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教会での思い

私は今日、朝から

考え事をしていた


このまま家にいたら勉強を妨害してくる奴が来るかもしれない

私の中でアオに対する負の感情が形になりつつある今

会ってしまったら大変なことになりそうだ

とにかく今は会いたくない


よし

そう思ったらやるべきことは1つ


私は勉強道具を鞄に詰め込んで

外に出た


どこか勉強できそうな場所はないかと探しながら

フラフラと家の周辺を歩き回った


あ…

あそこならいいかも…。


私は目についた建物を目指して坂道を上り始めた





碧波という名前は

この島の海のように心の広い子になるようにと

つけられたものらしい


そんな名前もあってか

島が大好きで

1度も島を出たことがない


そんな俺は今年の夏

近所のじいちゃんとばあちゃんの孫で

東京から来たという女の子に出会った


会ってすぐに悲鳴をあげられたとには

さすがにビビったけど

その声は島中に聞こえとるんじゃないかってくらい

大きくて

さすが父ちゃんの幼なじみの子

元気やなって思った


ただ話していくうちに

一緒におるうちに

なんか違う気がしてきた


いまいち言葉にできん違和感があった


いつも笑っとって

楽しそうにしとるけど

何かが…違うような……


今にも崩れてしまいそうな

そんな感じ


ふわっと消えてしまいそうな

そんな不安定さ


だから美空に触れてその存在を確かめたくなる

そして触れられたら俺は安心できる


自転車に美空を乗っけて掴まられた時も

とにかく安心した


こがんこと言ったら

キヨとノンには変態って

叱られそうやけど……


あの儚さはなんなんやろう?

美空は本当はどんな人なんやろう?


そんなこと考えてもわからんかった


じゃあ、どうする?


俺は考えがまとまるよりも先に

家を飛び出した



「ばあちゃーん!

美空おるー?」


「あら、アオ

美空なら少し前に出掛けてたよ


勉強道具ば持っとったごたんよ」


外に勉強でもしに行ったんかな?


「そっか、わかった」


「待っとったら

もうすぐ帰って来るとやなかかね」


「いや、ちょっと探してくる」


そう言って玄関をすぐに出て

また走り出す


帰って来るのを

待ってなんかおられんかった


どこやろ?

美空が行きそうな場所って…?


だめだ

そんなんわからん…


走っていた足を止めて考える


あ……

教会に目が止まる


そういえば海からの帰り道

あの教会ば

じっと見よったっけ…。



可能性が少しでもあると思ったら

自然と足が向かった


教会に続く坂道を一気に駆け上がる


教会の前に到着し

開いていたドアから中の様子を覗いてみる


美空がいた


上を見ながら教会の中を

ゆっくりと歩き回っている


ステンドグラスの色に染まった光に包まれたその姿に

どうしようもない儚さを感じた


儚いからこそ

このまま見ていたくなる


だけど…


「美空!」


いてもたってもいられなくなり

遂に声をかけた




暗記物なら家じゃなくてもできる


というわけで

気になっていた教会に足を運んでみた


教会というものに

初めて足を踏み入れた


「こんなに綺麗なんだ…」


自然と心の声が漏れる

ただ綺麗というだけじゃない


人工物でありながら

自然とうまく共存しているこの教会


この島の緑の中にあるからこそ

より綺麗に見えるのかもしれない


空気まで違うように感じる


島の海を見ている時のような

心の安らぎが訪れる


私は吸い込まれるように

左右に並んでいる椅子の間を歩き

教会の奥へと進む


天井が高くて

色鮮やかなステンドグラスからは

柔らかな太陽の光が差し込んでいる


神秘的


そんな言葉がしっくりくる空間だ


教会の中を見回していると

頭の中には

隠れキリシタン、禁教令、踏絵などなど

色んな言葉が関連付けられて浮かんでくる


うん

こういう勉強法もたまには良いかもしれない


そんな事を考えながら歩く教会の中に

急に声が響いた



「美空!」


っ!


浮かんでいた言葉が

一気に弾け飛んだ


突然のことに驚きすぎて

抱えていた勉強道具の入った鞄が

腕から滑り落ちた



振り向かなくても誰かわかる


そのまま落ちた鞄を拾い

向きを変えずに返事をする


「なんでここがわかったのよ、アオ…」


足音が後ろから近づいてくる


「家に行ったけどおらんって言われて

ここに来てみたんよ


この間、この教会

気になって見とったやろ?」


バレていたのか……


会いたくなかったけど

仕方ない


何か理由をつけて

この場を去ろう


そう思った時

先にアオが口を開いた


「あのさ…」


あれ?


いつもの調子ではないアオの声


おかしいなと思って振り返ってみると

やっぱりその表情はいつもと違った


どこか不安そうな顔をしている


「…なに?」


何を言われるんだろう…

胸がザワザワする


「俺さ…

初めて会った日から

美空のこと気になっとるんよ」


はい?

何言ってるの?

真剣な目をして、本当に

何言ってるの?


そう思いながらも

私の心臓は小刻みに打っていく


「…アオ?」


「本当の美空はどんな人と?」


「……。」


……。……え?


思考が停止する


「んー、俺も自分でよくわからんとけど

美空を見よったら

……もろい?崩れそう?

そんな感じがするんよ


美空は目の前におるとに

…どこにもいないような」


言葉が出ない

今にも足元が崩れてしまいそうな気さえする


瞬きも忘れてアオを見る


アオの話は

他の誰かが聞いていたら

何を言っているのか

全くわからないことだろう


でもそんなめちゃくちゃな言葉でも

私の心には深く鋭く突き刺さった


アオは気づいているんだ


私の中身が本当は空っぽだということに


いやだ……

いやだ


あれ

私は

何がいやなんだろう?


……こんなにすぐに気付かれたことが

今、私を見つめているアオのピュアな瞳が

…全部がいやだ


どうにかして誤魔化す?

いや、誤魔化せるのかな?

アオはピュアすぎる

そんなアオに嘘をついて誤魔化すの?

すぐにバレるかも

バレたらどうなる?

嫌われる?失望される?


いやだ……


もう

いっぱいいっぱい


「……うっ」


その思いが涙となって溢れ出す


それをアオに見られたくなくて

顔を背ける


「美空?」


心配そうなアオの声は

私の心を強く締め付ける


ぽたぽたと涙を落としながらも

必死で息を整えてる


「アオはさ、この人に嫌われたくないとか

この人に気に入られたいとか

そういう理由で

自分の行動を変えたことある?」


だがやはり声は震えてしまった


「…ないかな」


「…だよね


でも私にとってはね、それが普通だったの

そうやって私じゃない誰かを演じて

生きてきたの


これが最善だとも思った

誰にも嫌われない


だけど気づいたのよ

自分がどこにもいない


アオの言う通りだよ

作り物の私はもろい


すごいね

本当に気づいちゃうんだ…


アオは素直で優しくて…

すごく良い人だよ


でも私は……」


私は何を言おうとしてる?


言っちゃだめ


頭で考えていることと

行動が一致しない

だめだと思うのに

もう言葉は止まらなかった


「私は…そんなアオを見てたらツラくなるの

自由で楽しそうにしてるのを

見てられないの


自分が惨めに思えてくる……


ごめん



私、暫くアオに会いたくない」


ぎゅっと鞄を持つ手に力を入れ

走って教会を出る


訳がわからないくらい泣いていて

心のざわつきはおさまることなく

むしろ大きくなっている


自分以外の人に

見抜かれることが

こんなにショックなことだとは思わなかった


そして……


アオはこんな私をどう思っているんだろう


最後に残った思いは

それだった

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