お昼寝は涙の後、目覚めるのは涙の前
意味がわかると怖いかもしれません。
(意味が分からないとただのよく分からない詩ですが)
なんでないてるの?
なんでないてるの。
(道路沿いの電気店の中から声が漏れ聞こえていた。
”十月十一日、午後一時。ニュースの時間です”)
ぼくのすきなおもちゃ、あとであみちゃんにかしてあげる。
きょうだけ、とくべつだよ。
…
ねえ、どうしてないてるの?
(まだ太陽は高く、暑くはなく涼しくもない。
コンクリートはじりじりと焼けていた。)
ぼくきょうあみちゃんのすきなおかしももってきてるんだった。
ぼくもすきだから、このあいだもってきたときは、だめ、っていっちゃったけど。
はんぶんこして、たべようよ。
…
なのに、どうしてないてるの?
(通りにはなんとなく焼き肉や卵のにおいがしていた。
どこか遠くからはかすかに落ち葉の甘い香りがした。)
あ、わかった。
このまえ、ぼくはあみちゃんとそとでおいかけっこしてあそびたい、っていったよね。
でも、あみちゃんはほんをよんでて、やだよ、っていった。
それで、ぼくはあみちゃんに、ばか、あみちゃんなんかとはもうあそばない、っていっちゃった。
ほんをよみおわったあみちゃんが、あそぼう、っていってもしらんぷりしてた。
ほんとにごめんね。
…
だから、なかないで。
(空には雲がのんびり綿菓子をちぎったみたいに浮かんでいた。
飛行機雲はくっきりと引かれ、やがて毛糸のように太くなっていく。)
だからねぼく、あみちゃんのすきな、コスモスのおはなをとりにいこうとしたの。
ほら、どうろのさきのふぇんすのよこにはえてるでしょ?
おとうさんに、あれとってもいいの、ってきいたら、いいんじゃないか、そだててるようにはみえないし、あんなひくいものなら、っていってた。
…
とれなかったけど。
(青い、蒼い空。灰色のコンクリ。零されていく異質な赤。白くてあまいわた雲)
そろそろ、かえろう。
「だっそう」したことがばれたら、せんせいにまたおこられちゃう。
いちじからは、おひるねのじかんだもんね。あみちゃんもねむいでしょ。
…
ぼくも、ねむいし。
ねむくて、たちあがれないよ。
ねえねえ、どうしてみんなはそとでおひるねしないのかな。
こんなにいい
てんきなんだよ。
いいとおもわない?
…
__やっぱり、だめ?
(かたん。
振り返るとOLの目が見開かれ、口は半開きになっていた。
スマートフォンが落ちていた。
次の瞬間、その口からの長いソプラノが静けさをかき乱した)
なんだよ。
あのおばさん、ぼくの
おひるね
じゃまするつもりなの?
なんでぼくのことみてこわがるの?
あみちゃんを
こわがらせないでよ。
ねえ。
あみちゃんに、もっとおはなししたい。けど、「もうねなさい」ってどこからかせんせいのこえがする。
だから、しかたないから、あみちゃんみたいにわらってあげるの。
…
あ。
あみちゃんのなみだとまった。
(彼は目を覚ます。
白い雲だけの世界みたいな所。
静かな場所。あの空もコスモスもあの赤もどこかにいってしまった。
だからずっと、彼は私を見ていた。私は何にもわからなくて怖かったから、ただ泣いていた。
あれから数年。もう今は、彼ははっきりとは覚えていないかもしれない。
全ては終わった事、過去のこと。ただ、ときどき夢で私を怖がらせに来るだけ。
それにしても、あの時妙に安心した気持ちにもなったような。
__なんでだろ?)