楽しい日々は思い出に
もはやアオが部屋に勝手にあがりこむことに
何の抵抗も感じなくなってしまっている
これは女子としてどうなんだろうか…?
だけど
アオと2人になると
どうしても意識してしまう
でも、今は
ドキドキしている場合じゃない
ちゃんとアオに伝えなきゃ
明日、東京に戻ることを
「ね、アオ……」
「ん?」
う……
言いづらい
というか、言いたくない
寂しさが込み上げてくる
でも、言わなきゃ
「あのね…」
バン
パン、パーンッ!
ふすまが開くと同時に
空気が弾けるような音がした
それがクラッカーの音だと気づいた時には
カラフルなテープが
私の頭にかかってきた
「な、なに!?」
音を鳴らしたのはアオと
急に入ってきたキヨとノン
「ハッピーバースデー!」
…そうだった
私、今日誕生日だったんだ
東京に戻ることで頭がいっぱいで
全く気づかなかった
「じゃーん!」
ノンがそう言うと
両手に持ったケーキを披露した
フルーツがたくさんのったケーキ
18の数字の形のろうそくと
チョコレートのプレートには
“ミクたんじょうびおめでとう”
と書かれてある
「これ、朝から3人で作ったんよ」
朝から?
あ、だから
誰を訪ねてもいないと言われたんだ…
バースデーソングを歌ってくれて
フッとろうそくの火を消す
「ありがと」
感動でうるうるしている
私は今日
最高の仲間と
最高の誕生日を迎えられた
「じゃあ、18歳になった美空から
一言どうぞ!」
急にノンからふられて
何を言おうかと考える
「えっと…」
伝えたいことがありすぎて
何から言えば良いのかわからない
今の気持ちをそのまま
皆に伝えられる術があればいいのに
それでも
私はなんとか自分の気持ちを伝えようと思った
「本当に嬉しい
ありがとう
こんな楽しくて明るい時間は
絶対に忘れない
てか、忘れられないよ
明日、東京に戻るけど
この島での思い出を
大切に頑張るから」
「え、待って
明日戻るって嘘やろ?」
キヨがすぐに聞いてくる
「ごめん
急に
戻らなきゃいけなくなって…」
それ以上は何も言えなかった
「そんな…」
ノンはすごく悲しんでくれている
アオは…
何も言わずに下を向いている
重い沈黙が部屋を包む
そんなどうしようもなく重たい空気を
破ってくれるのはやっぱり彼で…
「よし!
寂しいけど今日は美空の誕生日なんよ!
盛り上がろ
かんぱーい!」
そう言ってアオは
コップを高く持ち上げた
それがおかしくて
でも嬉しくて
「ふふっ、かんぱーい」
私も真似をして
コップを持ち上げる
それから暫くの間
盛り上がっているこの部屋の時計の長針は
何度12を通過しただろう
楽しい時間はあっという間に
流れていく
このまま時間を止めておきたい
眠ってしまうのがもったいない
次に目が覚めたら
もう島を出なきゃならない
やっぱり寂しすぎる
でも押し寄せる睡魔には
皆勝てなくて
そのまま4人は楽しい時間と共に眠りについた
……。
朝だ
ついに朝が来てしまった…
こんなにも切ない目覚めは初めてだ
起き上がって隣を見るとノンが寝ていて
その向こうにキヨが寝ている
でも、あれ?
どこにもアオがいない
もう帰ったんだろうか?
1階にも行ってみたけど
やはりいなかった
朝9時
荷物をスーツケースに詰め込んで
準備をする
勉強したり遊んだりしたこの部屋も
この食卓も玄関も
全てを目に焼き付けておきたい
家の外に出ると
おじいちゃんのタクシーが停まっていて
トランクに荷物をのせる
「ちょっと、キヨ
アオはどこ行ったんよ?」
「俺に言われても知らんよ」
アオは未だに姿を見せずにいるため
ノンがイライラし始めた
「泣きじゃくっとるんかもしれんばい」
「アオが?
昨日の夜は1番元気やったやん」
「そう見えたけど
1番ショックを受けとるんは
アオかもしれんやろ?」
「あぁ…そうかも」
そんなキヨとノンの会話は
私の胸を強く締め付けた
その時
「みーくー!」
自転車に乗ったアオがこっちに向かってきて
キキーッと目の前で止まった
「やっと来た
今までどこ行っとったんよ!」
「ちょ、ちょっと自転車取りに…」
ノンに責め立てられ
アオは助けを求めるように
キョロキョロと周りを見ている
そんなアオと
パッと目が合うと
「港まで送るけん、乗って!」
「え?」
泣きじゃくったりはしていなさそうだな…
というか
本当にいつも通り
滅茶苦茶すぎて
なんだか拍子抜けするよ
「せっかくやけん乗ったらよか
荷物はタクシーで運んどくけん」
おばあちゃんにそう言われ
アオを見る
するとそこには
私の弱い、あの笑顔があった
「うん…」
自転車の後ろに乗ると
今回はゆっくりと進みだした
暖かい風と強い日差しが2人を包み込む
あの日、アオに半ば強引に
自転車に乗せられたことを思い出す
懐かしいような
でもまるで昨日の出来事のような
そんな不思議な感じがする
進んで行くと
アオと初めて会った海が見えてきた
ここの海は
あの日と変わらず
今日も穏やかで
またチビッ子が遊んでいる
チリンチリンとアオがベルを鳴らすと
「おーい!」
とかわいい声が飛んでくる
私はアオの背中から片手を離すと
チビッ子達に向かって
大きく手を振った
ヒューヒューという声も聞こえるが
それは
からかわれているというよりも
なんだか可愛いと思ってしまう
「教会、見えてきたばい」
顔をあげると今日も美しく建っている教会がある
いつ見ても
どこから見ても
あの建物は何かを感じさせる
そして
思い出も甦ってくる
あの時アオに酷いことを言って
私も勝手に傷ついて
でもそのお陰で
アオとも正面から向き合えたし
自分とも向き合えた
大切な場所だ
教会の近くに見えてきたのは図書館
アオとギクシャクした後にキヨと会った場所
しっかりしたキヨには
私がアオをどう思っているのかなど
見透かされていた
そして次に見えてきたのは
夏祭りが行われた神社
この夏祭りをきっかけに
無茶苦茶なのは
アオだけではなくノンもだ
ということに気が付いた
あ…
あの下り坂
またあんな風に下るんだろうかと
気を引き閉めたが…
あの日絶叫しながら下った坂道を
今日はブレーキを書けなかったら
ゆっくりと下っていく
下りきると
そこにはアオのお気に入りの海がある
アオのお気に入りは
いつしか私のお気に入りにもなっていた
この砂浜で語り合った夢は
絶対に叶えてみせる
人を感動させる
建築物を造ってみせる!
「美空とはずっと前から
友達やった気がする
この夏だけでこんなに仲良くなったって思えんよ」
アオもこの夏を振り返ったりしているのだろうか
確かに
ずっとずっと友達だった気がする
「私もだよ
これからも
友達でいてくれる?」
「当たり前やん!
あ、でも」
ギリギリ聞こえる声
今にも潮風の音で声が掻き消されそうだ
「なにー?」
「俺さ
美空のこと……ー」
アオが何か言ってるはずなんだけど
ゴーという風の音しか聞こえない
「えー?なに?」
「いや、なんでもない!」
「何よそれー」
軽くパシンと
アオの背中を叩く
そしたら何かおかしくなって
2人して笑い合う
あー、こういう瞬間が大好きだな
だけどもう
こうやって笑い合うこともできなくなるのか
じん、と
胸の奥が熱くなる
そしてチクチクする
今気が付いた
最初は私がアオのことを毒してしまうって
思ってたけどそうじゃなかった
アオという名のピュアな針に刺されて
純粋に毒されていたのは
私の方だった
離れたくない
このままでいたい
きっと私は
アオに恋をしている
港に到着すると
すでに船が来ていて
私と同じようにスーツケースを持った人達が
乗り込んでいる
「ね、ね!
最後にお別れのキスとかしないの?」
「ちょ、兄ちゃん!
変なこと言わんで」
「大丈夫よ、アオ
私がちゃんと見張っとくから」
そこにいたのはソラさんと優子さん
アオをからかっては
楽しそうに笑っているソラさんを
優子さんはきつく睨み付けている
2人の向こうには
おじちゃんとおばあちゃん
そしてキヨとノンもいた
「おじいちゃん、おばあちゃん
ありがとう
また来るからね
元気でね」
「美空も
元気で頑張りーよ」
「またいつでも来たらよか
待っとるけん」
「うん!」
2人はいつも優しくて温かい
「美空も島出ていってしまうし
あと半年したら
キヨもアオも島出ていくしー
寂しいやんかー」
横からグズッたように
ノンが言い出した
でも、ノンのその言葉は
ずっと一緒にいたキヨとアオの中に
私を入れてくれているみたいで
すごく嬉しい
「また4人でこの島に集まろう」
キヨもさらっと
嬉しいことを言ってくれる
「美空…はい、これ」
そう言ってソラさんから解放されたアオに
手渡されたのは1枚の写真
見てみると
初めてあの海で4人で遊んだときに
撮ったものだった
皆に良い笑顔をしてる
「ありがとう
大事にする」
「うん
それじゃあ、
……行ってらっしゃい」
あ…
きゅうっと胸が縮まる
アオは何気なく言ったのだろうか…?
私はその言葉に涙腺が緩む
行ってらっしゃいというたった一言に
私はいつでもここに帰ってこられる
という安心感を感じた
東京に帰るのではなく
東京に行くんだ
また、この島に帰ってくるために
「…行ってきます!」
乗り込んだ船の外に出て
皆に大きく手を振る
汽笛が海の上に鳴り響く
悲しいけど
寂しいけど
きっと私は大丈夫
アオや皆がいなくても
心の中にしっかり刻み込んである
この夏の日々が…。
遠ざかる島の上には教会が見える
大丈夫
きっと私は頑張れる
「あーあ、行っちゃったね
結局アオは何も伝えてないでしょ?」
「あんたが邪魔するからでしょ!」
「邪魔なんかしてないし
可愛がってただけだし」
「そんなこと言って
本当はちょっとだけ
美空ちゃんに惹かれてたんじゃないのー?」
「は?ちげーし!」
小さくなる船を見ながら
向こうで優子姉ちゃんと
兄ちゃんの
そんな会話が聞こえてくる
兄ちゃんが本当に美空に惹かれてたら…?
いやいや、まさか…
寂しさに浸っていたのに
急に焦りのようなものが沸き上がる
「アオ、美空には気持ち伝えんかったと?」
向こうでの変な会話に乗じて
キヨとノンが話を振ってくる
気持ちを伝えた?
まぁ…
さっき自転車をこぎながら
好きだよと言った
いや、呟いた?
でも美空には聞こえず
風に掻き消された
「伝えてないけど
届いとるかなと思って」
「届くか!」
…。
ノンにグサリとくる一言を言われ
もう、俺は撃沈
「…だよなー」
次、美空に会った時には
自分の気持ちを伝えられるだろうか
あー
今、行ってらっしゃいと言ったばっかなのに
もう美空に会いたい




