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サヨナラ、ヴィーナス。  作者: meluco.
10/12

レセプト








「とりあえず、どこか入ろうか。」



僕は待ち合わせ場所の近くにあった

喫茶店を指さした。




キミは黙って僕の2歩後ろを静かについてきた。







........................................







店内は昼過ぎということもあり、昼食をとりにきた人や

外の暑さから解放されようと涼みにきた客などでほとんど満席だった。



「2名様でよろしいでしょうか?」



「はい。」



一度も染めたことがないであろう自然な黒髪を後ろで一つに結んだバイトらしき子が

何かを悟ったかのように一番奥の窓際の席へと案内してくれた。




窓の外に見える喫茶店を包み込む初夏の木々たちが優しい顔をしている。








席に座るとキミは被っていた麦わら帽子を脱ぎ膝の上に置いた。







「カフェオレと..何飲む?」


「ミルクティー」






店員さんが奥のほうへ行き

ある意味「二人きり」になってから色褪せていた懐かしい空気が流れた。





何を話そう。



何から話そう。





違う、何を何から話したら正解なのだろう、だ。







キミは窓の外をぼーっと見つめながら

小さな唇を動かした。





「氷。」



「..っへ?」







あまりにも唐突で予想外の言葉を発したので

僕は飲んでいた水を吹きかけた。













「氷みたいなの。」











キミが話した内容はこうだった。




出逢った当初から記憶が消えていく病気であるということ


その原因は今もまだ分からないということ


今も治療中なこと


一緒に居た時間の記憶も

もうほとんど思い出せない状態でいること、



そして、











この街からいなくなるということ。









「ごめんなさい。」








キミの目から涙が零れ落ちた。


僕とキミが過ごしてきた不安定な時間の辻褄が

今、一致した気がした。








「溶けて消えちゃうの。何もかも。大事に大事に保存しておいてもね、誰かに見せよう、話そうとする度に熱で溶けて消えちゃうの。その思い出が濃いほどに。」










「自分の発した言葉も、忘れちゃうの、...。」








僕は冷静だった。




自分でもびっくりするくらい冷静だった。






黙って彼女の話を聞いていた。






「だからね、早めにお別れしたかったの。タイミングが、掴めなかったの。これ以上一緒に居たらユウヤも私も辛くなる。約束なんて、守れない。だけど、なぜかユウヤの前だと先に感情が出てきちゃって、あれこれたくさん考える前にわたしの気持ちが強くてっ、...。」





僕は彼女が言い終わる前に座っていた席から立ちあがり

彼女の横に行きそして






強く抱きしめた。









「もういいよ。」












その言葉が、僕なりの精一杯のキミへの「お薬」だった。


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