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宛先不明の  作者: 浅黄 悠
6/7

お昼寝は涙の後、目覚めるのは涙の前

意味がわかると怖いかもしれません。

(意味が分からないとただのよく分からない詩ですが)

なんでないてるの?

なんでないてるの。


(道路沿いの電気店の中から声が漏れ聞こえていた。

”十月十一日、午後一時。ニュースの時間です”)


ぼくのすきなおもちゃ、あとであみちゃんにかしてあげる。

きょうだけ、とくべつだよ。

ねえ、どうしてないてるの?


(まだ太陽は高く、暑くはなく涼しくもない。

コンクリートはじりじりと焼けていた。)


ぼくきょうあみちゃんのすきなおかしももってきてるんだった。

ぼくもすきだから、このあいだもってきたときは、だめ、っていっちゃったけど。

はんぶんこして、たべようよ。

なのに、どうしてないてるの?


(通りにはなんとなく焼き肉や卵のにおいがしていた。

どこか遠くからはかすかに落ち葉の甘い香りがした。)


あ、わかった。

このまえ、ぼくはあみちゃんとそとでおいかけっこしてあそびたい、っていったよね。

でも、あみちゃんはほんをよんでて、やだよ、っていった。

それで、ぼくはあみちゃんに、ばか、あみちゃんなんかとはもうあそばない、っていっちゃった。

ほんをよみおわったあみちゃんが、あそぼう、っていってもしらんぷりしてた。

ほんとにごめんね。

だから、なかないで。


(空には雲がのんびり綿菓子をちぎったみたいに浮かんでいた。

飛行機雲はくっきりと引かれ、やがて毛糸のように太くなっていく。)


だからねぼく、あみちゃんのすきな、コスモスのおはなをとりにいこうとしたの。

ほら、どうろのさきのふぇんすのよこにはえてるでしょ?

おとうさんに、あれとってもいいの、ってきいたら、いいんじゃないか、そだててるようにはみえないし、あんなひくいものなら、っていってた。

とれなかったけど。


(青い、蒼い空。灰色のコンクリ。零されていく異質な赤。白くてあまいわた雲)


そろそろ、かえろう。

「だっそう」したことがばれたら、せんせいにまたおこられちゃう。

いちじからは、おひるねのじかんだもんね。あみちゃんもねむいでしょ。

ぼくも、ねむいし。

ねむくて、たちあがれないよ。


ねえねえ、どうしてみんなはそとでおひるねしないのかな。

こんなにいい

てんきなんだよ。

いいとおもわない?

__やっぱり、だめ?


(かたん。

振り返るとOL(オフィスレディ)の目が見開かれ、口は半開きになっていた。

スマートフォンが落ちていた。

次の瞬間、その口からの長いソプラノが静けさをかき乱した)



なんだよ。

あのおばさん、ぼくの

おひるね

じゃまするつもりなの?

なんでぼくのことみてこわがるの?

あみちゃんを

こわがらせないでよ。

ねえ。




あみちゃんに、もっとおはなししたい。けど、「もうねなさい」ってどこからかせんせいのこえがする。

だから、しかたないから、あみちゃんみたいにわらってあげるの。

あ。

あみちゃんのなみだとまった。






(彼は目を覚ます。

白い雲だけの世界みたいな所。

静かな場所。あの空もコスモスもあの赤もどこかにいってしまった。

だからずっと、彼は私を見ていた。私は何にもわからなくて怖かったから、ただ泣いていた。

あれから数年。もう今は、彼ははっきりとは覚えていないかもしれない。

全ては終わった事、過去のこと。ただ、ときどき夢で私を怖がらせに来るだけ。




それにしても、あの時妙に安心した気持ちにもなったような。

__なんでだろ?)




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