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私に拒否権など無いらしい


「……まじで?」


「まじまじ

大まじ」


ノンは3日連続家に来るという記録を打ち立てた


「美空も頑固やねー

もう祭り今日ばい?

行こうよ」


「頑固なのはノンでしょ」


こうやって部屋に来てはずっと

祭りに行こうと誘ってくる


「ほら耳を澄ましたら

祭りの太鼓の音が聞こえてくるやろ?」


ノンは耳に手を当て

窓の方に向ける


「聞こえないよ」


「もー!

うちら皆で待っとるけんね!」


昼過ぎになるとノンはやっと帰って行った

というか祭りに行った



その数時間後に

帰ってきたおじいちゃんは

神社に人がえらいたくさんおったばい

今年もよう集まっとるごた

と楽しそうに話していた


絶景と共に花火を見られるとあって

毎年、観光客が多く押し寄せるらしい


そんな人が大量にいる祭りに

おじいちゃんとおばあちゃんは出掛けて行った


一緒に行くね?

と聞かれたが

後から行くと言い

1人で2階の部屋にこもった


もちろん祭りに行くつもりなどない

楽しくないと思ってるとかじゃないけど

はっきり言ってそんなことしてる場合じゃない


勉強だ!


誰もいない家は

ものすごい静寂に支配されている


その分よく集中できる


そういえば

こんな集中してるときに

アオが来たんだっけ


ここ数日は全く姿を見せないけど

今日は今頃おそらく祭りに行ってるんだろう


つまり!

私の勉強を邪魔する者はいない!



「みーくー!」


ダンダンダンダンと

階段を駆け上がってくる足音がする


この声……


うそ

うそうそうそ!


「行こうで!祭り!」


またふすまがビジッと

端まで開けられる


デジャヴだ……


そこには甚平姿のアオがいた


ってか今はおじいちゃんもおばあちゃんもいないんだから

玄関勝手に入って来たってことだよね?

まったく何してんのよ


「は?祭り?

行かないってノンに言ったけど…」


「うん聞いた

やけん誘いに来たとやん」


何かおかしい?

みたいな感じで言われても

困るんですけど


「うん、だからね

行かないんだってば」


「うん、だから行こうよ」


「は?」


話が噛み合わない

やってらんないよ


「なんで行かんと?

楽しいとに

出店もいっぱいあるとに」


「ノンに行かないって伝えたのに

なんで来ちゃうかな…


今まで散々

ノンに任せっぱなしだったのに」


お?

おっと

今の私の発言

アオを待ってたみたいじゃなかった…?

そんなことは決してない


「ごめん

学校の先生に進路のことで呼び出されとってさ…

父ちゃんと母ちゃんにも色々言われてね…


拗ねとるん?

美空も意外と子どもっぽいとこあるとね」


なんだと?


「す、拗ねてない」


アオが子どもっぽいとか言うの?


「とにかく行かないからね」


私には勉強が残ってる

さっさと1人にしてほしい


「キヨもノンも

美空のこと待っとるばい」


「勉強があるの」


少しきつい言い方になってしまう

私のキャラクターが崩壊しつつある


わかってる

これは八つ当たりだ


自由気ままなアオに

いつでも素でいられるアオに

私は少し嫉妬している


だから口調がきつくなってしまう


大丈夫かな…?

ちょっとだけ気になって横目でアオを見ると

しょんぼりしているのか

下を向いている


「ア、アオ…?」


「じゃあ、仕方ないか…」


お、

やっと出ていく気になったか

私はそうほっとした


決して寂しいなんて思っていない

これっぽっちもそんな感情はない


だけどその時

まさかの一言がアオの口から飛び出した


「なら、俺も行かんー」


そう言って畳の上に座り込んだ


「行かない!?」


なんでそうなるのよ

楽しみにしてたんでしょ

甚平まで着てるじゃない

なのに行かないってなんでよ!


「だって俺は美空と行きたかったんやし


俺だけ行ってもどうせ

美空のこと気になるんやし」


う…

アオはサラッとすごいことを言う

ドキッとしてしまう自分が馬鹿らしい


「キヨとノンが待ってるんでしょ?」


「あぁ、キヨもノンも

俺達2人が祭り行かんやったら

ここに来るようになっとるけん

心配せんでも大丈夫」


心配事が増えたんですけど

何勝手に2人を呼んでるの?


「3人とも

花火とか出店とか

楽しみにしてたんでしょ?

行って来なよ」


私のために

皆が祭りに行かないなんて

そんなのおかしいよ


「美空はわかっとらんなー

祭りは友達と行くけん楽しかとよ?


ここで皆でたこ焼きとか綿菓子とか食べよう」


違う!

お願いだから行ってよ!

3人に申し訳なく思うでしょ!


「…ここだったら花火見れないんだよ」


「んー、それは残念やけど…

4人揃った方が楽しいやろ?」


だめだ…



あー!もう!


私は知らぬ間に立ち上がり

アオの腕を掴んでいた


「どうしたと?」


怪訝そうな顔で聞いてくるアオ


わからない!

そんなの私が自分に聞きたいよ!


「ほら、行くよ!

祭り!」


「本当!?」


なんでこんなことになってしまったんだろう


アオの手を引いて家を出る


なんで私がアオを祭りに連れ出したみたいに

なってるんだろう


ただ

こんなふうにアオに満面の笑みを向けられると

私の心はざわつくんだ



「あ!美空だ!

よかったぁ、来てくれたんやね」



たくさんの人が行き来する中

神社の鳥居の前にノンとキヨの姿が見えた

ノンは花柄の浴衣で

キヨは甚平を来ている


2人とも様になっている


「でもアオ、どうやって誘ったと?

うちが誘っても美空

絶対行かんって感じやったとに」


「どうせ、美空が行かんと俺も行かんとか

子どもみたいなこと言ったんやろ」


さすが長年一緒にいるだけある

アオの言動なんて

すぐに読まれてしまうのだろう


「早よ行こう!

今年も賑わっとるやん

何から食べようかなー」


もうアオの頭の中はお祭り一色だ


その言葉をきっかけに

ノンもキヨも祭りに引き込まれていく


「うち、去年はりんご飴食べられんかったけん

今年はリベンジするっちゃん

美空も食べよ」


「うん」


「この祭りやったら

イカ焼きやろ

めっちゃ新鮮なんよ

あと、貝とかも」


「貝とかあるんだ」


いろいろ薦めてくれるノンとキヨに

向かってアオは言った


「全部食べようで!」


本当に子どもだ…


そう思いながらも

たぶん端から見たら

私たち4人とも

子どもみたいにはしゃいでるように

見えるんだろうな……


色とりどりの提灯で照らされた道を

4人で並んで歩く


時折聞こえる太鼓の音が

祭りの雰囲気を更に盛り上げていく



そして私は今

何故か神社から少し離れた海にいた


遠くの方で祭りの音が聞こえるくらいで

この辺りには

私たち4人以外には人がいない


どこに行くの?と聞いても

最高の場所

としかアオは答えてくれなかった


「こっちこっち

暗いけん気をつけんばよ」


「え、なに?」


3人につられて

海の上にかかっている板の橋を歩いていく


「なら、うちとキヨ

アオと美空でいいね?」


ノンがそう言って2つに分けられた

なんなんだろう

さっぱりわからない


すると

アオはしゃがみ

ボートの結んであるロープを外した


「え…なにやって…」


キヨの方を見ると

同じく、もう1つのボートのロープを外していた


「これ、うちの旅館のボートなんよ

はい、美空はアオに乗せてもらいっ」


声を弾ませたノンは

ぽんと私の背中を押した


軽く押されただけだが

私はよたよたと前にバランスを崩す


うわ、うそ

海に飛び込んでしまう!


そう覚悟したその時


「おっと…大丈夫?」


アオに体を支えられ

なんとか橋の上にとどまった


人知れず

私の心臓の鼓動は一気に激しくなった


海に飛び込んでしまうとあせったからか

それとも…


私は深呼吸をして平静を装う


「ゆっくりでよかけん」


アオは片足をボートの上に乗せると

そのまま私の手を掴みサポートして

ボートに乗せてくれた


わ……

すごく揺れる


でも揺れて不安定な感じがするのは乗る瞬間だけで

その揺れがおさまると

海面と一体になったかんじがする


アオがオールを漕ぐと

海面を滑るようにボートは進み出した


さっきまでの祭りの明るさ

賑やかさとは正反対に

わずかな月明かりと静かな波の音だけが訪れる


目の前では

アオの髪が夜風に吹かれている


ずっと見ているのも気まずくなり

海面を覗き込んだ


サーっと目の前を通りすぎていく海面

そしてそこには

ずっと位置を変えずにゆらゆらと

そのままそこにあり続ける月

本当に海の上にあるように錯覚してしまう


触れたくて

ゆっくりと手をのばしてみるも

ボートが進むとその分だけ

月も私から離れていってしまう


なんだか

東京で見てきた月とは別物のような気がする


アオはこんな風景の中で育ってきたのか…

これが当たり前という環境で…


もし

もしも私がこの島で生まれて

育っていたら……?



そんなこと考えたって意味ないよ


私は視線をアオに戻す


「ボート漕ぐの上手いね」


「小学生の時から漕ぎよるけんね

ボートで釣りしたり

深いところまで行って泳いだり」


「へぇー

島の暮らしって感じ」


私とは全く違う生活を送ってきているんだ


「美空はどがんことして遊びよると?」


遊んでた?

ではなく現在のことか…

今の私は東京で特に遊んだりしていない

最近、東京で遊んだ記憶がない


「んー…勉強ばっかりだな

学校行って

家に帰って

課題して

で、また学校に行く


遊ぶって言ったら

買い物とかかな」


「買い物…?

そんなに遊ぶ所がないと?」


東京に絶望したって顔をしてるのが

ちょっと可笑しい


いや、遊べる場所はある

ただ、すぐに行ける場所じゃなかったり

人が多すぎたり


こういう島での遊びは

なかなかできることじゃない


…アオの言う通りかもしれない


「アオにとっては

東京はつまらない場所なのかも」


「ふーん」


アオはオールを漕ぐのを止め

そして空を指差した


ん?


「もうすぐばい」


アオが言い終わった瞬間

ピューという音が聞こえたかと思うと

夜空に大輪を咲かせた


「すごい…」


最初の1発が見事にあがると

次から次に打ち上げられる花火


海の上から見る花火はとても綺麗で

海も島も私たちも

花火の一瞬の光に照されて染まっている


ずっと見ていたいけど

すぐに散ってしまう儚さ

でもまたそれが

良さなのかもしれない


「神社とかやったら人多かけん

毎年こうやって見よるんよ」


花火の音に掻き消されないように

声を張っている


私が大声を出しても

アオには届かないかもと思い

精一杯の笑顔を返した





はぁー……


家に帰り部屋に入った瞬間にどっと押し寄せる罪悪感


私は一体何をしにこの島に来たんだ…

遊びに来たんじゃない

次の模試で点数低かったら…

ヤバイんだってば!


私は怒りをぶつけるように

ひたすら数学の問題を解きまくった


そして罪悪感ともう1つ私の中に芽生えた感情


それは間違いなくアオに対するもので…


私はアオと一緒にいると…

アオの笑顔を見ていると………


ばたりと机の上に倒れこんだ




どうしようもなくツラくなる……。

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