一章(プロローグ)
花びらは美しく舞い、地面は花のじゅうたんであった。
そんな天国のような場所で僕は一人の美しい少女と話していた。
彼女はまるで世界の鮮やかさそのもので、僕には決して届かない高嶺の花であった。
彼女が笑う度世界は輝き、音を奏でた。
彼女が動く度、僕の心は踊った。
そんな彼女に僕は近づきたい。
平凡でなんの才能もない僕だけど、彼女の背中に少しでも追いつきたいと思った。少しでも触れたいと思った。
今も僕に話しかけながら笑う彼女は僕には不釣り合いだ。
だから僕は英雄の陰になりたいと思っている。
影となって少しでも花を輝かせたいと思ったのだ。
「ねぇあなたは英雄になりたい?」
深い深い森。ジャングルと言っても差し支えない程の大きな森の中で、彼、シルク・ユニオは一人で暮らしている。
自身で作った家に住み、自給自足の生活をしている。
何故このような森で、人が近づかないような場所で一人暮らしをしているのか。それに理由はない。
ただ、なんとなく暮らしていた。
「十本目完了」
ため息をつきながらシルクは近くにあった大きな切り株に腰を下ろし、顔をタオルで拭く。
熱い体に風が当たり少し肌寒い。
風通しも良くなって来ているようだ。
もう気付いていると思うが、シルクは木を切っている。畑を作るためだ。
この木を切る作業というのは意外と大変なもので、今のように時々休みを入れながら地道に働いている。
今は始めてから六時間ほどたった頃だろうか。
彼は今いる切り株に寝転がり、空をみる。
いつも通り空は広く、暗く濁っている。
大きな雲がゆったりと動き、時がたっていく。
この何もない時間というのはシルクにとって心地よいものだった。どこか懐かしい感じがするのだ。なにか遠い昔を見ているようなそんな感じだ。
シルクは、そんな心地よさに包まれながらゆっくりと目を閉じる。
・・・やはり彼には、この場所が懐かしく感じられた。