10の試行、夢の還元
紙飛行機はまっしろ
まっしろきれいな未来
まっさおな空に飛んでいけ、と命令して飛ばした
手を離れたそれは
すべるようにくるりと落ちた
1mもない地面
ひろいあげて
どこもおかしくないようにみえるのに
じゃあ、もう一回
すこし神経質に折り直した紙飛行機
空を見上げた
空はあれだとゆびさして飛ばした
手をはなれて
ふらりゆれてこつり落ちて
さっきよりすこし伸びたけれど、
ひろいあげて
ひとつ瞬きした
折り方を変えてみようかな
それで、もう一回
形をかえた紙飛行機
折り方は_たしかこうだった
わくわく空にむけてセット
さあ飛ばそう
手を離れた
と思ったらとまってひるがえって
顔にあたった
ふりはらって
そのままただの紙にもどす
でも…ただの紙じゃ空は飛べない
だから、やっぱりもう一回
紙飛行機のかたちを再構成
大丈夫、折り方はちゃんと思い出した
雲だってあんなにのびのび浮きつづけているのにね
ダーツのように目を細めて飛ばした
手を離れた
それなりにきれいな弧を描いて
かさりむこうの草の上に落ちた
歩いてとりにいく
まだまだ欲張る人間
誇らしげな飛行機
よし、もう一回
もう一回
もう一回
折り返された線重なる紙飛行機
すうっとうでを伸ばして
風のゆくほうへ飛ばす
手を離れて
しばらく空を見上げていた
墜ちたのは丘のむこう
ひろいあげて
しばらく丘の上で空を見ていた
次は此処からとばそう
ほら、もう一回
紙飛行機の翼ふるふると風にゆれる
指先で先をとがらせて
にぎやかな空へ飛ばす
風がひゅっとふいて
あっけなく紙飛行機を墜としていく
かしゃかしゃ転がりながら着地した
そういえば
なぜこんなことしてるんだったっけ
わからなくなってきた
空はわたぐもとかき混ぜられて混乱中
とりあえずもう一回やればわかる…きっと
もうあまりまっしろじゃない紙飛行機と
もうまっさらじゃない未来と
いたずらに誘う風、どこを指そうか
命令する前に飛ばされた
手を離れた紙飛行機
どこに飛んだのか分からなくて
うしろに流されるのをおいかけた
連れ去られるのをつかまえて
ほっと息をついた
もしかして投げ方がわるいのかな?
…もう一回やってみよう
紙飛行機、気持ちは離反する
空の水色が迷子で
導いてあげたい目的地がなかなか指せない
結局弱々しく押し出すだけだった
手を離れた
風にのってきれいに飛んだ
ふわり、優雅に着地
ひろいあげにいかないまま
腕をだらり下げてしばらくぼうっと立っていた
なんだか雨が降りそう
でももう一回飛ばしたい
飛ばさなきゃ_嫌だ
もう一回
もう一回
拾い上げた紙飛行機はへたりこんでいたけど
まったく気付かない私の焦り
苛々して
もうどうでもいいと言わんばかりの大暴投
風
空が一滴泣いた
頬に落ちてどきりとした
止めようもなく落ちる通り雨のはじまり
紙飛行機を取りに走る
ひろいあげてみたら
折り目の端から少し破けていた
翼に雫が流れた
それは
終わりの合図
ただの紙なら綺麗なままだった紙
歩いて帰る私の周りの何もかもが俯いていた
ずぶずぶと冷たく沈む…重くなる
何故こんなことしてたのか
ぼんやり思い出す
生まれてからたくさんのものに出会った
でも何もかも終わりは唐突で、
当たり前のようにある日こわれてしまい
そして誰からも忘れ去られていった。
そんな世界になる日が私にもいつか来るのだから
だから、飛ばそう
誰かに運良く届けば
存在証明ぐらいにはなるかもしれない
そう思ったからここに来て
そう思ったから飛ばし始めて
そう思ったけど…
一体どこでこうなったのだろう…
硝子にころがる雨粒をながめた
ぐっしょりと疲れた体 シャワー浴びてもう寝よう
水の底みたいに心なしか大人びた青、薄くひろがる雲
あくびして目覚めた空と微笑んで
あのぼろぼろの紙飛行機を
風船にくっつけて
なにも命令せず静かに離した
離れる はなれる 遠くなる
もう戻ってこない
満ち足りたような寂しさが少し風に
何も言わずに消えていく紙飛行機
ごめんね、さようなら
目を閉じる
そうしてまた、新しい夢を折る。
浅黄です。読んで頂きありがとうございます。
さて、この詩集ですがこの話で完結(?)することにしました。
なぜかというと結構テーマがごちゃごちゃしてきたためです。
今後は多分シリーズで投稿すると思います。多分…きっと…
もし今後も出会えたときにはよろしくお願いします。