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サヨナラ、ヴィーナス。  作者: meluco.
6/12

橙色






私は昔から身体が弱かった。


両親ともに医療系のお仕事で

どちらかといえば周りの子たちよりも裕福な家庭で育てられた私は

鬼ごっこよりはお絵かき、シーソーよりはお人形遊びと

家の中で一人で遊ぶものが好きだった。


そのせいもあってか、いつの間にか仲の良かった友人達には遊びに誘われなくなり

両親も帰りが遅いため気が付いたら一人でいる時間が増えていった。


身体が弱かったのは生まれつきだったけれど、特に大きな病気をしたとかそういうことは一切なく

他の人に比べて少し風邪をひきやすい、とか、規則正しい生活をしなくちゃ体調を崩す、とか

割とそんな程度の弱さであったから別に周りの人たちに言いふらしたりはしなかった。


ところが高校に上がると同時に、物忘れが激しくなり始めた。


最初はピアノの鍵盤の位置。



「ド、レ、ミ、ファ..」



口に出せば分かるのだけれど

逆に口に出さなきゃ分からなくなっていた。



気が付いたときには楽譜も読めなくなっていた。






その様子を見かねた母は父に相談し診察を受けさせるよう言った。






.....









「記憶障害..?」





「..ああ。」






「でも、私、まだ高校生っ、」




「認知症とはまた少し違うものだ。

亜美、いいか、よく聞きなさい。」




父は白衣を脱ぎ薄い水色のボーダーのシャツのボタンをゆっくりとひとつ外した。







「できる限り学校が終わったら私の病院へ来なさい。

少しずつでいい、ゆっくり治療していこう。」








――――――――――――――







診察室から出ると

ソファで母が泣いていた。





私はただ呆然としていて

ずっと右手に握りしめていた家の鍵の感覚が

ふわっと消えていった。






バチが当たったんだと思った。






その日の帰り道、

「神様なんていない」と、ずっと思っていたけれど

私は誰も見たことなんてないはずの神様を遠く見据えた。









街灯がやけに眩しく感じた。









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