6話 加速
空を飛ぶのは好きだ。この狭い棺の様な小型飛空船の中でも、そこがどれだけ居住性が悪く、不快な場所だったとしても、それでも空を飛ぶことが好きなのだ。
空をこの小型飛空船、ロンブライナで飛ぶ。高度はまだ上に雲が見える程度。山地が続くため、かなり地面すれすれであった。
いるかもしれない空賊を誘き出すためである。地上付近にいればこちらの威嚇に気が付くだろうし、上空にいればこちらより有利な位置にいるため襲ってくるかもしれない。そう言う期待があっての飛行であったが………。
「理屈は分かるが、付いていくのが精一杯なこっちの身にもなれよな………!」
空を飛ぶのは好きだ。だが、自由に飛べる方がもっと良い。しかしロンブライナはその自由を俺から奪ってしまう。
訓練を続けるうちに並程度には動かせる様にはなった。ただ、あくまで並だ。上等とは言い難い。
地面近くでの飛行はそれだけ障害物や気流の変化が多く、難易度が高くなってしまう。そんな状態でロンブライナというじゃじゃ馬を乗りこなすのは、まだまだ腕が足りないのが実際だった。
「しっかり後方見てくれよー。置いてかれるなんてなぁごめんだぞー」
前方を飛行する二つの飛空船を見つめながら、祈るような気持ちになる。空を飛ぶ船同士が意思疎通をできぬ以上、お互い、それぞれの位置を確認する他無く、こちらが十全に動けぬのであれば、向こう側の動きに期待したくなってしまう。
(一番の心配は、それぞれ分かれた後に空賊に遭遇することか?)
空戦に限らず、戦いの中でもっとも優劣を決めるのは数であろう。空賊討伐において、少数編成で空賊に挑むことはままあるものの、それは訓練による腕と飛空船自体の性能差。さらに補給や休息環境の良さなどにおいて討伐側が上回るからこそできるのである。
この空域にいるかもしれない空賊相手がどれほどの規模でどれだけの装備をしているかは分からない。ただ、ロンブライナの操縦に手古摺る俺にとっては、せめて数の利を制しておきたいところであった。
「………位置的にはそろそろか」
アニーサ艦長が指定した場所は、飛行速度と経過時間から考えてそろそろであろう。確信はしているものの、敵が本当に現れるのかとここまで来れば思う様になる。
これは疑念とは違う感情だろう。どこまでも続く空と大地を眺めていると、空戦だのなんだの、血生臭いものと不釣り合いに思えてくるのだ。
(けど、世の中そんな綺麗じゃあ無いよな。ほらみろ!)
突如上空から、俺達3つの小型飛空船の前に、何かが落ちて来た。それが俺達より高い高度にいた別の小型飛空船である事に気付いたのが第一段階だ。
第二段階はと言えば、明らかに敵対行動を取っているその小型飛空船を敵の船だと確信した事がそれだろう。
そうして、敵の奇襲における第三段階が始まった。
「馬鹿! 気付け! そりゃあ誘いだ!」
俺とビーリーとレイリー。この三人の中で、まずレイリーが釣られた。上空から現れた敵飛空船に対して、すぐさまに撃退行動を取ったのだ。
勿論、その動きは悪く無い。悪くは無いのであるが、思考の切り替えを忘れている。
現れた敵は一つだけなのだ。3ついるこちらに対して一つ。そんな馬鹿な話は無い。そんな生易しい人間が空賊などをしている訳が無い。
奇襲を仕掛けるなら確実に、さらに自らが有利になる様に。そう行動するのが常道で、その常道を外れる相手では無い。
案の定、次は下方からまた違う小型飛空船がこちらへとやってくる。それも3つ。既に周囲へ意識を巡らせていたからこそ気が付けた事だ。最初に現れた敵を追うレイリーは気付いていないかもしれない。
恐らくは、俺達全員をそうやって後からやってくる味方に食わせるつもりだったのだろう。ならば、その第二の奇襲に気が付けた俺達は敵の攻撃を乗り切ったのか?
(はっ、そういう油断はしないってんだよ!)
まだだ。まだこちらが不利な状況だ。俺はロンブライナを動かし、下方からくる敵にその鼻先を向けた。
これでこちらは第二の奇襲に気付いているぞ。という意思を示すことができるはずだ。そうして敵は単純にこちらの隙を突く事は諦めるだろう。
そして次の手に出るのだ。レイリーを誘い出した敵小型飛空船はさらに逃げる様に。レイリーはレイリーでそれを追う。
(で、新たに現れた3つは、俺とビーリー班長を引き離すつもりか!)
丁度、俺と班長の間に敵小型飛空船は位置取ろうとしている。敵は知っているのだ。チームワークある動きこそ訓練された空戦の真骨頂であり、それを崩せるというのなら、それだけで戦果足り得るのだと。
(こっちの有利を一つ剥がされた!)
国から正式に訓練を受けた俺達にとって、力を合わせるという戦い方は空賊などより勝る。空賊の大半は自らの実利のために戦っており、そこに他者を気遣うという感情が入り難いからだ。
だからこそ、俺達の協力を乱し、個別で戦うことを選んだ。
「手慣れてやがるな、おい!」
相手のやり口からして、自らの立場とこちらの能力をきっちりと判断できる相手だと見た。なんとかビーリーとだけでもチームワークを乱すまいとするも、突如、ビーリーがこちらから離れる動きをした。現れた敵3つを挑発する様に旋回しながらだ。
「敵数が多くても一人で十分ってことか? そうして俺は………そういうことか!」
半分の敵は俺に任せろ。という行動ではあるまい。まだ手が空いている俺に、一人敵を追って空域から離れようとするレイリーへのフォローを期待しているのだ。
(ああ、そうだよな! 仲間が初任務で撃墜なんてのは、目覚めが悪いんだったよな!)
俺がこの任務でレイリーのケツを持とうと考えたのと同じく、班長のビーリーも実戦慣れしていないレイリーを心配していたのだろう。考えは同じだ。俺はロンブライナをレイリーの飛空船が向かった方へと旋回させ、そこから速度を上昇させていく。
「ぐっ………良い反応だよな、こいつはっ」
ロンブライナは推進する力の発揮方法が他の飛空船とは違う。その加速度は他よりも早く、肉体を苛むものの、今、この状況においては歓迎すべき痛みであった。
(よし、追い付ける!)
敵一つとレイリー。どちらもロンブライナより加速力は低い。ならば敵とレイリーどちらかが撃墜されるより前に、その空戦に参加できるだろう。
レイリーの飛空船と敵の飛空船。敵の飛空船は他との識別のためか赤い塗料がまだらに塗られているため、赤船と内心で呼ぶことにする。
赤船はレイリーの他に、俺が追って来ていることに気が付いたのだろう。一気に反転して、迎撃態勢を取った。逃げるつもりは無いらしい。
船を反転させるということは、その動きだけ隙ができる。ロンブライナはまだその攻撃射程圏内に辿り着いていないが、レイリーは撃てる距離だ。
レイリーの飛空船から幾つか小さな点の様な物が飛び出すのを見た。飛空船に仕込まれた、魔法により射出される鉄片だろう。
良く狙えば撃墜とまでは行かなくても、赤船にダメージを与えることができる。そのはずだったが、どうやら赤船に被弾した様子は無い。
「あの野郎、ビビりやがったな!」
聞こえはしないだろうがレイリーに毒づく。鉄片の射出タイミングが些か遅かった。その遅れ分で赤船は鉄片を避けたのだ。
やはりレイリーは実戦慣れしていない。人が乗った飛空船を攻撃するという行動に躊躇が生まれている。
そういう躊躇をどうにかするためには慣れる他無いのであるが、それが慣れるのは少なくとも空戦が終わってから後だろう。
酷な表現になるが、今のレイリーは上手く空を飛ぶだけの足手まといである。だから俺があの赤船を相手取る。
「こっちだ!」
俺は鉄片を赤船の前方へ撃った。相対距離を考えて、それくらいの場所に撃たなければ絶対に当たらない。
ただし撃ったとしても当たる可能性は低いだろう。鉄片射出は距離があればあるほどにブレが生まれ、命中率が低くなるし、相手に対処する時間を与える。
ただし牽制にはなるはずだ。そうして、俺の方は躊躇なく撃てるのだと相手に意思を示すこともできるだろう。
問い掛けも返答もできぬ空での意思疎通は、船の動きと鉄片の射出のみで行われる。今、俺は赤船に対して、経験不足を相手にしていると、その間に俺がやっちまうぞという言葉を鉄片と共に投げ掛けた。
この行動に対して赤船はどう答えるか。
「よっし! 食い付いた!」
レイリーの船よりも手練れに見えたのだろう。俺の方に向かって赤船が迫る。両者共に目を付き合せての接敵。双方ぶつかりそうなその瞬間に軌道をズラし、擦れ合いそうな二つの飛空船が交差する。
交差はただ通り過ぎるだけで終わり、船を旋回させると、敵もまた旋回を行っていた。お互いが再び正面を向きあい接敵。交差。旋回。それを何度か繰り返し続ける。
その途中で鉄片も飛び交っている。極限まで接敵し、鉄片を撃ち込み、それを避け合うという作業を含めて細密な操縦を続けていた。
(頭がちりちりしてきやがる………!)
不思議なことに、このギリギリの戦いであるが、頭の回転は根を上げない。これこそが死を間近に置いた時の人間だ。ただ生にしがみつくために、限界を超えた思考を可能とする。
ただしそれは何時までも続かない。限界を超えるというのは、行き止まりが近いということだ。いや、行き止まりこそが限界であり、その先にあるのは崖っぷちくらいだろう。
その崖をさらに飛び越えてしまえば、後は落ちるだけ。集中力というのは長く続かない。その続かない集中力を競うのがこの空戦であった。
「限界は…………こっちが近いだろうな」
額から流れる汗も拭わず、飛空船を旋回させながら呟く。赤船と自分の技量は同等くらいだろうと当たりを付ける。そして船の性能はこちらが上。国が開発した最新のものである。
だが、そうであってもこちらが先に音を上げてしまう。相手の動きを見れば分かるのだ。相手は性能で劣る飛空船を、経験で補っている様に見える。船を操る経験という意味でだが、もっと正確に言うのなら、あの型の船を操縦する技能である。
使い慣れた道具というのは、その道具を使う際に効率的な使い方ができるということであろう。敵は赤船を操る際に、こちらより疲労が少なく動かすことができるのだ。
この疲れるばかりの空戦を続けて行けば、向こうにばかり利が生まれる。何がしか変化を起こす必要があるのだ。こちらが有利になる変化を。だいいち、鉄片を無駄撃ちし続けるだけでも問題なのだ。攻撃手段が無くなればそれで終わりだ。
(迂闊に動けばそれでおじゃんってのもあるんだが………)
変化を望むが、自分からは何かアクションを起こせないでいる。旋回と接近と撃ち合いを続けるだけの空戦の中で、それだけが精一杯の自分がいる。ここでさらに作業を増やせば、それだけ他の要素の精度が落ちる。その落ちた精度で赤船を相手にできるのが。それは甚だ疑問であった。
ただし、幸運と言うのならそれはこちらにあったらしい。
「レイリー! 良くやった!」
一度赤船との空戦から離脱していたレイリーの飛空船が、ロンブライナと赤船が一旦距離を置いたところを見計らい、その間に鉄片を放ったのだ。
いくら慣れぬ空戦とは言え、レイリーも訓練を受けた身。敵へ撃つことに躊躇が生まれるなら、撃たない形で俺の援護を狙ったらしい。
軌道の中に現れた鉄片と言う異物により、ロンブライナと赤船は大きくその動きを変化させる必要性が出て来た。
それが重要だ。変化を望むのは俺の方であるのだ。赤船はさきほどのままでいれば勝ちの目があったが、それが一旦潰れた。それを復活させようと足掻くだろうが、そうはさせるものか。
(俺はまだお前を上手く使えないけど、お前の真価くらいは見せることができるつもりだぜ!)
自分自身が乗るロンブライナにそう言い聞かせ、ロンブライナの長所を引き出そうとする。こいつの長所は高速域での小回りの良さだ。最高速で飛ぶその瞬間において、他の船よりもっと活発に動くことができる。
それを発揮させるため、あえて、そう、あえて、敵に背を向けた。発生した変化に対して上手く対応できず、結果、敵に背後を見せてしまった風に船を動かしたのだ。
(よし! 引っ掛かった!)
敵の背後を取る。それは空戦におけるある種の有利だ。敵は攻撃できず、一方的に攻めることができるその状況。飛びつけるものなら飛びつくものだろう。赤船にしてもそうだった。
こちらの背後を取ることができる。そのチャンスを逃すことができない。空戦に慣れているからこその性であり、俺の狙いでもあった。
背後に付かれるその瞬間に、フライト鉱石からの推進力を最大にして空を駆ける。そしてそれを追ってくる赤船。
互いが最高速に至る中、船としての性能はこちらが上だ。ここでの時間は俺が有利になる。赤船よりロンブライナは速いのだから、距離は開く一方なのだ。
だから赤船は焦る。せっかく背後を取ったのだから、このタイミングを逃してはならない。経験不足だろうとも、同じ空域にもう一つ敵がいることも焦りの原因だったのだろう。
確実とは言い難い位置取りにおいて、赤船は鉄片を射出した。正確にはその素振りを見せた。
その反動は隙という形で現れる。普通の空戦ならば無視しても良いくらいの隙であるが、ロンブライナという飛空船はその隙を狙える性能を十二分に持っていたのだ。
赤船が鉄片を射出する瞬間、俺はロンブライナの軌道を下側へと向けた。斜め下。下。さらに翻り今度は上へ。
回転する視界の中でも、ロンブライナはその船体を維持し、尚且つ推進力を制御仕切った。
(後は俺が耐えるだけってか!)
口から胃の内容物が出そうな感覚と、体があちこちに押し付けられる圧迫感。それに襲われながらも、俺はロンブライナの性能を引き出そうとし続けた。
回転する船体は、赤船の周囲を縦にぐるりと回り、正面に赤船を捉える頃には、赤船の斜め上後方に位置取ることに成功していた。
「ははっ、まるで魔法みたいじゃねぇか」
驚く俺であるが、きっと敵はもっとだろう。あの高速域において、まさかこの様な動きができるとは、いったい誰が予想していただろうか。
「エイディスなら分かってたかもな!」
ロンブライナの性能を良く知る弟を頭に思い浮かべながら、俺は鉄片を射出する引き金を引いた。
弾き出される鉄片と、それがぶち当たり、船体とその飛行バランスを崩していく赤船。それらを視界に収めながら、なんとか勝利できたことにホッと溜息を吐いた。
まだ敵はいるかもしれないので、これは油断になるのだろうが、それでも、こうやってどこかで気を抜かねば自滅する。空戦とはまっこと厄介な状態であった。
「それにしても、大した船だよ。こいつは」
赤船との戦いにおいて、追い詰められた原因がロンブライナであるならば、そこから脱し、逆転する様に赤船を撃墜できたのもロンブライナの性能のおかげである。
危険も勝利も運び込むこの船を、操れる操縦士になれるだろうかとぼんやり思いながら、俺は次の戦場へと向かった。
アニーサ艦長から指示された場所で行われた戦闘。そこで遭遇した敵は4つである。そのうち一つを俺が撃墜したわけであるが、残りの3つ。それもまた、俺達の班長であるビーリーに撃墜されていた。
赤船に勝利して、ビーリーが戦う空域へ戻る頃、その最後の1つを撃墜する場面を俺は見る事が出来た。そう。俺が一つを撃墜する間にビーリーは二つの飛空船を落としていたのである。
いったいどういう方法で? そんな疑問に対してビーリーが行動で示したのは、教科書通りという回答だった。
彼が操る飛空船は、正に教科書通りの動きなのだ。敵に後ろへ付かれたら、船体を小まめに揺らす。相手より上に位置取れば下降する際の速度を利用して接敵すべし。そういうのは飛空船を知るものならば誰でも知っている。むしろ経験者はそれらを知った上で、邪道とも言える方法で船を動かし、相手の虚を突くのである。
しかしビーリーはそうしない。邪道ではなく正道の戦い方をする。敵にしてみれば、むしろ狙いやすい。良く知った動きで戦ってくれるのだから嵌めやすい。そのはずなのだが、どうしてだかそれができない。
何故か? ビーリーの動きが正道であるからだ。正道を嵌める邪道は、正道を使う者に対して技量で勝る部分があるからこそできるのだ。本当の意味で技量ある相手には立ち行かない。
ビーリーの操縦技能は全般に置いて高かった。旋回、攻撃、加速。どの動きにおいてもそれらが高レベルで存在している。敵はそのどれもにおいてもビーリーより劣っているのだ。彼は邪道を使えないのではない。正道こそが彼にとってもっとも強力な戦い方だからこそ、そういう戦い方をするのである。
「紳士の空戦という奴だよ。何事にも勝れば、妙な小細工など必要ない」
ビーリー班長の自信あふれる声が、ペリカヌの小型飛空船格納庫に響く。空賊との戦いが終わった俺達は、ヒドランデに帰還した後、現在この場所にて、艦長の呼び出しを待っていた。
一つ空戦を行った小型飛空船を整備してもらうためでもあり、また、空戦についての反省会と言った意味もある。
「ある意味では目指すべき到達点ってところでしょうね。正直、ああ動かしたいって思える操縦でしたよ」
俺はビーリーの空戦を見て、素直に彼を尊敬することにした。彼の力は明らかに俺を上回っており、彼とチームを組めるというのは自信や安心に繋がるからだ。
「うむ。努力は惜しまん様にすべきだ。だが、何もかもを真似はすべきでないだろうな。技量が完成するまでは時間が掛かる。だが社会や空戦はその時間だけ待ってはくれんから、不完全な操縦技術で騙し騙し動かすしかないだろう」
不完全な操縦技術という単語は、俺や他を貶めることではあるまい。完全な操縦技術など、ビーリーですら会得していないのだ。誰も彼もが正解と言えない操縦技術を使い、空で戦う。ならばやはり邪道は使える技術でもあるのだ。ビーリーが正道のみで戦うと言っても、邪道を捨てたわけではあるまい。使わないならそれに越したことは無い。という意味でしか無いのである。
「長所を伸ばせば、それを活路に戦えるって部分もありますからね。欠点を埋めるのも重要ですが、自分の才覚を見据えて癖を持たせるのも有りっちゃあ有りだ」
「というか、空戦における強者となるなら、そちらの方が近道だよ。私の様な歳くらいで、漸く私の様な戦い方できるというだけでな。だから………何もかもが出来ないからと言って、気落ちするべきではないよ」
と、ビーリーはこの反省会に一向に参加しないレイリーに声を掛けた。レイリーはまったく言葉を発しないが、それでもこの場にいる。
顔をやや下に向け、口をきつく結び、怒りとも悲しみとも言えない目をしながらすぐ近くに立っているのだ。反省という意味では、もっともその言葉が似合う姿ではある。
今回の反省会の主題はビーリーの技量では無く、彼の空戦に関するものであった。
「なあ、レイリー。この際だから聞いておくが、実際に敵の乗った飛空船を相手にしたのは、これが初めてか?」
いつまでも黙っているレイリーに対して、いっそ聞き難い事を聞いてみることにした。聞かれたレイリーの方はと言えば、動揺を隠す素振りすらなく、下げていた頭を上げて、こちらを見る。
「そ、それは………」
「別に初めてだから悪いってことじゃあない。誰だって初めてはある。俺だって、最初の空戦は酷いもんだったさ。別に今回の開拓計画では、空戦経験者が集められたわけじゃあないしな。この場合の問題はと言えばだ―――
「空戦経験が無いことを伝えなかったことだよ。レイリー君」
俺が口にしようとした言葉を、被せる様に先んじてビーリーが口にした。キツイ言葉になるので、それは班長自らが言うべきだという事なのだろう。
「聞かなかったこちらも不味かったがなぁ………君が経験無しだと知っていれば、それに見合った戦法も取ることができたわけで」
「そういう風に扱われるのが嫌だから………!」
「嫌だからそのまま味方巻き込んでおっ死ぬかね? 終わったものは仕方ないが、プライドというのは実力がついてから持つものだと助言しておくよ」
「………」
ビーリー班長の言葉に対して、それ以上の反論はしない良識はあるらしい。ただ、一度誰かが感情的になれば反省会は終わりだ。後は落ち着くまで距離を置いた方が良い。
「ええっと………艦長はまだかな?」
距離を置きたいのは山々であるが、艦長を待っている身であるので、この場を離れることができない。
結局、この気まずい雰囲気のまま、俺達は30分ほど艦長を待つことになったのである。




