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サヨナラ、ヴィーナス。  作者: meluco.
12/12

あなたへ






「亜美~?そろそろ行くぞ~」





「うん、あと少し!」






この年齢になってまさか引っ越しをするとは思ってもいなかった。





私はカバンを肩にかけ

鏡に映るじぶんを見つめた。




住み慣れたこの街には思い出が多すぎる。








「ごめんな、急に。お父さんの都合で引っ越しだなんて。」



「大丈夫よ。なんとかなる。」





階段を下りていくと、父が申し訳なさそうに

飲み物を差し出した。




「数年したらまた戻ってこれるから。」



「それよりおじいちゃんが心配だよ。」






父の祖父が先月体調を崩し入院した。


地方出身の父は、小さい頃に母親を亡くしていて兄弟もいないため

祖父を傍で支える人が周りにいなく


そう何度も簡単に通えないところに住んでいるので

やむを得なく祖父の病院の近くに引っ越すことに決めた。






「いろいろ手続きしなくちゃな~」



「一からまた頑張ろう。」








私はサンダルのストラップが切れていたことに気が付かなかった。







「いつの間に..」







明らかにガッカリした表情を浮かべると

先に玄関で待っていた母に笑われた。





「よく彼にも注意されてたわよね。」




「へ?」




「『亜美、その靴歩きにくいならやめなよ。』『可愛いからいいの。』」




「..うん。」






笑ってしまうくらい昔のことで覚えているはずなんてないのに

私の記憶は壊れかけのビデオテープより鮮明に映し出された。




「そういえば彼とはどうなの?」




私は何も返せず、ただ微笑んだ。



















さようなら




然様なら













生まれてから死んでゆくまで何気なく使い続けていくこの言葉に

そんな深い意味があるだなんて思ってもいなかった。







私には重すぎる。



重すぎるよ、ユウヤ。


















私はサンダルの隣に並んでいたスニーカーを履いた。

スニーカーを履くなんていつぶりだろう。








「よし。忘れ物はないな?」



「大丈夫です」





父がゆっくりと玄関のドアを閉めた。





「まあ家はこのまま空けとくし、おじいちゃんの体調がよくなったら

また戻ってこれるから。」



「お父さんって本当に東京が好きよね~」



「忙しくても、生きている実感がする街ではないか。」



「ふふふ」






車に乗り込んだとき、私は忘れ物をしたことに気が付いた。





「ごめん、やっぱり先に行ってて!」





「え?ちょっと、亜美!」

































小さな頃の私に教えてあげたい。














忘れたくないもの、忘れちゃいけないものは

白紙のノートに描いておきなさい










いつか思い出せなくなるその日が来るまで

大切にしておきなさい













もし、忘れてしまったそのときには








































――――――――そっとそのページをめくりなさい。





















.....................













〈〈ガチャッ〉〉









「忘れ物しちゃった。」





「..僕の部屋に?」





「うん。」





「わたしと出会ってくれてありがとう。」





「永遠のさよならみたいだね。」





「もう会えないと思う。」





「..そっか。」





「あなたのこと、忘れちゃうかもしれない。」





「それでもかまわないよ。」





「..ごめん。」





「僕はキミにずっと憧れていたんだ。」





「..今は?」





「これから先もだよ。」





「..ありがとう。」





「そういえば、何を忘れたの?」





「目瞑って」





「え?」


















































涙目の瞼に優しくしたキスを

「あなた」はきっと忘れない。












―――――――――――――






「サヨナラ、ヴィーナス。」 / meluco.



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