私とは、制服のスカートの長さも、弾いているバイオリンの弦も、学校で流行ってる音楽も違う。
それでもまだ、変わらない想いはどこへ向ければいいのだろう。
たとえどんなに言葉にしても、あの人には届かない。
あの背中は、あまりにも遠すぎる。
だから私は、目を閉じて夢の続きを求めるのだ。
また逢うことができたなら、こんどはなにを演奏しようか。私のバイオリンを褒めてくれるかな。
やりたいことなら、たくさん思いつく。でも、それらを実際に叶えていく二人の姿はどうしても想像できないのである。
果てしなく降り注ぐ天上の音色にいまも思い焦がれて、私はバイオリンを弾く。
せわしなく流れる日々の雑踏のなかで、ひたすら願うのは、何十年後。
いつかこの身が朽ちる日が来たら、国のために散った、優しい笑顔の元へ還りたい。
あなたに寄り添い続けたい。
金木犀の香りがするあの高台で、あなたに巡り逢いたい。