もう1度あの島へ
大学3年生の夏
私は東京にある大学の工学部建築学科の
学生として日々学業に励んでいる
夏になると
思い出すのは高校3年生のあの夏で
それと同時に未だに果たせていない
島に戻るという約束も甦る
写真立てに飾ってある
4人が並んだ写真
この時よりも
少し大人になっていたりするのかな?
ノンは高校を卒業してからは
毎日みっちりと女将修行をしていて
キヨは島の外の大学の医学部に進学し
医者の卵として頑張っている
アオは警察学校を出たあと
Uターンして島に戻り
念願の交番勤務をしている
夢を叶えて頑張っていると聞いたときは
自分のことのように嬉しかった
今日は
大学のゼミで夏休みの課題が出された
あなたの印象に強く残っている建築物を
その目で見てきなさい、と
そして写真を撮るなり
スケッチするなりして来なさい、と
わざわざ海外に行くのは難しいけど
日本にも世界的に評価を受けている
建築物はたくさんある
そのどれかを見てこようかな…?
でも、やっぱり
印象深い建築物といえば…
「あの教会だよね」
久しぶりにあの島に行ってみようか
私が建築を学びたいと思ったきっかけの場所があり
時があり
人がいるあの島に
私は引き出しから便箋を取り出すと
ペンを走らせた
「アオー!キヨが今日帰ってくるってよー!」
「うん、迎え行こっか!」
ノンがわざわざ交番まで呼びに来てくれて
2人で一緒に港まで行く
「あ!来た!」
船から降りてきたのは
前よりもあか抜けたキヨだった
やっぱかっこよくなってる
「キヨー!おかえり!」
「ただいま」
久しぶりの3人
あー、ここに美空がおったら
言うこと無しやけど
東京で頑張っとるみたいやし
応援するって決めたし…
「本当にキヨが警察官になっとる!
立派な島の役に立つ男やね
俺も負けてられん」
「キヨだって医者になるんやろ?
すごいやん」
3人で夢を語り合い
気がつけば朝を迎えていた
今日も自転車で島をパトロールして回る
今日も特に問題なく
島は平和に回っている
「アオー!たいへーん!」
また今日もノンがやって来た
今日は慌てているらしく
着物のままで走っている
「どうしたと?」
「手紙見てない?
美空から手紙が届いとって…
これ」
手渡されたのは海の描かれた綺麗な封筒
中身を出して目を通してみる
そこには美空の文字で
最近の出来事が書かれてある
もうすぐ夏休みだとか
課題が出されたとか
…だから、夏休みを利用して
数日間だけ
島に行こうと思ってるんだ
到着は今日の朝の便だよ
驚いた?
あの頃は散々振り回されたから
今回は私が振り回してやろうと思って
というわけで
この手紙を読んでいる頃には
私は島のどこかにいるはずです
探してみてね
「美空が島におる…?」
「そう、でも
どこにおるかわからん」
俺は自分を落ち着かせながら
もう1度手紙を読んだ
印象に残る建築物を見るために来た
…ってことは、あそこしかない
「ちょっと、行ってくる!」
いてもたってもいられず
自転車に乗ると
一気にスピードをあげ
風を切って走る
高校3年生の頃のあの夏を思い出す
美空を乗っけて走ったあの自分と
今の自分とが重なる気がする
途中まで行くと自転車を降りて
次は階段をかけ上がる
もうすぐ着く
ここに間違いないはずだ!
島の高台に立つ美しい教会
近くまで行くと
扉の前に誰かが1人立っているのが見える
その人は髪をなびかせながら
目の前に立つ教会を見上げている
すぐにわかる
あれが誰なのか
会いたかった…
夢を諦めずに頑張れたのは
彼女のお陰
ここまでこられたのは
彼女が俺の心を支えてくれたから
足音が聞こえたのか
その人はゆっくりと振り返った
すると驚いた表情から
嬉しい表情へと変わっていく
俺もみるみる笑顔になっていく
言葉じゃ言い表すことの出来ないほどの思いが
今にも溢れ出しそうだ
だから
それを全部詰め込んで…
「美空、おかえり」
自分でも驚くくらいの
優しい声でそう言った
美空はとびっきりの笑顔になると
俺が待ちに待った言葉を言ってくれた
「ただいま、アオ」
その声を聞いたら
今までの寂しさなんかも
まるで無かったかのように吹き飛ぶ
美空のその一言で
俺の心は一気に満たされたんだ
あの頃と同じ
強い日差しと暖かい風が
今日も2人を包み込んでいく




