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本当の私を見つけてくれた人

美空が家に帰って暫く時間が経った時


「キヨー!

大変なことが起きとる!」


そう慌てて叫びながら部屋に入ってきたのは

ノン……

と、ノンに支えられているアオだった


アオはひどく落ち込んだ様子で

何かあったことはすぐにわかった


「ど、どうしたと?

ひどい顔になっとるけど」


「ひどい顔とか言わんで……」


力なくアオはそう言うと

ノンから離れ俺に泣きついてきた


「うわ!バカ、離れろって」


ここまで落ち込むって

一体何が……


あー、美空のことか?


「俺……美空のこと怒らせたかも

怒らせたっていうか

悲しませた…?」


アオは小さな声で

ブツブツと唱え出した


「何言ってんだよ」


「さぁ、一人言?」


「そう言えば美空が今日、

アオから逃げてきたって言いよったな」


思い出してそう呟くと

アオはガバッと体を起こすと

目を丸くして俺を見た


…かと思うと

また倒れ込んだ


全く何があったっていうんだよ


「逃げられとる…?

俺は美空を泣かせたかったんじゃなくて

ただ、気になることがあったけん…」


「待ってアオ

美空のこと泣かせたと!?」


アオの泣かせたという言葉に

いち早く反応したのはノンだった

泣かせた理由によっては

許せないというかんじだ


「うん…泣いてた……」


顔をうずめたままで答えている


アオが誰かを泣かせることなんて

今まであっただろうか


いや、ゼロじゃないか


告白を断って泣かれたことは

今までに数回あったはず

でもそれ以外には

少なくとも俺は知らない


まぁ、だからこたえてるんだろうな


「謝りたいけど

会いたくないって言われたけん

家にも行けんし


どうしたらいいとかわからん」


「会いたくないって…


アオよっぽどのことしたっちゃなかと?」


さすがのノンも

アオを責めるよりも心配になってきたようだ


「会いたくないって言われたんなら

美空が会いたいって思うまで

待っとくのが1番じゃないとかな」


俺は素直に思ったことを言った


俺達が手を貸して

美空を強引にアオに会わせることも一瞬考えたけど

たぶんそれはしない方が良い


アオと美空が何があったかを詳しく話さないということは

あまり知られたくないことなんだろうし

2人で解決すべき問題なんだろう


負けるな

という思いを込めて

アオの背中を1回パシンと叩いた





家に帰ると

おじいちゃんとおばあちゃんが

何やら楽しそうに話していた


「美空ちゃんおかえり

ちょっと、これ見てみんね」


おばあちゃんはどこかウキウキしながら

私にあるものを見せてきた


「アルバム?」


そこには何冊ものアルバムが広げてあり

たくさんの写真が貼り付けてあった


「これは

美空が生まれた時に

おじいちゃんと海に行った記念の写真やね」


「えらいニコニコしとるよな」


そこには今より少し若いおじいちゃんに

抱っこされて喜んでいる赤ちゃんがいた


これが私なのか…

自分の小さい頃の写真なんて

すごく久しぶりに見た


なんだかくすぐったい気持ちになる


「こっちは幼稚園に通いよる頃ね」


制服姿を見せに来たのだろうか

帽子をかぶってピースをしている私が写っている


「ん?これは?」


その写真の隣に貼ってある1枚の絵

家らしきものが色鉛筆で

わちゃわちゃと描かれている


覚えてなどいないけど

たぶん私が描いたんだろう


「これはこの家を描いた絵やね」


「家を造る人になるーって

言いよったな」


家を造る人?

私大工になりたかったんだっけ?


「そうそう

おじいちゃんとおばあちゃんの為に

でっかい家を造ってあげる

って言いよったんよ」


「へぇー

そんなこと言ってたんだ」


家を造る、かぁ


幼稚園児の頃に描いた絵は

しっかりと私の目に焼き付き

何か自分の中で変化が生じた気がした


自分の奥底にある

扉のロックが解除されたような…



次の日もあの絵を思い出して

将来について考えてみる


なんとなく

公務員を目指そうかななんて

特に理由もなく思っていた私には

小さい頃の夢が

すごく魅力的に思えた


もちろんそれには理由があって…


この島に来て

キヨやノン、そしてアオに会って

島のために役に立ちたいと思っている3人に

私は確実に触発されていた


あんなふうには生きられないと思った


でも、あんなふうに

素直に一生懸命に生きてみたい


夢を追いかけてみたい


家を造る人…


そういえば

私は建物を眺めるのが好きかもしれない

感動したり落ち着いたり

心にすごく影響を与えてくれる


この島の教会を見たとき

とても魅力的に思えた


もう答えは出てる

私が進みたいのは公務員ではなく……


1つ、思い浮かぶものがあった

やりたいことが見つかった

誰かにやれと言われたからではない

これは本当の私からの挑戦状


私は私を受け入れつつある

心のモヤモヤが少しずつ晴れていく


その晴れた心の中に

思い浮かぶのはこの島で出会った

無茶苦茶な少年、アオの笑顔だ


間違いなく私を変えてくれた


あんな酷いことを言っておきながら

会いたくなるなんて

私はどれだけ自分勝手なんだろう…


どうしよう?


考えれば考えるほど時間はすぐに過ぎていく



家を訪ねる勇気なんてなかった私は

それでもアオから離れられなくて

アオのお気に入りの海岸に来ていた


日が暮れかかっている海を見ると

暗くなるまで

その姿を最後まで見届けたくなる



ゆったりと流れる時間のなかで

いろんな事が頭を巡る


やっぱり言い過ぎたよね

傷つけてしまったよね


私は自分を守りたいがために

アオに酷いことを言った


謝るべきなんだ

いや、謝りたいんだ


……でもやっぱり会うとなると気まずいよな


波の音に耳を傾けると

ふと、海の冷たさに触れたくなった

風の暑さを和らげたかったし

自分の頭を少しでもスッキリさせたかった


私はサンダルを履いたまま

波に足をつけた


心地よい冷たさが足を包み込む


そのままもう一歩、もう一歩と足を進める

それでも膝まではいかない


引いては押し寄せ

押し寄せてはまた引いていく

それを繰り返す波は

私の考えを一緒に流してくれそうな気がしてくる


このままアオと会わなければ

どうでもいいやって

思えるようになるのかな……


ただ海の向こうを眺め

ボーッとしていて

頭の中までもが空と同じオレンジ色に染まった時


ガシャガシャン


という何かが倒れるような音が聞こえた


え?何の音?


不思議に思って振り返ると

自転車を乗り捨てて

誰かが走ってきているのが見えた


誰かが……


え、アオ?


その誰かがアオだとわかった瞬間

逃げようと波の抵抗を感じながら

数歩後ろに下がる


でも私の思考が次の行動に繋がる前に

私はアオに肩をがっちりと掴まれていた


「何しようとしよるんよ!

海で…この海で

…溺れるってたぶんめっちゃ苦しいばい?」


「は…?溺れる?」


血相変えて走ってきてると思ったら

何を言い出すの?


いや、色々言いたいことがあったんだけど

それが全部吹き飛ぶくらいの

訳のわからなさだ


何しようとした訳じゃないし

溺れる気もない


…。わかった

わかってしまった、アオの思考が


私が自ら命を絶とうとでもしてるように見えたんだ


「ア、アオ

私、自殺しようなんてしてないから!」


肩を揺らされながらもそう言うと

アオの手はぴたりと止まった


「そうなん?

あぁぁ、よかったぁ

本当びっくりした」


それはこっちの台詞だ


「あ、あ、あの、ごめん

すぐ、帰るけん」


私の肩から手を離し

慌てている


会いたくないって言われたのに

会ってしまった

と考えているのだろうか


「待って!」


次は私が帰ろうとしている

アオの腕を掴んだ




2人で砂浜に座る


会ってない時間なんてほんの少しなのに

長く時間が空いていたように錯覚する


何から言っていいかわからない


アオの顔も見られない


あー、もう

勇気を出せ!私!


そう思ってもなかなか声が出せなくて

先に言葉を発したのはアオだった


「ごめん

俺、美空にひどいこと言ったよな

何にも知らんとに…」


「違うよ!

……悪いのは私だよ

ごめん


アオに言われたことが全部

本当のことだったから…

私が誰にも話してない悩みだったから…


今までね

その場に合ったキャラクターを自分に取り入れて

人と接してたの


そうしたら初対面の人とも話せたし

慣れない場所も乗り越えられた


たぶん、本当の自分を見せて

傷付くのが怖かったの


私は嘘ばっかりだから

嘘のないアオを見てると自分が惨めに思えてきて

薄っぺらいなって思って…


でも…

でも、1番にあったのは

本当は…アオが羨ましかったんだ」


そこまで言うとまた涙で声がでなくなった


もう……

私はアオの前で泣いてばっかりだ


顔を膝にうずめた私には

今、アオがどんな表情をしているかわからないし

何を考えているかもわからない


「今の美空は

本当の美空やん」


「…え?」


泣いている私は

え?という言葉さえも震えてしまうが

顔をあげてアオを見ると

優しく笑った瞳で私を見ていた


「俺は、美空が作り上げた美空を見て

今にも崩れそうだなって思ったんかな


でも、美空を一緒におって

そういうふうに思わん時もあったばい


スーパーの前で悲鳴あげた時とか

チャリに乗って悲鳴あげた時とか

あと、ボートの上で花火見た時とか

俺は本当の美空を見とったと思う」


悲鳴あげてばっかりじゃないか

とツッコミたくなるが

アオの一言一言が

私の心にじんわりと染みていく


「美空は本当の自分を見失っとる訳じゃなかよ

気づいとらんだけ

いつか、気づけるようになる


だって俺には

本当の美空が見えとるもん」


アオはいつも私の涙腺を崩壊させる

それでも

泣きながらでも伝えたいことごある


「アオ…ありがと」


私がそう言うとアオはニカッと笑った


あぁ。気がついた

私はアオのこの笑顔が大好きなんだ




それから私たちは2人して砂浜の上に寝転び

夏の星空を眺めていた


やっぱり島の夜空は星がたくさんあって綺麗だ

他の灯りも周囲にはなくて

まだ少しだけ熱をもった砂の上で

波の音だけを聞いていると

孤独感を感じたりもする


「無人島に取り残されて

なんか…

1人になってしまったみたいだな」


ぽっと出てきた心の中の言葉

するとここには私は1人ではなくて

すぐ隣から返事が返ってきた


「俺がおるよ」


俺がおるよ、か


すごくロマンチックな言葉だ


だけどアオは

そんな胸キュン的な意味は込めていなくて

ただ単に

俺はここに存在してますよ

ってことで言ったんだろう


ただ

それでもすごく嬉しい


「ふふっ」


なんかおかしくなってきて

笑いがこぼれる


するとアオが隣でムクッと起き上がった


「やっと笑った!

ん?でも、なんで今笑ったと?」


「それは…内緒だね」


不思議そうに首を傾げているアオを見ると

どんどんおかしくなってくる


「なんで笑ったとさー?

教えてよー」


そう言いながらも

アオも笑っている


あ、そうだ

まだアオに話したいことがあったんだ


「アオ、私ね…

夢ができたよ


正確には夢を思い出した


あのね

私、大学の建築科に進もうと思ってる


周りの自然とかと

上手く共存してて

そこを訪れた人が落ち着ける建物を

造りたいんだ」


言ったはいいけどドキドキする!

なんか緊張してる!


どうしよう

ちょっと恥ずかしくなってきたよ


「うん、いいと思う!

美空、教会見とる時とか

目キラキラしとったし


絶対叶うよ!」


私がまだまだ不安なのに

絶対叶うよなんて言ってくれる


そのアオの根拠も無い自信は

私に自信をつけてくれる


話して良かった


心の底からそう思う


「じゃあ、俺も夢を発表する!」


「え、アオの夢?

島の役に立つ男じゃないの?」


「うん、そう

俺は島の役に立つ警察官になりたい


小さい頃からの夢なんよ

けど夢って誰かに話したら叶わんって言うし

やけん今、初めて言った」


それは…今、私に言ってよかったのだろうか?


それにしても

人に言ったら夢が叶わないからって

本当に言わないなんて

ピュアすぎる


でもでも

アオが警察官になって

島中を自転車で走り回っている姿が目に浮かぶ


「あははっ」


あまりにぴったりすぎて

笑えてくる


「な!

また笑いよる!」


「だってあまりに似合ってるから


簡単にイメージできたよ

アオが警察官になってる姿


いいと思う

すごくいいと思うよ」


「本当!?

ありがとーう!」


「うわっ」


ん!?抱きつかれてる!?

まったくこの男は!


素直でもピュアでも

こういうのはやめてほしい

私の心臓がもたないでしょ!


「何ばしよるとかー」


そんなおじさんのような声と共に

目の前が急に眩しくなる


え!誰か来たじゃん!


そう焦る私とは対称的に

アオはゆっくりと私から離れると

光の元を見た


しかし眩しすぎてあまり見えていないらしい


「アオやないかー

こがんところでイチャついてからー」


「あ!その声

交番のおっちゃんやろ?」


交番?

警察官?


いや、それよりも

大事なことがある!


「イチャついてませんけど!!」


「はいはい

2人とも帰りんしゃいよー」


私の言葉は軽くあしらわれ

その人は自転車をこいでどこかへ行った


「今何時やろ?

俺達も帰ろっか」


「そ、そうだね」


まだ心臓がバクバク鳴っている


それでも

こんな私を受け入れてくれるアオの

ふんわりとした優しさに包み込まれているようで…


そんな嬉しさを感じながら

私はアオの隣を歩いて家まで帰るのでした

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