4話 準備
「わたくしの資質云々に関しては、実際にお見せする機会と言うものが、今、この場においてはありませんわね。残念ながら」
デリダウの問い掛けに首を振って答えるアニーサ艦長。迂闊にあれができる。これが優秀だ。などと答えるよりはマシな返答だろうとは思う。
正直なところで言えば、しっかりとその能力があるという回答が一番なのであるが。
「いや然り。実地で見てみるしかないというのは分かる物言いですな。不安が拭えるかどうかは別として」
にこやかに話すデリダウであるが、言葉の内容には棘がある。では感情面はどうなのだろうと考えるが、きっと魔法使いであるので、含みなどでは無く、率直に自分の意見を言ったに過ぎないと睨んでいる。
一方で、デリダウの質問のせいで、やや場の雰囲気が悪くなったのは確かだ。
「能力の証明になるかはわからんがの。艦長は以前、一度だけ飛空開拓計画に参加しておるぞ」
庇うかのようにミード副長が発言する。その発言に対して、艦内の何名かは感心した様な声を上げた。
ここに集まる人間の中で、飛空開拓計画への参加経験者はあまりいないだろう。成功したらその報酬で幾らか楽な人生を歩めるようになるのだし、失敗したら命を失うかそれに近い状況になるだけだ。だから飛空開拓計画への参加者は、その参加経験というものがありまない。
一方で艦長にはそれがあると言うことは、他より秀でている部分があるということ。
(あれ………待てよ?)
と、ちょっと違和感を覚えたので、俺も手を上げて質問することにした。
「ふむ。何かの?」
沈まれだとか、いい加減しろだとか言われる事も無く、ミード副長から質問の許可を貰える。
「前回、飛空開拓計画が何時あったかと思い出してみたのですが、確か7、8年くらい前では無かったでしょうか?」
そうだ。しっかりと覚えている。俺や弟の目的は飛空開拓計画に参加し、外の世界であの巨大飛空船の正体を掴むことであったが、前回のそれに参加できず、今回の計画に参加する様になった訳は、単純に年齢的要件が揃わなかったからだ。
10になったばかりの子どもがおいそれと参加できるほど、生易しい計画ではないのであるから。
「はい。8年前、南方地域を広範囲に調査する開拓計画こそ、わたくしが参加させていただいたものですわね」
「となると………当時はまだ年齢が?」
「12でしたわね。それが何か?」
何かと問われたら、良くそんな年齢で参加できたな。だとか、本当に参加していたのか? などを尋ねたくなるものの、尋ねればさらに場の雰囲気が悪くなってしまう。
俺はあの魔法士ほどに空気が読めないというか読まない性格ではない。とりあえず当たり障りのない言葉で質問を結んでおく。
「随分と………若い頃から経験を積んでいらっしゃったんですね………」
「ええ。それはもう。あれは大変な思い出でしたが、良い経験であったと思いますわ」
これはこれでどうして、この艦長は大物かもしれない。少なくとも、苦労はそれなりにしてきた経緯があると見た。
「それにしてもあなた………あら?」
どうやら向こうも、先日会った相手であることを思い出したらしい。ただ、思い出したからどうと言うことは無く、少し首を傾げただけで話は終わったということになる。
「さて。わたくし自身の紹介はここまでにしておきましょう。実際の力量云々に関しては、実戦訓練等々行わなければ分からぬ部分でございますし。本日はさっそく、それぞれの顔合わせと艦内での自分達の仕事内容について学んでくださいまし」
艦長はそう言って一礼した後、この狭苦しくなっているミーティングルームを出て行ってしまった。
さて、残された俺達はどうすれば良いか。
「ちっ。いけすかねぇ女だったよな。なぁ!」
とりあえず愚痴を言う事にしたらしい男が一人。バーリンだ。しかしそんな事を言ってる場合だろうか? 背後でブラッホが良い笑顔をしながら立っているのだが。
「話と言うのはどんな時でも大切であるな! 何時だってちゃんと耳に入れて置かなければ、聞き逃した話は必ず後から追ってくることになる! ところ君はさっき艦長の話を聞いていたかね? 顔合わせと仕事内容についてだよ」
ブラッホはその巨体に劣らない大きな腕と手で、バーリンの首根っこを掴んだ。実際は服の襟あたりなのだろうが、そう見えたのだ。
「はぁ!? ちょっ、どういうことだよ!」
「それぞれの班の班長には、仕事の説明役をする様にとの命が既に降りていてな! うちの班は私を入れて4名だ。あと2名。探すぞ、バーリンくん!」
と、ブラッホはバーリンを引きずりながら、部屋の中にいる別の部下を探しに向かっていった。
「次は俺か。というか俺の班の班長は誰なんだ?」
班長側もこちらの顔までは知るまい。俺は小型飛空船乗りとして雇われましたとここで叫べばやってきてくれるのだろうか?
「実際、声を上げて自分の立場を明かすしか無いか?」
「それには及ばんさ」
一人の紳士風の男が近づいて来た。30代後半くらいの男で、きっちりと切り揃えた口元の髭がとても似合っている。
「ええっと………もしかしてあなたが?」
「うむ。その通り。小型飛空船班の班長。ビーリー・バンズだ。よろしく頼むよ。うん? どうした?」
ビーリーから手を差し出されるものの、ちょっとそれに戸惑う。
(シェイクハンズは見かけ上仲良くなれる良い方法………)
碌なものじゃあない思いだしをしながら、とりあえず相手の手を握る。
「俺はアーラン・ロッドです。よろしくお願いします。班長」
「ビーリーで良い。班長だと、別に幾らでもいて紛らわしいだろう。それにしても………ロッドか」
「何です?」
俺の姓に何か引っ掛かりがあるらしいビーリー。
「いや………まあ、後で分かるか。さて、我々もメンバーを探すとしようか。と言っても、あと一名だが」
小型飛空船班は3名らしい。このペリカヌに積み込める小型飛空船はそれくらいの数しか無いという証明だろう。
「ところで、何で俺が操縦士だってわかったんです?」
「体格を見ればわかるよ。鍛えているが、殴り合いをする連中ともちょっと違うからな」
ビーリーは髭に触りながら、そのまま残り一名を探しに向かって行った。
小型飛空船班の最後の班員はレイリー・ウォーラと言う銀髪の青年だった。所見では少年か子どもかと思うくらいに小柄かつ幼い顔つきだったのだが、それでも俺より一つ下程度の年齢らしい。
「小柄なのは小型飛空船の操縦士としてはメリットです。そう悪いものではないと思っていただきたい」
「悪かった。悪かったって。子ども扱いは確かに失礼だった」
出会って真っ先にまだ子どもじゃないかと尋ねてしまった俺は、どうやら彼の機嫌を損ねてしまった様子。
同じチームとしては仲が悪いというのは問題が多いだろうから、これからなんとかしなければならない。しかしだ、彼も悪いのである。長い髪を伸ばしているせいで、まるで女に見えてしまう。
一応は後ろで髪を纏めているものの、操縦の邪魔になるのだから切ったら良いのにと思ってしまう。
「うむうむ。話をするネタがさっそくできて結構結構」
「どう見ればそう見えるのでしょうか」
なにやら満足気に頷いているビーリー班長。一方で突っ掛るレイリー。
「仲が良い悪いは何がしかの切っ掛け。出会い始めはどちらでも良い」
大人の度量と言うか、喧嘩なんかには付き合わんぞと言う態度を貫いている。
「…………そうは思えませんが」
「嫌われたもんだなぁ」
頭を掻く。ビーリーの言葉を借りるわけでも無いが、無関心でいられるよりかはマシかと思うことにした。
「ところで、搬入されている小型飛空船ですが、二つしかありませんね。てっきり操縦士の数だけあると思ったんですが」
現在俺達は、ペリカヌ後部にある小型飛空船格納庫へとやってきている。丁度、ブーメラン型の船の曲がり角部分。前方が艦首ならば、その後方が格納庫になっているらしい。若干、格納庫自体もやや弧を描いていた。
「いや、そのはずなのだが。遅いな。一つは遅れると聞いてはいたが」
「積み込まれてないってことですかね? 参ったな。動かすにしても誰か余る」
顔合わせと訓練の時間であるのだから、3人揃った俺達は、時間を無駄にしないために、すぐ訓練へ移るべきなのだろう。しかし誰か1人はそれができないということ。
「それに整備技師の方々もいない様子ですが。ある意味では同じチームですよね?」
レイリーが良く分かっている事を言う。そうだ。小型飛空船操縦士と整備技師は同じチームだ。両者の息が合ってこそ、飛空船は空を飛び、空で戦える。整備技師と顔合わせせずに空など飛べるものか。
「ううん。実を言えばだ、さっきの集まりで整備班の班長の顔が見えなくてな。恐らくは何か用があったのだろうが、全員いないとなると、やはり何かあるのか………」
これは整備班が来るまで待機だろうかと思っていたところ、格納庫へ何名かがやってきた。艦内の移動通路ではなく、小型飛空船入出口からだったが。
「おや、これはもしや………」
入出口から彼らがやってきたのは、そこ以外からでは出し入れできてないものを運んできたからだ。
わざわざ外部から物を運び入れるための台車まで用意されて運ばれるそれは、小型飛空船だった。
上から布が掛けられているが、既にある二つとは違う輪郭であった。ただ、俺の興味はそれを運んでいる人間の方にこそある。
小型飛空船を運んでいる人間の内の一人は、弟、エイディス・ロッドだったのだ。
「エイディス! エイディスじゃないか!」
「あ、兄さん。遅れてごめん! こいつの運び込みに遅れちゃってさー!」
小型飛空船が乗った台車を押しながら、エイディスがこっちに向かって笑っている。
(あいつ、心配させやがって!)
運んでいるのは恐らく整備技師たちなのだろう。そのうちの一人としてエイディスはしっかり計画に参加していたのだ。
「おお。やはり兄弟だったのか」
「え? ビーリーさんはエイディスの奴を知ってたんで?」
「なぁに。新式の小型飛空船を、計画内で試験してくれないかという提案が国の別の機関からあったらしくてね。その見返りとして1名整備技師を派遣が決定した。それが彼という話だ。気になって調べたのだよ」
どうやら計画に参加している班長達は思いの外、計画内の事を事前に聞かされていたらしい。まあ、そうではなくては計画が上手く運ぶまい。
「そういうこと。こいつを計画も計画に参加させたくって、その準備に時間が掛かってたんだよね」
新式小型飛空船をペリカヌ内へと運び込み、布に覆われたそれを手で叩くエイディス。どこか誇らしげな表情をしている。
「参加に手古摺るかもって、それのことだったのか」
「僕個人だと、ほら、参加したいって希望くらいなら簡単に通るからさ」
エイディスの言葉は、自分の腕はどこでだって通用するという自信から来るもの言いだった。実際、彼にはそれだけの技術はあるのだと思うが。
「エイディス君。兄弟揃っての話はとりあえず置いて、関わりある班同士、自己紹介をせんかね?」
小型飛空船を運んできた者達の一人。40代半ば頃だろう外見の小太りの男が口を挟んできた。
人の好さそうな見た目で、小型飛空船を運ぶ労働に疲れてか、汗を拭いている。
「あ、すみませんマギーナ技術長。みなさん、こちらの方が僕ら飛空船の整備技師班長。マギーナ・フォルランスさんです」
エイディスが手で小太りの男を示すと、彼は頷いてから口を開いた。
「紹介があった通り、小型飛空船及びこのペリカヌの技術的問題が発生した時の修理班などの長を務めることとなった、マギーナ・フォルランスだ。よろしく」
出た腹に手を置きながら微笑み、言葉を発するマギーナ技術長。彼が弟の直属の上司となるわけか。
こちらも小型飛空船乗りとして、仲良くなっていて損は無いだろう。
「よろしくお願いします。俺はアーラン・ロッド。そちらのエイディスとは兄弟で、二つ上の兄です」
既にエイディスとは知り合いの様子なのだから、それに合わせる形で自分を印象付けて置く。人間関係は零から始めるより、誰かの紹介から始めた方が上手くやれるものだろうから。
「わ、私はレイリー・ウォーラです」
俺が自己紹介としての返答を急にしたため、レイリーの方も慌てて名を名乗る。他に何を言うべきか咄嗟に思いつかなかったのか、それで終わってしまったが。
「そうして、私が小型飛空船班の班長。ビーリー・バンズだ。マギーナ殿とは久しぶりと言った方が良いかな?」
「ふふふ。お互い狭い世界で生きているからな」
ビーリーとマギーナはお互い笑い合っていた。これは飛空開拓計画内での出会いというより、それよりずっと以前の腐れ縁みたいなものがあるのではと思わせて来る。
と、出会いだけでも色々あったわけであるが、とりあえずの顔合わせは終わった。次に始まるのは訓練と言う名の、出発までの準備である。
全員が集まりそれぞれの役割の訓練。そうして連携などの訓練が開始して三月程の時間が過ぎた。
この月数は、それぞれの人員に対して技術以上に自信を齎してくれる。自信さえあれば、多少の危険は跳ね除けてしまえるのが人間だ。危険とやらはその自信を越えて襲い掛かってくる場合もあるが、その時はただ運が悪かったと言うだけだろう。
「あー、風呂がなんだって?」
「風呂ではありません。シャワー室等は艦内に見当たらないと、そう言っただけです」
何度目かの飛行演習からペリカヌに帰還した俺とレイリー。整備技師達が小型飛空船の調整を行っている間、こうやって世間話をする事が多々あった。
格納庫の端の方で整備技師達の仕事を見つめつつ、なんでもない様なことを話すのである。
これは俺が始めた事だ。飛空開拓計画は長い時間を狭い飛空船内で過ごすことになる。ならば、隣の人間と仲が悪くなるなどもっての外であった。
「あのなぁ。この船は空を飛ぶんだぜ?」
「そんな事は知ってます」
「いーや。わかってない。空を飛ぶってことは軽い方が良いってことだ。体を洗う水にしたって、少ない方が良いに決まってるだろ?」
「つまり………シャワー室は無い………と?」
「なあ、お前がそれなりに腕のある操縦士なのは分かってる。けど、その割にはこういう船のことなんにも知らないのはどういうことだ?」
とまあ、こんな話を暇があるならしている。ちっとも相手の仲が良くなれそうにない会話であるが、これでも無いよりはマシだ。きっとそのはずだ。
「誰だって知らない事は知らないでしょう?」
「ああ。その通りだな。ここでこうやって聞くことで憶えてくれるってのなら万々歳だろうさ」
ただし教える側にとってはうんざりだ。血の繋がりなんてものが無い相手に、何で保護者みたいに接しなければならないのか。いくら外見は子どもと言っても、相手は俺より一つ下なだけだぞ?
「しかし幾ら重荷になると言っても、体を洗わないというのは不潔ですよ。病気も流行ります」
「調査つっても、最初は長期間なわけじゃあないだろうさ。それで慣らして、さらに補給ポイントを見つけてから別の場所へってな具合だろうぜ」
「なるほど」
素直に感心してくれて嬉しい限りだ。この三ヶ月で仲が良いとは言わないまでも、先輩後輩関係みたいな形にはなってくれたと思う。後輩側は、先輩を敬うつもりは無いらしいが。
「兄さん! ちょっと良い?」
「おー、なんだー」
俺が乗る小型飛空船を整備していたエイディスから呼び出しが掛かる。小走りで近寄ると、エイディスは小型飛空船の後方。推進室のある部分を指差した。
「ここ。大分摩耗してるみたいなんだ。前にも言ったけど、ロンブライナは気難しいからね。上手くつかってやらないと、すぐへそを曲げる」
エイディスが言うロンブライナとは、今回、晴れて俺が乗船することになる、新式の小型飛空船の愛称だ。エイディスが付けたものらしい。
この飛空船の何が新しいかと言えば、なんでも推進するための機能が他とは違っているとのこと。
「良い感じに機動性があるのは分かってるけどな、代わりに安定性に欠けるんだよ、そいつ。姿勢制御に余計鉱石の力を使っちまう」
飛空船を浮かび、推進させるのはフライト鉱石の浮遊力のおかげだ。ただしフライト鉱石は狙った推進力を発揮するには、適切な形に加工する必要がある。
さらに厄介なのは、推進力を発揮する形になったフライト鉱石は常に変異を続ける。純度が低くなっていくと言えば良いのか。浮遊力を発生させれば発生させるほど、その力が減衰していくのである。
だから飛空船は定期的な整備技師によるフライト鉱石の調整を必要とする事になる。大型、中型飛空船の場合は整備技師がそのまま乗り込むことで、常に調整を続けることができるが、小型となるとそうも行かない。
「無駄な動きが多くなっちまうんだ。今さらかもしれないけどな、面白い船だけど開拓計画には向かないんじゃあないのか?」
飛空開拓計画の本分は調査だ。過酷な環境で長時間飛び続けられる船こそが適していると言える。
しかしロンブライナはじゃじゃ馬かつ、むしろ何がしかの敵を相手にする場合の船に見えた。
「想定は対空戦を主眼に置いた船ではあるよ。けど航続距離に関しては、理想的飛行状態なら他のよりは長いはずなんだよね」
推進室を指差しつつ、その輪郭をなぞるエイディス。
「確か推進用の機構が二重なんだったか?」
「推進力の元になるフライト鉱石は一つだよ。ただ、それを収束する機構を加えてある。これ、結構ガーヴィッド国の肝いり技術だよ。所謂次世代技術ってやつだ」
「肝いりだか次世代だか言われたって、使い難けりゃ意味無いと思うんだがなぁ」
「まあ、だからこその試験機みたいなのがこいつなんだけどさ、同じ速度で動く船と比べれば、収束用の機構のおかげで浮遊力の減衰が抑えられるってことは分かってよ」
上手くやれば、他の小型飛空戦より有利に動けるかもしれない。そういう狙いもあって、弟はこの船を持ってきたのだろう。
さらに言えば、兄弟のよしみで俺にこのロンブライナは預けられているのだ。上手く使ってやりたいと強く思う。
「分かった。とりあえず出発までには、他の飛空船並には動かせる様にはなっておく。それで良いな?」
「うん。兄さんなら大丈夫だって。保障するよ」
「保障されてもなぁ。腕に関しちゃあ俺次第だろ」
弟の期待が肩に伸し掛かってくる。重くは思うがこれくらい背負うのが兄というものなのかもしれない。
「だからその腕も含めてだって」
「腕ねぇ…………」
どうにもエイディスは、俺の小型飛空船の操縦技術の才覚が、彼の飛空船整備技術の同等くらいにあるのだと思っている部分がある様だ。
他人に劣るとまでは言わないが、だからと言って他の誰よりも。というレベルではないとの自覚はあるので、そこは曖昧に返すしか無くなる。
「あ、そう言えば聞いた? ペリカヌの事前演習。そろそろあるかもだって」
「うん? ああ、そうか。そうだな。そんな時期だ」
事前演習というのは、本番に近い形でペリカヌを動かす演習である。演習と言えば何がしかの訓練に思われるが、何がしかの難度が低い任務を宛がわれ、それを遂行するというものであり、気は抜けない。
飛空開拓計画の試金石と言えるものと言えた。この事前演習が無事に終われば、それは飛空開拓計画出発の準備が整うということでもあるだろう。
「どんなのになるやら。そっちは何か聞いてるか?」
「あくまで噂の段階だけど、計画内の前線にある補給地の巡察も兼ねたものになるらしい」
「となると外世界への境界線沿いあたりに向かうわけか」
外側へ向かえば向かうほどに治安が悪くなっていくのが、俺達が生きる世界の常である。そこをさらに飛び出すのは飛空開拓計画の骨子とは言え、それなりに緊張感を必要とする任務であることは分かる。
「ある意味じゃあ、僕らの目的により近づくことになるわけだよ」
小声で囁く弟を見て、その通りだと頷いた。等々俺達はここまで来たのだ。




